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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第20章 東端地方の蛮族

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再建中の村

 地平線の彼方まで広がる雲から雪がちらつくように降っている。まるでちぎった小さい綿(わた)を見渡す限りの一面に振りまいたかのようだ。


 そんな大地を荷馬車の列が進んでゆく。轍の跡がはるか彼方にまで続いていた。


 先頭の馬車に乗るユウはよく街道を見失わないものだと不思議に思う。自分なら簡単に迷ってしまいそうだった。


 地平線上に建物が見えてくる。近づくとそれが防壁だとわかった。バーディの村に着いたのだ。こちらもすっかり雪化粧をしている。


 ただ、地面にある物は何もかも隠してしまった雪だが、村についてはそうもいかなかったようだ。村の東門から中へと入るとき、その東門が破壊されているのが目に入る。村内の造りはヴィリアンの村と同じようだが、その建物は焼け落ちたままだったり再建中だったりしていた。


 村の空き地らしき場所で隊商の荷馬車は停まる。ユウとトリスタンは荷台から下りて商隊長の商売人に会った。短く言葉を交わし、報酬を手に入れる。これで護衛の仕事は完了だ。村内の地図を簡単に聞き出した2人は村の中心へと向かう。


 もうすぐ日没なので周囲は急速に暗くなってきているが、これでもまだ五の刻にもなっていない。なので、日が暮れたからといって人々の活動が低調になることはなかった。壁に松明(たいまつ)が掛けられ、扉の横に篝火(かがりび)が組み上げられて、それぞれの営みは続けられる。


 とはいっても、ユウたちのようなよそ者が遊べる場所は少なかった。そうなると自然に足は酒場へと向く。


 その間にも周囲の様子を窺っていた2人だったが、村はまだ再建中であることが目に付いた。すれ違う村人らしき人の中には包帯を巻いている人もいる。かなりの被害を受けたらしいことが窺えた。


 寒そうに顔を歪めながらトリスタンが感想を口にする。


「この村、結構派手にやられたようだな」


「そうだね。村の中がこんなになっているなんて思わなかったよ」


「つまり、ここは先月村の防衛に失敗したってわけか」


「村が残っているから最後は撃退できたんだろうけど、この様子じゃ守れたとは言えないよね。ここの警備隊はどうなっているんだろう」


「ちょっと見に行ってみるか?」


「そうだね。遠巻きに建物を見に行こう」


 雑談から話が発展したことにより、ユウとトリスタンは向かう先を変えた。


 バーディの村の警備隊本部と宿舎も村の南側にあるのだが、2人がその様子を見て呆然とする。木造の宿舎のひとつは完全に消失し、もうひとつも半焼していたのだ。石造りの本部の建物は健在のようだが人の出入りは見受けられなかった。


 しゃべれるまで立ち直ったユウがわずかに口を開く。


「思ったよりもひどい状態みたいだね」


「そういえば、前の町の受付係が言っていたな、立て直すのが大変だって。これは確かに」


「ヴィリアンの村も春には宿舎が焼けてそこから苦労したって聞いていたけれど、ここはこれからなんだ」


 センスラの町で一悶着あった受付係が泣きついてきたことをユウは思いだした。だからといってここの警備隊に入りたいとは思わないが、そうしたくなる気持ちは少しだけ理解できるようになる。同時にだったら自分が帰郷して入隊すれば良いとも思ってしまうが。


 関係者でもない2人はそれ以上近づかずに引き返した。既に日は沈んだので周囲はすっかり暗い。松明(たいまつ)篝火(かがりび)の明かりを頼りに歩く。


 一部が焼けた酒場にユウたちは入った。消火活動が間に合ったようで室内には焼けた跡がない。店内にはあまり人がいなかった。見たことのある人足や元気のない若者、それにやさぐれた冒険者がテーブルに点在している。


 カウンター席に並んで座ったユウとトリスタンは給仕女に注文をした。しばらくすると料理と酒が運ばれてくる。


 普段なら用の済んだ給仕女を見送って食事を始めるユウだったが、このときは違った。去ろうとする給仕女を呼び止める。


「村に入ってから周りを見ましたけれど、蛮族に侵入されたんですか」


「そうなんだよ。東門が破られて蛮族が入ってきたもんだから、あちこちが焼き討ちされちまったんだ。その後村総出で蛮族を追い払ったけど、死人や怪我人もたくさん出てね。散々なもんさ」


「よく追い払えましたね」


「そりゃこっちも必死だったからね。やらなきゃやられるんだし」


「さっき警備隊の本部を見てきたんですけれど、大変なことになっていますね。宿舎がほとんど焼け落ちちゃっているじゃないですか」


「みんな戦いに出払って誰もいなかったから好き放題されたみたいだよ。本部の方は何とか追い払ったみたいだけど、宿舎は木造だったからねぇ」


「そうなると隊員だけでなく、冒険者や傭兵も大きな被害を被ったんじゃないですか?」


「ほとんどが怪我をしたか死んだかしたよ。日常の巡回任務とやらが全然できなくなっちまったって隊長さんがぼやいてたねぇ」


「ということは、今は生き残りだけでなんとかやっているわけですか」


「生き残った傭兵や冒険者はみんなにげちまったよ。あいつらはまた外で集めりゃなんとかなるけど、今は残り少ない隊員と地元の冒険者でなんとか警護してるらしいね」


 話し終えた給仕女から目を離したユウは何とも言えない気分になった。生き残った隊員が何人かはわからないが、かなり厳しい状態であることは推測できる。こんな状態のところに入隊すればヴィリアンの村以上に苦労するのは明白だ。


 村人には悪いがやはり入隊を断って正解だとユウは思った。




 翌日、ユウとトリスタンは三の刻を待って冒険者ギルドへと足を運んだ。小さな石造りの建物に入ると受付カウンターへとまっすぐに向かう。職員の1人が暇そうに立っていた。


 そののんきそうな受付係にユウが声をかける。


「ウェスニンの町に向かう隊商の護衛の仕事ってありますか?」


「あることはあるけど、それよりも村の警備隊に入らない? 安定した収入が手に入るよ」


「これ、ヴィリアンの村で発行してもらった満期除隊証明書です。既に1回警備隊で働いているんで、東端連合への貢献は充分にしていますよ」


「それはそうなんだろうけど、こっちも色々とあってね。人を集めたいんだ」


「前の村の警備隊の隊長に聞きましたけれど、隊商の護衛については優先して回してもらえるはずですよね。まさか別の村の証明書を無視はしないでしょう?」


 どうしても警備隊に入隊させようとする態度を受付係が見せた途端にユウは相手の話を聞くのをやめた。既に組織には貢献済みという主張を全面に押し出す。


 穏やかな笑みを浮かべたユウは顔をひくつかせる受付係と無言で対峙した。相手の態度が次第に落ち着かなくなってくる。


「短期間だけでもいいから、村の警備隊に入ってくれない?」


「入りません。隊商の護衛を紹介してください。臨時便ならあるんでしょう?」


「こっちだって困ってるんだけどなぁ」


「早く隊商の護衛の仕事を紹介してくださいよ」


 強めの口調でユウが更に主張した。顔を歪ませた受付係が大きなため息をつくのを見る。やがて諦めた受付係が革製品や毛皮製品などを運び出すという隊商の護衛を提示してきた。条件は前回の仕事と変わらない。


 途端にいい加減な態度をとってきた受付係から紹介状をもらったユウとトリスタンは建物から出た。西門近くの空き地に停車している荷馬車に向かう。


 今回の商隊長はレナードヴィチという商売人だった。頭は半分禿げていて皺の多い顔をしている。あまり好感を持てる態度ではない人物だが、経験が豊富そうだという理由で2人を採用してくれた。


 採用が決まると隊商関係者を簡単に紹介してもらう。大半は普通の挨拶で終わったのだが、1人やたらとユウたちに突っかかってくる冒険者がいた。輝く道(プーチヤーニャ)というパーティのメンバーであるサッヴァという若者である。


「お前らが本当に強いかまだわからないから信用しないぞ」


 垂れ目の愛嬌がある顔のサッヴァは見た目とは異なり血気盛んな男だった。一応パーティリーダーがたしなめているがあまり聞く様子がない。


 そんな一幕があったが、ともかくウェスニンの町行きの仕事にはありつけた。これでいよいよ東端地方の反対側へと抜けられる。


 出発は3日後の日の出頃だったので、ユウとトリスタンはその間を休息に当てた。バーディの村はセンスラの町とは違って遊ぶところがほとんどないため、2人は休みの間ずっと鍛錬をする。とはいっても軽めのもので体を温めるのが目的だ。


 そうして出発当日の朝を迎える。この日は快晴で雲ひとつなかった。しかし、寒さは相変わらずで油断すれば凍えそうに思えるほどだ。


 寒さに震える2人は隊商に合流すると最後尾の荷台へと乗り込む。地面からの冷気からは解放された。そのままじっと出発を待つ。荷台が揺れ出したのはそれからしばらくだった。

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― 新着の感想 ―
 ユウに素手でかるぅく撫でてもらったらきっと素直になるんじゃないかな、サッヴァくん(笑)
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