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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第21章 鳴き声の山脈にある遺跡

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下船するにあたって

 同業者を返り討ちにするという戦果を挙げた『速き大亀』号はフォテイドの町に入港した。いつものように下船準備が慌ただしく行われる。


 暦の上では3月を迎えている現在では日中時間が急速に延びていた。2ヵ月前のほとんど2倍である。この辺りでは昼間は更に延び、この後4ヵ月程度で更に倍となるのが常だ。


 明るい時間が増えると作業がやりやすくなる。船上の船乗りたちも余裕を持って仕事に励んでいた。


 調理場にいるユウもそれは同じだ。夕食時が近い今、最後の準備に取りかかっている。


「鍋をあっちに移すぞ。いいか? せーのっ!」


 炊事担当のバシリオのかけ声と共に鍋を持ち上げたユウはゆっくりと配給場所に寸胴鍋を下ろした。一番重い作業はこれで終わりだ。後は食器の用意など細々としたことだけである。何十回とした作業なのでもはや慣れた作業だ。


 そんな動き回っているユウは椅子に腰掛けたバシリオから話しかけられる。


「お前が手伝ってくれるのもこれで終わりだな」


「そうですね。まさかここで終わるとは思いませんでしたけれど」


「ワシもだ。特別報酬が出たのは良かったが、こうなるとあの襲撃も余計なものだと思えちまうなぁ」


「一足飛びに大陸の北部へ行けると思ったんですけどね」


 残念そうな笑顔を浮かべたユウが夕食の準備を終えた。その後しばらくしてから船員がやって来たので配給を始める。この日は船員の半分が下船するので作業は緩やかだ。


 その配給作業も終わるとユウとバシリオの夕食が始まる。今晩はいつもよりスープが少し温かい。


 たっぷりのスープを食べているとユウはバシリオに顔を向けられる。


「お前、これからどうするつもりだ?」


「どうすると言われても、少し休んでから別の船を探すつもりですよ」


「まぁそうだよな。でも、この港じゃ気を付けろよ。半商半賊の港町って呼ばれてるだけあってみんな気性が荒いんだ。顔を見ただけでガンを飛ばしたって言ってくる人足もいるからな」


「えぇ」


「もっとも、お前の場合はケンカを売られても返り討ちにできるから問題ねぇか」


「進んで喧嘩をしたいとは思わないですけれどね」


 呆れた表情を浮かべるユウがスープを口に入れた。歩くだけで苦労しそうな話である。


「それと、別の船を探すって言ってるが、探し方は知ってるのか?」


「探し方ですか? 冒険者ギルドで船の仕事を探すつもりですけれど」


「そりゃそうなんだろうが、たぶんこの町の冒険者ギルドで大陸北部行きの船の仕事をくださいって言ってもねぇぞ」


「え? どうしてですか?」


「この町から直接大陸の北部へ行く船はほとんどねぇんだ。大抵はセリド海沿岸の都市に一旦行って、それから大陸の北部か東部辺境へ向かうからだよ。売り物がなけりゃ商売にならねぇだろ?」


「ああ、なるほど」


「この島から直接大陸の北部へ行きたいんなら、チュアの町で仕事を探せ。互助の街道を伝えば1週間もかからずに着くぞ」


「チュアの町ならあるんですか」


「あっちの町は東部辺境と大陸の北部を結ぶ中継拠点だからな。他の船を襲ったり襲われたりして船員の数を減らした船がたまに人を募集してるはずだ」


 うっすらと笑うバシリオにユウは顔を引きつらせた。襲われるのはもちろん、襲うのも勘弁願いたいと強く思う。あれに慣れると色々と問題がありそうだからだ。


 夕食が終わるとユウはバシリオと共に片付けを始める。これは黙々と作業を進めた。(とどこお)ることもなくすべてを終える。


 そのとき、トリスタンが調理場へと入ってきた。ユウを見つけると声をかけてくる。


「いたいた。ユウ、船長が俺たちを呼んでるそうだから行こうぜ」


「船長が? 何の用だろう」


「報酬の件だそうだ」


 要件を聞いたユウだったがそれでも理由はわからないままだった。いつもなら翌日の下船時に手渡されるものだからだ。そうは言っても自分に関わることなので行くしかない。


 調理場を出たユウはトリスタンと共に船長室に入った。数日前に特別報酬について聞いたとき以来の入室だ。前回と同じく机の前に立って船長と対面する。


「ユウとトリスタン、ただいま来ました」


「ご苦労。お前たち2人を呼んだのは報酬の件だ。ユウは砂金、トリスタンは宝石を希望していただろう。あれを渡そうと思ってな」


「今ですか?」


「そうだ。貨幣と違って砂金も宝石も数を数えてお終いとはいかんだろう。特に砂金は」


「あー確かにそうですね」


 渡された物が本物かどうかという確認もそうだが、砂金はその形状から重さを量って互いに確認するという行程があった。その作業を今からするわけだ。


 天秤を持ち出した船長のアラリコが片方に砂金を乗せ、もう片方に分銅(ふんどう)を乗せる。金貨10枚分あることをユウと共に確認すると革袋へと入れた。その(かたわ)らでトリスタンが宝石を熱心に見ている。


 端数の通貨を入れた革袋共々受け取ったユウはそれを懐にしまった。それから船長に顔を向ける。


「確かに受け取りました」


「本来なら大陸の北部まで同行してもらうはずだったが、予想外の事態に見舞われてしまい、ここで契約を終了ということにする」


「残念ですね」


「オレもだ。バシリオも気に入っていたようだし、もっと続けてほしかったんだがな」


「また別の船を探します」


「そうか。ところで、船の探し方はわかっているのか?」


「フォテイドの町だと直接大陸の北部へ向かう船はないということと、直接行きたいのならチュアの町で捜した方が良いことでしたら、バシリオに聞きました」


「ああ、あいつがしゃべったのか。なら大丈夫だな」


「そういえば、前に船長はこの町で代わりの船を探せば良いって言っていましたよね」


「あー、それを思い出したから聞いたんだ。船を乗り換えるだけならこの町でも探せるが、直接北に行きたいのならまずい助言だったとな」


「気にしてくれてありがとうございます」


 気にした様子を見せずにユウは礼を述べた。もしバシリオから話を聞かなければこの町でありもしない行き先の船を延々と探す羽目になっていたかもしれないが、元々訂正してくれる気があったのならば言うことはない。


 これで要件は片付いたので3人の表情は和らいだ。そこでアラリコが2人に尋ねる。


「お前たちはこれからチュアの町に行くのか?」


「恐らくそうなると思います。まずは一休みしてからですけれど。フォテイドの町って何か面白いものはありますか?」


「面白いものか。港や歓楽街を眺めてりゃ、たまにケンカが見られるが」


「いや、別にそういうのは」


「だろうな。ああそうだ、面白いものじゃないが、冒険者のお前らなら気になりそうなことはひとつあるな」


「何ですか?」


「鳴き声の山脈の魔物についてだ。その山脈はこの町の北側にあるんだが、何年か前から魔物がたくさん出るようになってな、今じゃ駆除しないと溢れるくらいらしい」


 船長から話を聞いたユウはトリスタンと顔を見合わせた。前に酒場で老水夫から聞いた話だ。どうやらあの話は事実らしいことを知る。


 トリスタンが先に船長へと顔を向けた。微妙な表情をしつつ尋ねる。


「あれって本当だったんですか」


「知っていたのか?」


「前に寝坊して船に置いて行かれたっていう年寄りの水夫から聞いたんです」


「あーうん、たまにそういうヤツはいるな。話半分で聞いてたわけか。正しい態度だ。それで、鳴き声の山脈の魔物の件は事実だぞ。そのせいでこの町だと冒険者は雇いにくくなってるからな」


「そんなに魔物が増えているんですか?」


「実際にどのくらい増えてるかはオレも知らんが、今じゃ常に一定数は駆除する必要があるそうだ。そのために冒険者がある程度必要になるくらいにはな」


「その数年前に何があったんですか?」


「オレにもそれはわからん。あの山脈に魔物が増えるようなものがあるなんて、それまで聞いたこともなかったんだが」


 しゃべりながら船長のアラリコは首をひねった。


 その様子を見たトリスタンがユウに目を向ける。


「これ、何か気になるな」


「そうだね。駆除しないといけないくらい魔物がたくさんいるんなら、生活費を稼ぐこともできそうだし」


「魔物が強すぎないなら、ちょっと行ってもいいか」


「そうだね。魔物が増えた原因がわかったら面白いかも」


「やはり冒険者だとこういう話は気になるか」


「そうですね。あんまり壮大な話だと手に負えないですけれど」


「気に入ってもらえて良かった。詳しくは冒険者ギルドで話を聞くといい」


 船長に勧められたユウとトリスタンはうなずいた。セリド島を出る前に様子を見ても良いと思えるくらいには興味を引かれる。


 話が終わった2人は船長室を退出した。懐は温かく、次に何をしたいかも決まったので先行きが明るく思える。


 明日からどうしようか話をしながら2人は通路を歩いた。

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