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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第21章 鳴き声の山脈にある遺跡

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遺跡調査先遣隊の面談

 遺跡の近くだと思われる地域で活動したユウとトリスタンは予定通りフォテイドの町に帰ってきた。魔物の集団に襲われても何とかやっていけるという自信を持つ。


 そうして町へ戻った翌日、2人は冒険者ギルドへと向かった。すぐにあのおしゃべりな受付係に声をかける。


「おはようございます。調査隊の募集はまだありますか?」


「やる気になった? いいねいいね」


「その様子だとまだ募集しているんですね」


「そりゃここのギルドの調査依頼を引き受けてもらったからね。簡単に諦めてもらっちゃ困るさ」


「指名依頼なんかは出さないんですね」


「そろそろ上も検討しているみたいだよ。いい加減埒があかんって怒ってたんだ」


 相変わらずの受付係にユウは内心で呆れつつも調査隊への紹介状を書いてもらった。そこには調査隊ではなく、遺跡調査先遣隊と記載されている。ちらちらと聞いたことのある言葉に一瞬目を留めたが、トリスタンに促されてすぐに冒険者ギルドから出た。


 向かう先は受付係に教えてもらった宿だ。この辺りではお高い宿泊施設である。宿屋街でも中心に近い方に集まっていた。


 その建物を1軒ずつ見ながらユウが隣の相棒に話しかける。


「トリスタンは高い宿に泊まったことってあるの?」


「あるぞ。小さい頃にだけどな。忘れていると思うから言うが、俺って一応貴族だぜ」


「ごめん、忘れていたよ。でもだったら納得かな」


「高級店なんてどこも青天井なもんだが、今の俺たちだってそれなりの宿に泊まろうと思えば泊まれるぞ」


「それはわかっているけれどね。単に泊まるっていうのは意味がないじゃない」


「うん、ユウにはこういう宿は向いていないな」


「なんでだよ」


 いきなり馬鹿にされたように思ったユウは口を尖らせた。しかし、相棒から返ってくるのは呆れた顔である。とても理不尽に思えた。


 軽く言い合いをしながらも2人は目的の宿を見つけた。正しいことを確認すると中に入る。すると、受付カウンターにいる店主らしき人物に嫌そうな顔をされた。ユウはその理由がわからなかったが、原因に思い至ったトリスタンに一言身なりと耳打ちされる。全身が薄汚れた毛皮製品で身を固め、これまた汚れた背嚢(はいのう)を背負っているのだ。どこぞの地方の蛮族と間違われるのも仕方ないと顔を引きつらせる。


 それでも引き返すわけにはいかなかった。不機嫌な顔の店主に冒険者ギルドの紹介状を見せながら依頼主の隊長への取り次ぎを頼む。不信感丸出しの店主が仕方なくという態度で取り次ぎをしてくれた。しかし、戻って来た店主からは町の北の郊外にある野営地に行くよう伝えられる。


「え、ここじゃないんですか?」


「私にそんなことを言われても知らん。さっさと出て行ってくれ」


 冷たい対応で追い出されたユウとトリスタンは仕方なく教えられた郊外へと向かった。すると、確かにいくつかの天幕がある。近くを通りかかった人足に来訪理由を告げると最も大きな天幕に案内された。


 中に入った2人は意外にも温かいことに驚きつつ、2人の人物に目を向ける。1人は金髪のやる気に満ちた顔の青年だ。着ている毛皮製品からも身分が高そうに思える。もう1人は精悍な顔つきでがっちりとした体格の男だ。こちらは熟練の冒険者といった見た目である。


 案内してくれた人足が天幕の外へ出ると4人だけになった。座っている青年がユウたちに声をかける。


「応募してきた冒険者の2人だね。私はアルバート、バビントン男爵家の者だ。ネスター大学のエドワード・ディズリー教授の考古学研究室に所属していて、今回の遺跡調査先遣隊の隊長を務めている」


「私はゴドウィンだ。この遺跡調査先遣隊の副隊長を務めている」


 隊長からの視線を受けて隣に立っている副隊長が短い自己紹介を告げた。それに応じてユウとトリスタンも自己紹介をする。


 全員が何者かわかったところで再びアルバートが口を開いた。物腰は常に柔らかい。


「このフォテイドの町の冒険者ギルドからの依頼を受けて、今回私が隊長を務める遺跡調査先遣隊が鳴き声の山脈にある遺跡を調査することになった。そこで先月、遺跡の元へと向かったわけだけど、残念ながら調査がうまくいかず今回再調査ということになった。今は次の調査に向けての準備を整えつつ、護衛の冒険者を集めているところだよ」


「依頼の内容は冒険者ギルドに提出した通りだ。冒険者は隊員の護衛と魔物の駆除を主目的とする。日程は10日間を予定で、往復の移動日が6日、調査日数が4日だ。また、日当は銅貨15枚、魔物駆除後の部位回収は許可し、更に功績ある者には特別報酬がある」


「はい、聞いた通りです」


「よし、では次にこちらの質問に答えてもらう」


 そうしてユウとトリスタンはゴドウィンからのいくつもの質問に答えた。冒険者としての実績が中心で、調査隊や探検隊の護衛任務の経験、特定の人物の護衛の経験、戦った魔物との戦歴などを問われる。これらに関して特にユウは答えられるものは答えた。


 ゴドウィンからの質問が一通り終わると今度2人からの番だ。気になることはどちらにもあった。


 最初はトリスタンがゴドウィンに疑問をぶつける。


「これは噂で聞いたんですが、先月の調査に1度失敗しているんですよね」


「前回失敗した原因は初めての遺跡に挑戦したからであり、生きている遺跡を調べる場合は珍しくないことだ。我々先遣隊側に油断はなかった。今回はその経験を踏まえた上で臨む予定だ」


「多くの参加者に死傷者が出たくらい魔物の数は多かったそうですが、実際どのくらいの魔物に襲われたんですか? また、魔物の中で特に強いものはいましたか?」


「前回の調査で多数の負傷者が発生したのは確かだが死者はいない。我々が一旦退去したのは、予想以上の魔物の数に対応仕切れなかったからだ。尚、正確な数は夜であったために不明であり、魔物の中で特に強いものがいるという報告は受けていない」


「ということは、数に対応できれば何とかなると?」


「その通りだ。冒険者の数を増やして対処と考えている」


 回答に若干不明瞭な部分があるものの、トリスタンは神妙な面持ちでうなずいた。遺跡調査先遣隊はあくまで冒険者の数を増やすことで対応できると考えているようだ。


 次いでユウがゴドウィンに問いかける。


「日当が1日当たり銅貨15枚とあったんですけれど、冒険者ギルドで聞いたら普通は10枚くらいが相場らしいですよね。どうして高いんですか?」


「日当についてはこの地での魔物駆除の平均報酬額や今回の仕事の難易度から計算している。なので、高くも低くもなく妥当であると考えている」


「特別報酬があると聞きましたが、何をしたらこれに該当するんですか?」


「特別報酬については、先遣隊に成果をもたらすかあるいはそのきっかけを与えた場合に支払うことになっている」


「そうなると、例えばたくさん魔物を倒しただけでは特別報酬にはならないんですか?」


「遺跡に関することでなければ評価対象にならない印象が強いのは確かだ。しかし、魔物の駆除に関しては日当に難易度分が既に含まれており、更には魔物駆除後に部位回収も許可している。なので、これで充分であると考えている」


 説明を聞いたユウは考えた。日当に関しては問題ない。また、特別報酬については冒険者にどれだけ関係があるのかと内心で首をひねった。遺跡内部で何か作業をしていて重大な発見をするくらいしか思い付かない。


 後は遺跡内部がどれだけ危険かだが、これは相手方もまだ手を付けていないので答えられないことだ。そうなると、夜中に遺跡から魔物が出てきた原因もわからないままだろう。


 一通り質疑応答が終わると天幕内に沈黙が訪れた。しかし、すぐにアルバートがそれを破る。


「ゴドウィン、どんなものかな?」


「発言の内容に問題はありません。後は実際の実力がどんなものかでしょう。2人とも、今から外で実技試験をする。それによって採用するかを決める」


 告げられたユウとトリスタンはうなずくと外に出た。次いで出てきたゴドウィンから木剣を渡されて順番に相手をすると伝えられる。


 最初はユウがゴドウィンと対戦をした。久しぶりに剣を握ったが使い始めるとすぐに感覚を取り戻す。しばらく戦った末に合格した。次いでトリスタンが対戦をする。こちらは自分の得意な武器なので動きが滑らかだ。問題なく合格した。


 天幕から出てきて観戦していたアルバートにゴドウィンが上申する。


「私は採用しても問題ないと考えます。ご裁決を」


「それじゃ採用だね。後は任せたよ」


 鷹揚にうなずいたアルバートはそのまま天幕に戻った。残るゴドウィンがこれからの指示を2人に伝える。


 こうしてユウたちは遺跡調査先遣隊に参加することになった。

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― 新着の感想 ―
しかしユウの好奇心はすごいもんですね 帰らずの森の遺跡調査で当時組んでたブレント含めて自分以外の調査隊員が全滅するの目の当たりにしたのにまた遺跡調査に行くって中々できない
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