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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第21章 鳴き声の山脈にある遺跡

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遺跡調査先遣隊の内情

 遺跡調査先遣隊がフォテイドの町を出発する日がやって来た。目的地は前回調査できなかった遺跡である。必要な物資はすべて揃えられており、当日の朝は出発の準備のみだ。


 町の北の郊外にある野営地は日の出辺りから騒がしい。そんなところへユウとトリスタンはやって来た。約束の通り二の刻の鐘が鳴るまでまだ間がある。


 天幕の外に出ていたゴドウィンを見つけた2人は近寄った。副隊長が人足への指示を終える隙を狙って挨拶をする。


「おはようございます。ゴドウィン副隊長」


「来たか。お前たちはこれからキースたちと組んで遺跡調査先遣隊の先頭を歩いてもらう。魔物が来たら蹴散らすんだ」


「わかりました。それまでは待機ですか?」


「そうだ。荒ぶる雄牛(レイジングブル)はあそこにいる。顔を見せておけよ」


 顎をしゃくられた先をユウたちが見ると確かにキースたち4人が立っていた。今回、古鉄槌(オールドハンマー)以外のパーティはどこも4人組なのでメンバーは全員揃っているのがわかる。


 初対面の印象が悪いので関わりたくない気持ちの強い2人だったがそういうわけにもいかない。近寄って挨拶をする。


「おはようございます。先遣隊が出発すると一緒に先頭を歩くことなりました」


「昨日も言ったが、こっちの仕事の邪魔はするなよ」


「お互いに頑張りましょう」


 取り付く島もないキースの態度にユウは内心でため息をついた。とりあえず返事をして距離を取る。


「はぁ、これ不安だなぁ」


「とりあえず、自分たちの身を守るのが最優先だな。仕事は最小限って感じにすれば何とかなるんじゃないか」


「せっかくの遺跡調査なのに、わくわくする余裕がないっていうのが残念だよ」


「俺もだ。この様子だと、3度の飯と日当を稼ぐのが目的になりそうだな」


「はは、2人とも大変だねぇ」


 突然背後から声をかけられたユウとトリスタンは振り向いた。すると、黄土色の髪に不細工な顔をした小柄な男が笑いながら立っている。人足のようだが、ユウはこの小男をどこかの酒場で見たことがあった。


 そんなユウの内心とは関係なく、小男とトリスタンの会話が始まる。


「お前誰だよ?」


「今回の先遣隊で人足をしているジャクソンってんだ。海を渡ってここまで来たけど、今回は大変だよ、何しろ数え切れないくらいの魔物に襲われたんだからさ!」


「その話は聞いている。お前も前回の調査に参加していたのか」


「してたよ。あれはひどかったねぇ。冒険者がどんなに頑張って倒してもそれ以上に魔物がやって来るんだから」


荒ぶる雄牛(レイジングブル)が逃げたとか後退したとかって話を聞いたんだが、実際のところはどうだったんだ?」


「後ろに下がったのは確かだったけど、あれが逃げたのかどうかはオレにはわからないね。ただその後、熱い月(ルナカリエッティ)の連中が逃げようとしたのは知ってるけど」


「え、あいつらも逃げようとしていたのか?」


「そうだよ。だからオレたちももうダメだって思って逃げたんだから」


 意外な話を聞いたトリスタンが目を見開いた。ユウもジャクソンに注目する。


「でも、今の話は内緒だよ。オレがしゃべったって知ったら何されるかわかんないからね」


「わかった。ところで、人足の方はどうなんだ? 俺たち冒険者みたいにいざこざはあるのか?」


「冒険者ほどひどくはないよ。大体、そんなことしてる暇もないしね。1日中、あれをやれこれをやれって指示されて働いているんだし」


「そりゃそうだな。でもそうなると、今は大丈夫なのか?」


「出発の準備が終わって休憩なのさ。次の鐘の音が鳴ったら荷物を抱えて歩くよ。あんたらみたいにね」


「それを聞いて気付いたんだが、あのキースたち、荷物らしき物を周りに置いていないよな? どこに置いているか知っているか?」


「あいつら戦うための装備以外は持っていないよ。いらない物はこの町の野営地に置いてるし、いる物はオレたちが背負ってるんだからね」


「いいな、それ」


「海を越えてここまでやって来るからって契約の条件に入れたらしいよ」


 キースたちがそんな条件を契約に盛り込んでいたことにユウとトリスタンは驚いた。しかし、荷物の安全性に一抹の不安が残るのは確かなので実行するかは微妙なところだ。


 そうやって空いた時間に雑談をしていると二の刻の鐘が鳴った。その直後にゴドウィンから集合の声が上がる。今回調査に参加する者たちが副隊長の元へ集まった。


 遺跡調査先遣隊はゴドウィンの指示に従って隊列を組んだ。先頭はユウとキースのパーティ、その後ろにアルバート、ハドリー、ダーレン、ゴドウィンの指導部4人、更にその背後にジャクソンたち人足が立つ。ロレンソたち現地の冒険者パーティは指導部の左右と人足の後ろに配置された。


 隊形が整うとゴドウィンの号令がかかって全員が歩き始める。先頭から順番に鳴き声の山脈目指して進んだ。


 初日は平原と山脈の麓を歩くが、この辺りに獣や魔物はあまりいない。そういう意味では歩くだけなので楽である。しかし、さえぎるものがない場所なので寒風に曝されて寒い。4月も半ばになろうとする時期だが気候はようやく春先という感じなのだ。


 先頭を歩くユウとトリスタンはたまに話をしながら前に進む。キースたちとは会話はまったくない。あちらはあちらで雑談をしながら歩いていた。


 2日目からは鳴き声の山脈へと入る。あの動物のような鳴き声がする風の音を聞きながらの行進だ。


 山脈に入ってからの隊形は一列縦隊に変化した。それにより冒険者パーティも指導部と人足を挟んで前後に分かれる。平地を歩いていたときに調査隊の右側を守っていたパーティが前に配置換えとなった。残りのロレンソたちは最後尾である。


 ここからは魔物の来襲が多くなってきた。見慣れた魔物がたまに突っ込んでくる。前方からやって来ることが多いのでユウたちが対処することが多い。見知った魔物ばかりなので戦うことは難しくなかった。


 ただ、魔物の駆除をしていてひとつ気になることがあった。キースたち荒ぶる雄牛(レイジングブル)の動きがどうにも悪く思えるのだ。手を抜いているわけでもないようで、足場の悪さと魔物の数に苦戦している。


「ユウ、あいつら口と態度の割に腕はもうひとつじゃないか?」


「うーん、僕もそう見える」


 駆除が終わって部位を回収しているときにユウはトリスタンから小声で話しかけられた。口にすると更に残念な感じがする。一方、ロレンソたち現地の冒険者パーティは問題があるようには見えなかった。


 これを機にユウは遺跡調査先遣隊の人々を改めて見直してみる。すると、3日目の夕方に遺跡近くにたどり着くまでにある程度のことがわかってきた。


 隊長であるアルバートは良くも悪くも純粋で周囲の機微に疎い。遺跡の調査には熱心だが隊員以外の人足や冒険者のことはあまり気にしていないようである。


 隊員のハドリーはアルバートの助手のような存在だが、それ以上にアルバート個人に対して従順なように見受けられた。また、ダーレンをやや苦手としているようである。


 そのダーレンは特別隊員という少し変わった立場で、アルバートとは別の研究室からやって来たらしい。アルバートには一定の敬意を払っているが他には興味を示さない。


 指導部で最も接する機会のあるゴドウィン副隊長は上記3名とは一定の距離を置きつつ、先遣隊をまとめている。また、人足たちには好かれていた。


 これらのことを知り合ったおしゃべりなジャクソンの評価を交えて知ってゆく。


 一方、冒険者の方は出発前に見聞きした話を補強する材料が増えただけだった。


 キースたち荒ぶる雄牛(レイジングブル)は現地採用組のロレンソとユウを田舎者と見下している。特にロレンソは前回の調査の件もあって相当嫌っていた。それはロレンソたちも同様で、他の2パーティと一緒にキースを腰抜けと馬鹿にしている。


 目的のためには反目する間柄でも一時的に組んで何かを成すということがあることはユウも知っていた。しかし、いざその中に入ってみるととてもやっていけるようには思えない。


 鳴き声の山脈に入ってからも先頭を歩きづづけたユウたちだが、古鉄槌(オールドハンマー)が最先頭を歩くときは頻繁に指導部から指示があった。遺跡の場所を知らないので進路の調整をされるのだ。その通り歩いていると途中から見覚えのない場所を進んでいることに気付く。


「前に北を目指したときは違うところに向かっていたみたいだね」


「そうだな。どうりで遺跡が見つからなかったわけだ」


「ということは、これから魔物がたくさん襲ってくるわけだね」


「きつい戦いになるかもな。対処できればいいんだが」


 白い息を吐き出しながらユウとトリスタンは歩き続けた。すると、前方から魔物がやって来るのを目にしたので武器を手にする。


 背後に魔物の来襲を告げたユウはトリスタンと共に魔物の駆除を始めた。

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