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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第21章 鳴き声の山脈にある遺跡

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魔物の脅威の程度

 フォテイドの町の人々は全体的におしゃべりな人が多いらしく、ユウとトリスタンが知りたかった調査隊の話をかなりまで教えてくれた。それは冒険者ギルドの受付係も例外ではなく、自分から有用な話を伝えてくれる。


 それによると、海の向こうからやって来た調査隊の評判は良くないらしい。野営中に多数の魔物の集団に襲われて逃げ帰ってきた話が町に広がって、思うように冒険者を集められないでいるそうだ。


 普通ならそんな話に2人も乗ろうとはしないが今は迷っている。このまま調査隊が冒険者の数を揃えられずに調査中止になるのではと危惧しているのだ。中止になって自分たちだけで遺跡に行くくらいなら調査隊に入ってしまおうかと考えているのである。


 ただ、冒険者が多数いたにもかかわらず逃げ帰ってきたという点が2人は気になった。油断して魔物の集団にやられたのか、その場合指導部の油断かあるいは配下に問題があったのか、他にも対応できないくらい魔物の数が多かったのか、それとも極端に強い個体がいたのか。これらはわからずじまいだ。


 聞いた話からある程度推測はできるが、結局は直接関係者に話を聞くのが一番である。ただし、今のユウたちは部外者なのでそういうわけにもいかない。応募して面会したときに質問すればある程度答えてはくれるだろうが、紹介状をもらって面会をしておいて話を聞きに来ただけですというのでは相手も納得しないだろう。


 2人は一旦受付カウンターから離れた。打ち合わせのできるテーブルへと寄る。


「ユウ、どうする?」


「うーん、難しいよね。自分たちだけで遺跡に行けるのなら迷わないんだけれど」


「夜中に襲ってくる魔物の集団って実際どんな程度なんだろうな?」


「それがわかれば一番なんだけれど。調査隊の募集、どうしようか」


「ただ、このまま生活費を稼ぐ日を続けるっていうのもな。それを考えるとあの日当の銅貨15枚というのは魅力的に見えて仕方ないぜ」


「冒険者の集まりが悪いから引き上げたんだと思う。酒場で色々と話を聞いていたけれど、元々あんまり歓迎されていなかったみたいだからね。そこで更に調査失敗って話が重なったら」


「だよなぁ。3度の飯は用意してくれるってあったから、それ目的でもいいんじゃないかって思えてきた」


「だったらこうする? 1回僕たちだけで遺跡の近くまで行ってみない?」


「遺跡の近く? 遺跡じゃなくてか?」


「そう。今までは調査隊に遠慮して北の方にはいっていなかったから、魔物の駆除活動をしにあの辺りに行くんだ。そのとき、どの程度魔物が現れるかを実際に見て、行けるなら遺跡を探して中に入ってみようと思うんだ」


「しかし、遺跡の正確な場所なんて俺たちは知らないぞ。酒場で教えてもらえるような情報でもないだろうし」


「ひとつ案があるからそれを試してみよう。駄目でも現れる魔物の数がわかればそれで良しってことにすれば良いから」


「もし遺跡に入れて満足したらそれで終わり、満足できなかったら調査隊に入るってわけか。遺跡にたどり着けなかった場合はどうするんだ?」


「数が多すぎたり、手に負えない魔物がいたときは現れたときは調査隊に参加しないつもりだよ」


「そのときは、俺たちが死にそうだな」


「たぶん大丈夫だと思う。調査隊の人たちは逃げ帰ってきたけれど、それって見方を変えたら逃げ帰れる程度の魔物しかいなかったってことじゃないかな」


「そういえば、犠牲者が出たって話は聞かないな。ということは」


「最悪僕たちなら逃げ切れるんじゃないかと思っているんだ。だから、行っても良いかなって」


「なるほど」


 首をひねっていたトリスタンがうなずくのをユウは見た。見通しが不透明な部分はあるが、それでも何とかなるだろうと判断する。


 そうして翌日、2人は遺跡近辺を目指して町を出発した。




 一般的には春に分類される4月であるが、セリド島ではまだ冬である。位置としては大陸の北部と東部の境辺りなのだが気候は北部に近いのだ。


 そのため、ユウとトリスタンが踏み入った鳴き声の山脈には未だに雪が溶けずに残っている。さすがに降り積もることはもうほとんどないが、気候は寒く地面で足を取られるのは相変わらずだ。


 苦労の多い山脈内であるが、近頃だと悪いことばかりでもない。新たに雪が降らないので足跡が残るようになってきたのだ。もちろん人間と魔物どちらのものもだが、安全に通れる経路がわかるのは重要なことである。


 話によると遺跡があるのは町から真北に3日歩いた場所近辺だ。鳴き声の山脈の北面辺りだそうだがユウとトリスタンは詳しく聞いていない。さすがにこの情報は聞き出せなかったのだが、必要なら遺跡の位置を調べる方法はあるので今はこれで良しとしている。


 ひたすら北へと進む2人はたまにやって来る魔物を駆除しながら歩き続けた。それは2日目が終わり3日目になっても変わらない。


 誰かの通った足跡をたどるユウに背後を歩くトリスタンが声をかける。


「どの辺りまで行くつもりなんだ?」


「できれば山脈の北側に出たいと思っているんだ。1度山脈を縦断したいじゃない」


「それじゃ野営する場所はどうする?」


「山脈の北面のどこかにしようと思う。できれば誰の足跡もない場所が良いんだけど、たぶんそれは無理なんだろうな」


「使いやすい場所はみんな使っているだろうしな。新参者の俺たちがそんな都合良く自分たちだけの場所なんて見つけられないよな」


 気を紛らわせるために話をしながら2人は山脈の中を歩いた。その際、自分たち以外の足跡を注意深く探してゆく。たまに見つける足跡は人間のものだったりそれ以外のものだったりと様々だ。その中でも人間でない足跡、特に複数の生き物が通った跡がないか探す。


「夜に遺跡から魔物がたくさん出てくるなら、雪原の上に必ずその通った跡があるはずだからそれを追いかけたらいい、か。考えたな、ユウ」


「雪で散々苦労したしね。それに、他人の足跡を追って歩いていることを思い出したんだ。これと同じことをすれば良いんじゃないかって」


「さすが。お、これなんかそれっぽくないか?」


「数が少なすぎないかなぁ」


「一応追ってみようぜ」


 乗り気ではなかったユウだったが、トリスタンに促されて相棒が指摘した足跡を追いかけた。しかし、途中から雪のない場所に出くわしてしまい、それ以上追跡できなくなる。周囲に遺跡らしき建物はない。肩を落とした2人は来た経路を引き返した。


 こういうことを3日目はずっと続ける。何度か足跡を見つけたがいずれも空振りばかりだった。そうしているうちに周囲が薄暗くなってゆく。


 昼下がりからはその日の寝床を探しながら探索していた2人は、空が朱くなり始めた頃に野営できそうな場所へと移った。荷物を下ろすと地面に座る。


「駄目だったね。いけると思ったんだけれどなぁ」


「発想は悪くなかったんじゃないか? 問題は足跡が結構あったってことで」


「結局、山脈の北面まで出られなかったね。かなり追跡に時間を使ったってことかな」


「だろうな。これで今晩魔物がまったく来なかったらどうする?」


「判断に困るよね。結局普通に魔物の駆除をしただけになっちゃうし」


「もうそろそろ諦めて次に行かないか?」


「うーん、考えてはいるんだけれども」


 干し肉を取り出して食べ始めたトリスタンに呆れられたユウは言葉を濁した。心が揺らいでいるのも確かだからだ。


 結局きちんと返事をしないままうやむやとなり、夜を迎える。交互に見張り番を繰り返して暗闇の中を過ごすが、今の時期は月明かりもほとんどないので周囲はまったく見えない。こういうときに夜襲を受けると動けないので、2人は襲撃されたときのために松明(たいまつ)を備えていた。最初から点けないのは明かりで魔物を引きつけないようにするためだ。


 そうして日の出前まで過ごし、ある意味望んでいた魔物の集団の襲撃を受けることになる。薄らと明るくなってゆく中、多数の雑多な魔物が雪の中を歩きながら近づいて来た。


 飛び起きたトリスタンと共にユウはその魔物たちを迎え撃つ。上位犬鬼(ハイコボルト)豚鬼(オーク)岩蜥蜴(ロックリザード)一角牛ユニホーンバッファローなどが次々と襲いかかって来た。足の速いもの、更には雪原に隠れた窪みで蹴躓かずに進めたものから順に迫ってくる。


 結論から述べるとユウたちは対処できた。一部戦うのが面倒な魔物もいたが、逆に言うと面倒なだけでいずれも対処はできるのだ。戦いが終わった頃には2人ともそれを実感する。こうなると、後は数をどれだけ捌けるかという話だ。


 今やって来た魔物の集団が遺跡からやって来たのかユウにはわからない。しかし、なんとなくいけるのではないかと思い始める。


 日が昇る中、ユウはトリスタンに促されて魔物の部位を切り取り始めた。

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