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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第21章 鳴き声の山脈にある遺跡

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同行者との顔合わせ

 鳴き声の山脈の遺跡を調査する先遣隊にユウとトリスタンは参加することになった。遺跡への出発は採用された日から3日後である。集合は当日の二の刻までだ。時刻としては早いが、セリド島においてこの時期の日の出は二の刻よりもはるか前である。決して無茶とは言えなかった。


 ただし、一応顔合わせをしておく必要がある。最低限先遣隊の中核になる隊員に知られていないというのはさすがにまずい。そこで、2人は前日に町の北の郊外にある野営地へと向かった。


 2日前と違って天幕のある野営地はさすがに忙しそうだ。人足たちが荷物や道具をまとめている。


 そんな中を通り過ぎた2人は最も大きな天幕に入った。中には4人の男たちがおり、アルバートとゴドウィン以外に知らない顔が2人いる。


 天幕に入ったユウたちに全員が顔を向けた。その中で声を上げたゴドウィンが立ち上がる。


「よく来た。アルバート隊長と私については既に知っているから省略して、他のお二方を紹介する。こちらが隊長と同じ研究室に所属するハドリー隊員だ。そして、こちらがネスター大学の魔術研究室に所属する魔術使いでいらっしゃるダーレン特別隊員だ」


 くせ毛の童顔の青年がハドリー、神経質そうな顔の壮年がダーレンだとユウたちは紹介された。2人が自分たちも名乗ったが反応はない。


 顔を戻したハドリーがアルバートと話し始め、ダーレンも無表情なままそれを眺める。紹介の内容と隊長の態度から貴族であることにユウは気付いた。


 そんな3人をよそにゴドウィンが天幕を出ようとするのをユウたちは見る。目でついてくるように伝えられたので後に続いた。


 向かった先は小さな天幕の前である。そこに4人の男たちが立っていた。風貌からして全員冒険者であることがわかる。


「よし、これで全員揃ったな。明日から我々遺跡調査先遣隊は目的地に向かって出発するが、その前に冒険者同士で顔合わせをさせるために各パーティリーダーを集めた。それぞれ自己紹介するように」


 副隊長のゴドウィンが集まった冒険者たちに命じた。しかし、反応が悪い。


 そういえば場の空気が悪いとユウは感じた。4人のうち2人は前にどこかの酒場で見たことがある顔だ。あのときこの2人は何と言っていたのか、今となっては思い出せない。


 このままでは埒があかないと判断したユウが口を開く。


「今回、この先遣隊に参加することになったユウです。古鉄槌(オールドハンマー)のリーダーをやっています」


古鉄槌(オールドハンマー)? 聞かねぇ名だなぁ。おめぇ、よそ(もん)か?」


「ええ、先月この町に来ました。何度か鳴き声の山脈で魔物の駆除もやっています」


「よそ(もん)がちょっと駆除したくらいで何いい気になってやがんだ」


「田舎者同士でケンカしなくてもいいだろ。仲良くしてろよ」


「てめぇ、またナメた口ききやがって! 最初に泣きながら逃げたヤツは黙ってろ!」


「ああ!? 泣いてなんかいねぇよ、田舎者が!」


 自己紹介を促すために先陣を切ったはずのユウはまさか口喧嘩の口火を切ることになるとは思いもしなかった。一体何がどうなっているのかわからずに思わずゴドウィンへと顔を向ける。すると、こちらは精悍な顔を歪めていた。やはり良くないことであるらしい。


 顔を近づけて睨み合う2人に対して、残る2人のリーダーは焦げ茶色の髪をした彫りの深い顔の男を応援している。その声援からロレンソだとわかった。もう一方の喧嘩相手は罵声からキースだと判明する。先遣隊と同じ都会からやって来たらしい。


 人生で最もひどい自己紹介となったユウは渋い顔をした。仲裁をできるわけでもないので黙っているしかない。


 口論から互いに胸ぐらを掴んだところでゴドウィンが動いた。キースとロレンソの間に割って入る。


「そこまでだ。お前たちは我々遺跡調査先遣隊に雇われていることを忘れるな」


「ちっ、わーってるよ」


「けっ、ムカツクぜ。なぁ、挨拶はもう終わったんだろ。オレたちは行くぜ」


 さすがに副隊長には逆らえないらしいキースとロレンソは引き下がった。しかし、不機嫌そのものといった表情のロレンソは他の2人を伴ってその場を去る。


 とりあえずそれ以上の争いは避けられたわけだが、その場はひどい雰囲気のままだった。残っているキースからユウたちへの敵意が残っているからだ。


 そのキースがユウを睨む。


「お前らみたいな田舎者とつるむ気はないからな。せいぜい仕事の邪魔はするなよ」


 吐き捨てるように言葉をユウに投げつけたキースが踵を返した。こちらもこの場を立ち去る。


 残されたユウとトリスタンは半ば呆然としながらゴドウィンへと顔を向けた。初対面でいきなりな対応をされたユウが問いかける。


「さすがにこの事情は話してもらえますよね」


「キースのパーティは我々遺跡調査先遣隊が結成された都市で雇用してここに連れてきたのに対して、ロレンソのパーティはこの町で現地採用したパーティだ。それもあって元々反りが合わなかったんだが、先月魔物の集団に襲われたときの対応で仲が決定的に悪くなってな」


「さっきのロレンソの言い方で何となく想像はできますが、襲われたときの対応というのはどんなものだったんです?」


「あのときは夜中だったので私や指導部の方々は誰も気付かなかったんだが、キース本人が言うには多すぎる魔物に対処するため人足を守りながら後ろに下がろうとしたそうだ。しかし、結果的にはそれが他の者たちからは魔物から逃げるそぶりに見えたらしく、その行動がきっかけで遺跡調査先遣隊はその場を退去することになったんだ」


「本当のところはどうなのか確認はできないわけですか」


「あのときは相当混乱していたからな」


 言いにくそうにしているゴドウィンの説明にユウは眉を寄せた。言い分は理解できたとしても、その後何の対策もしていないように見えるのはひどい。


 表情をそのままにユウは質問を続ける。


「これ、何もしないままだと次の調査で支障が出てくるんじゃないですか?」


「我々もそこまで選べる立場ではないんでな、手持ちのもので何とかやり繰りしないといかんのだ」


「あの4人のパーティはみんな前の調査に参加していたんですか?」


「いや、最初はキースの荒ぶる雄牛(レイジングブル)とロレンソの熱い月(ルナカリエッティ)だけだった。他の2パーティは先日採用したばかりだ」


「なるほど、現地採用された3人の仲が良いということなんですね」


「それもあるが、ロレンソに呼び集めさせたパーティなんだ」


「え? 募集を見て来たわけじゃないんですか?」


「そうだ。あの3人は知り合いだと聞いている」


 予想以上に先遣隊の募集事情が悪いことにユウは顔をしかめた。気になることがあったのでその疑問をぶつけてみる。


「これは僕が言うべきことじゃないですけれど、キースのパーティを外したら雰囲気は良くなると思うんですけれども」


「キースたちは私たちの都市で雇った冒険者パーティだ。扱いを間違えれば都市に帰った後に仲間に悪い噂を広められてしまいかねない。そうなると、今後都市で冒険者を雇うののに支障をきたしてしまう」


「その前にここで死にかねませんよ?」


「だとしてもだ。私だけでなく、その関係者にも影響がある問題だからな」


「だったら、逆にロレンソを外すのはどうなんです?」


「他の2パーティも辞めかねない。それは今困るのだ」


 遺跡調査先遣隊の事情により冒険者たちの関係はどうにもならないことを知ってユウは肩を落とした。事前にわかっていたら考慮していたことだが今更である。


 話を聞いたユウが頭を抱えると、今度はトリスタンが前に出てきた。そうしてゴドウィンへと疑問をぶつける。


「こんな状態でまともにやっていけると思っているんですか?」


「やるしかない。冒険者の都合で遺跡の調査ができませんでしたなどという言い訳は通用しないからな」


「けどですよ、野営のときの見張り番なんてどうするんです? 遺跡の側で野営して魔物の集団にまた襲われたときは? パーティ同士が連係できないと無理でしょう」


「それはこちらで考える。だから、指示通りに従って行動してくれればいい」


「本当に大丈夫なのか」


 どうにも信じ切れない様子のトリスタンがゴドウィンに疑いの目を向けた。ユウとしても相棒と気持ちは同じだが、依頼を引き受けた以上は指導部や上官と揉めるのは良くない。


 当面はこれ以上どうしようもないと考えたユウは上官と相棒の間に割って入る。


「わかりました。その点はお任せします。ただし、僕たちにそのしわ寄せが来ないようにしてくださいね」


「善処しよう」


「それじゃ僕たちは宿に戻ります。明日の朝、二の刻までにやって来ますね」


 ユウは手早く挨拶をするとトリスタンを促した。そして共に踵を返す。


 思った以上に問題だらけであることがわかってユウは頭を痛めた。

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