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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第21章 鳴き声の山脈にある遺跡

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代わりに入った遺跡の中

 遺跡調査先遣隊から犠牲者が出た翌日、ゴドウィン副隊長によって朝食後に全員が呼び集められた。


 昨晩の魔物の襲撃を撃退した疲労を感じつつ、ユウも相棒と共に副隊長の近くに立つ。


「全員、よく聞くように。昨日、遺跡で不幸な事故があったために我々は大切な仲間を失った。しかし、遺跡の調査が終わっていない今、このまま町へ戻るわけにはいかない。仲間のためにも我々はこの調査をやり遂げなければならないのだ。よって、調査は現状を維持したまま続行する」


 調査のやり方に変化があると思っていたユウは何もないことに驚いた。残り2日だからいけると考えているのかもしれないが、実際のところはわからない。ただ、大丈夫なのかという不安はあった。


 しかし、やはり大丈夫ではなかったようだ。ゴドウィン副隊長の言葉が終わるとロレンソが声を上げる。


「副隊長、オレたち熱い月(ルナカリエッティ)は野営地の警護に回してくれ」


「ロレンソ、どうした?」


「遺跡に行ってもやらされることが人足と同じことじゃ面白くねぇんだ。あんたら、冒険者と人足の区別がついてねぇだろ。石や土砂を積み上げろとか、荷物を運べだとか、そんなんばっかじゃねーか。特別報酬が期待できる仕事なんて、ちっとも回ってこねーじゃねーか」


「遺跡での作業は幅広いと最初に説明したとき、お前も同意しただろう」


「それで人足の仕事しか回してこねーってのはどういうことだよ。こっちは警備の仕事がない休憩の時間を使わされてるんだぞ」


「その休憩の時間も我々は報酬を支払っているんだ。だから我々がその休憩時間を使っても問題ないだろう」


「おい、キース、なんでお前らは何にも言わねーんだ? オレたちゃ冒険者だぜ?」


「こっちにはこっちの都合があるんだよ」


「何だよその都合って!?」


「うるせーな、お前には関係ねーよ」


 目を剥いて声を上げるロレンソに対してキースは不機嫌そうにそっぽを向いた。いつもならばここから言い合いになって口論へと発展する。しかし、今回はそうならなかった。


 ため息をついたゴドウィン副隊長がロレンソに話しかける。


「わかった。そんなに言うなら野営地の警護に回そう。古鉄槌(オールドハンマー)と交代させる。そして、今日1日野営地周辺の穴掘り作業をしろ」


「なんだと!?」


「昨晩も魔物の集団を撃退したが、穴は多い方がいいことはお前も知ってるだろう」


「待てよ、穴はあれで充分だろ!?」


「今晩の戦いをより有利に進めるためにも対策はしっかりしておくべきだ。それに、あの穴は野営地に残る人足と冒険者が掘って更にその数を増やしてる。お前たちだけがしなくていい理由などない」


「くそ!」


 副隊長の言葉を聞いたロレンソは歯ぎしりした。しかし、ゴドウィンの主張は正論なので言い返せない。


 結局、古鉄槌(オールドハンマー)熱い月(ルナカリエッティ)は配置換えとなった。ユウとトリスタンは突然のことに戸惑うが何も言わずに指示に従う。


 朝からちょっとした波乱があったが、それも収まると調査班は野営地を出発した。今回はダーレン特別隊員とゴドウィン副隊長以下、人足4人、冒険者6人である。この中にはユウとトリスタンの他、人足にはジャクソンも入っていた。


 遺跡に到着するとユウは以前1度だけ見た遺跡の露出部分を目にする。傾斜のきつい山の斜面を少し登って入口の上の部分を見上げると、前より大きく削れていることに気付いた。


 人足が先行して遺跡に入り篝火(かがりび)を設置していく。その後に続いてユウたちも遺跡の奥へと入った。


 崩れた壁からの辺りから大量に流入した土砂の坂を下りると、人工物らしいという以外に何もわからない床の上に立つ。そのまま奥へと進むとすぐにやたらと天井の高い部屋に着いた。別の壁には先に続く通路があるが土砂で埋まっていて先に進めない。


 そうして更に別の壁へと目を移すと約2レテム程度まで積み上げられた石や土砂があったわけだが、初めて中に入ったユウとトリスタンは部屋の床一面を埋め尽くす魔物の白骨を目にしてその場に立ち尽くした。


 呆然としたトリスタンがつぶやく。


「話には聞いていたが、実際に見るとこれは」


「オレも初めて見たときはそんな感じだった。慣れるしかないよ」


 準備作業の途中ですれ違いざまにジャクソンがトリスタンに声をかけた。


 その隣で衝撃から立ち直りつつあるユウが高さ2レテム程度の台の上に梯子が立てかけられるのを眺める。梯子のてっぺんから先も壁が続いているようにしか見えない。だが、あの辺りに秘密の入口があるのだろうとぼんやり思う。


 そうしていると、ゴドウィン副隊長が全員に集合するように呼びかけた。その隣にはダーレン特別隊員も立っている。


「全員集まったな。今日も昨日と同じく魔法陣の調査を行う。冒険者は2人一組になって遺跡の入口を一定時間ごと警護、人足はダーレン特別隊員の指示に従ってその作業の補助をするように。私はこの場で待機する。何かあればすぐに報告しろ」


 指示が下ると人足と冒険者はそれぞれ動き始めた。ダーレン特別隊員は例の梯子を登って秘密の入口に入ってゆく。その姿を見ていたユウは、まるで壁の中に入り込んだかのような様子に軽い衝撃を受けた。


 魔法の一端を目撃したユウはトリスタンと共に遺跡の入口に立った。初めてこの遺跡にやって来たときと同じ場所である。


「トリスタン、遺跡の中、すごかったね」


「床一面に魔物の骨っていう絵面は衝撃的だったな。どうしたらあんな風になるんだろう」


「あんまり知りたくないなぁ」


「でも、あの壁の上にある秘密の入口もすごかったな。ダーレン特別隊員がまるで壁に飲み込まれたみたいに見えたぞ」


「僕も。あの奥に魔法陣があるんだよね」


「らしいな。確か、ユウも見たこと、どころか使ったことがあるんだよな」


「勝手に転移したり転移させてもらったりだから自分で動かしたわけじゃないけれどね」


「怖いなぁ」


 冷たい風に曝された2人は身を縮めながら雑談に興じた。辺り一面に遮る物はほとんどなく、動くものも見当たらない。


 そんな周囲を見ながらユウは話を続ける。


「今回の魔法陣、もし魔物がそこから現れたんだったら、転移魔法陣ってことになるよね」


「そうだな。それがどうかしたのか?」


「ということは、転移元があるってことじゃない。しかも魔物がたくさんいる場所で、あっちの転移魔法陣はちゃんと動いていることになるんだ」


「確かにそうだな。でもユウ、一体何が言いたいんだ?」


「調べるのはまだ良いけど、あの魔法陣をこっちから動かしたらまずいんじゃないかって思うんだ」


「ダーレン特別隊員が動かすと思うか? いや、そもそも動かせると思うか?」


「わからない。そう簡単に動かせるものじゃないみたいだけど」


 話をしながらユウはかつてであった古代人のことを思い出した。とある都市の機能を維持する専門家であったが、その彼が今の時代では魔法陣を使うのに相当苦労していたのだ。いくら優秀な人物とはいえ、現代のほとんど何も知らない人間がおいそれと起動させられるとは思えない。


 ただ、それでも不安は拭いきれなかった。何らかの原因で魔法陣が起動してしまうことがあるからだ。実際に体験した身としては気が気ではない。


 そんなユウの心情とは裏腹に遺跡で過ごす時間は静かなものだった。やることは遺跡の入口の警護だけで、あとは魔物の白骨でいっぱいの部屋での休憩である。ジャクソンを含めた人足がたまに梯子を上り下りするのが大きな変化だった。


 たまに休憩の時間が合えばユウたちはジャクソンとも小声で話をする。


「ジャクソン、上の部屋ってどうなっているの?」


「なかなか大きな部屋に繋がってるんだ。それで、その部屋のど真ん中にでっかい魔法陣っていうのが床にあったよ」


「その魔法陣ってどんな感じだったの?」


「どんなって言われても、うーんそうだな、いくつか円が描いてあって、その間に何か模様みたいなのがびっしりと描いてあったんだ。ダーレン特別隊員はそれを見たりたまに考え込んだり羊皮紙に何か書いていたりしていたかな」


「今にも動きそうな感じはした?」


「それはなかったよ。ただの変な絵だって言われたらそう思えるくらいのものだった」


 思い出しながらしゃべるジャクソンを見てユウはこんなものかと思った。何も知らなかったときの自分もそうだったので仕方ないと納得する。


 調査はこのまま何事もなく進んだ。警護と休憩を繰り返すという点だけを見れば楽な作業である。今頃穴掘りを延々と続けているロレンソたちがこのことを知れば悔しがることは間違いなかった。


 そうして、そろそろ空が朱くなろうかという頃、この日の調査も終わりが見えてきた。人足たちも徐々に片付けを始める。


 今日は1日何事もなく終わりそうなことにユウとトリスタンは安心した。

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