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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第20章 東端地方の蛮族

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討伐隊の帰還

 早朝の襲撃から戻ったユウたち冒険者はそのまま警備隊本部の打合せ室に入った。そこで戦果と損害の確認をする。その結果、蛮族に少なからぬ損害を与えたのではと推測した。夜間である上に退却したので戦果をおおよそでも計ることが難しいのだ。それに対して3人の冒険者が戻ってこなかった。蛮族に与えた損害と比べて見合った犠牲だとわかっていても気は重たくなる。


 一旦解散となったユウたち冒険者は宿舎に戻った。そうして遅めの朝食を口にする。このあとすぐに北門へと向かわないといけないので忙しい。


 食事が終わって一息ついたトリスタンが疲れ切った顔でこぼす。


「あ~、これからまた一戦あるのかぁ。蛮族も1日くらいは休んだらいいのになぁ」


「そうだね。僕も眠いよ。何の気兼ねもなく眠りたいなぁ」


「村の中にいるのに全然気が休まらないんだもんな。戦争なんてやるもんじゃないぜ」


 毎日寝床で眠っているとはいえ、常に襲われる危険を感じながらでは特に精神的には充分休めない。ユウもトリスタンもそろそろ嫌気が差してきていた。


 休憩を挟んだ後、冒険者たちは命令により北門に集まる。傭兵と合わせても既に30人もいない。背後には昨日と同じく隊員である村の若者と村人の有志がいるが、これだけでどれだけ対処できるかは不透明だった。


 日が昇って朝がやって来る。北門は応急処置がなされているが大して耐えられない。今度は最初から接近戦になるだろうと誰もが予想した。


 それからも蛮族からの攻撃に備えて持ち場で待ち続けた村民と警備隊の面々だったが、一向に攻めてこない。


 首を傾げたユウがつぶやく。


「どうしたんだろうね?」


「蛮族もさすがに疲れたんだろう。たまには休みたくなるさ」


 やることもないのでユウとトリスタンは雑談を始めた。すると、北門の(やぐら)に動きがあることに気付く。じっと見ていると1人が下りてきて南へと走り去った。


 それだけなら特に気にすることでもなかったのだが、櫓から下りてきたその隊員が戻ってくると知り合いらしい冒険者の1人が話しかけたのを見る。


 内容まではわからないのでぼんやりと隊員と冒険者の様子を眺めていたユウだったが、話を聞いていた冒険者が突然喜び出すのを目にした。その間にも話は周囲へと急速に広がってゆく。


 待機していた2人がその話の内容を知ったのは、近くで待機をしていた冒険者が話を聞いているのを耳にしたからだ。それによると、蛮族が退却を始めたらしいことを知る。


「ユウ、この話、どう思う?」


「本当であってほしいとは思うけど。もしかして、今朝の襲撃がとどめになったのかな?」


「あいつらもかなり弱っていたということか」


 防壁があるため村内から外の様子は窺いしれないが、戦いが終わるのならばユウにとっては何でも良かった。これで安心して眠れるという思いが強くなる。


 蛮族撤退という話は急速に村内に広まった。まだ確定した話ではないはずなのにもう戦いは終わったと言わんばかりの態度を取る村民も現れる。


 更に時間がいくらか過ぎて、西の防壁の見張り台からも蛮族が川沿いに去ってゆくことが確認された。これでようやく戦いが終わったことを警備隊と冒険者も認識する。


 村内の空気は一気に弛緩した。誰もが喜び安心する。


 それはユウとトリスタンも同じだった。周囲の冒険者と一緒に喜び合う。昨日のような死闘を演じる必要はもうないのだ。


 ここで冒険者たちは一旦撤収ということになった。この日は早朝に一戦しているので休むことを許されたのである。疲れ果てていた冒険者たちは待機命令解除の報に喜んで戻って行った。


 冒険者用宿舎の部屋に戻ったユウとトリスタンは寝台に倒れ込むように横たわる。緊張の糸が切れたこともありそのまま眠りについた。




 目を覚ましたユウは何やら外が騒がしいことに気付いた。起き上がって周囲を見るとトリスタンはまだ眠っている。


 外の喧騒が気になったユウは部屋を出た。冒険者があちこちにいる。冒険者用宿舎なのだから当然だ。騒がしい理由がわかって納得する。しかし、そこで気付いた。朝の間は6人しかいなかったのに今は何人もの冒険者がいる。


 どういうことかと食堂へと向かってみると皆が食事をしていた。見たことのある顔ぶれが何人かいる。


「ダヴィット、エウゲニー、ザハール。どうしてここにいるの?」


「おお、ユウじゃねぇか! 久しぶりだな! さっき帰ってきたばっかりなんだぜ!」


「ということは、討伐隊が戻って来たんだ」


「そうなんだよ。昼頃に川向こうにやっと着いて、舟で全員が渡るまで岸で待たされたんだぜ。先に村に帰してくれていいだろうに」


 話を区切ったザハールが黒パンをスープにひたしてから口に入れた。旨そうに噛む。


 その隣から今度はダヴィットが話しかけてきた。こちらは木製のジョッキを傾けてから口を開く。


「帰ってきてから聞いたが、蛮族の襲撃を何とか撃退したそうだな。結構ぎりぎりだって聞いたが」


「そうだね。僕たち冒険者や傭兵なんて数が半分になっちゃったよ」


「そんなにやられたのか。それでよく持ちこたえられたな」


「僕もそう思う。2回夜襲をかけたのが効いたのかもしれないね」


「へぇ、その辺の話は興味あるな。聞かせてくれるか?」


「僕も昼ご飯を取ってくるからちょっと待ってて」


 話を途中で切ったユウは厨房前のカウンターに立った。すると、ニキータに食事を提供される。


「ユウじゃないか。蛮族を追い払えたんだってね。ありがとよ!」


「本当に大変だったよ。でも、撃退できて良かった」


「討伐隊が戻って来る前に追い払えるなんて思ってなかったから驚いたよ。うちの村の警備隊と冒険者はすごいや。主力なしでも蛮族を追い払えるんだから!」


「イグナート隊長やキリルが聞いたら喜ぶんじゃないかな」


 そういうと食事を持ってダヴィットたちの所へと戻った。再び3人の前に席に着く。


 食事を始めると同時にユウは村での5日間の戦いを簡単に説明した。村の防壁での戦闘、森から帰ってきた冒険者の出迎え、2度の夜襲、そして北門を突破された後の戦いと語れることは多い。


 話を聞いていたダヴィットたちは手に汗握っていた。何度も途中で質問をしてきたがそれだけ興味があるという証拠だ。聞き終わると全員が大きな息を吐き出した。


 エールを口に付けたダヴィットが軽く首を横に振る。


「大したもんだな。けど、あと1回攻撃されていたら危なかったじゃないか」


「そうなんだ。でも、なかった。今朝の襲撃が効いたんじゃないかなって思っているよ」


「正にギリギリだな」


「そっちはどうだったの?」


「厄介だった。確かに蛮族の集団はいたんだが、戦っては逃げるということを繰り返されたんだ。最初はどうしてそんな戦い方をするのかわからなかったんだが、村から伝令が来たことで自分たちが罠にかけられてることに気付いたんだよな」


「伝令が来なかったらそのまま追いかけていたんだ」


「ずっとってわけにはいかなかったが、相当追いかけたと思う。それと、面倒だったのが魔物だ。あそこにだけやたらたくさんいて蛮族を追いかけづらかったな」


「あれって結局なんだったの?」


「わからん。何しろ急いで村に戻らないといけなかったから、調べてないんだ」


 わずかに渋い表情をしたダヴィットが肉のかけらと共にスープを口に入れた。


 今度はザハールが口を開く。


「でもよ、引き上げるときもまた面倒だったんだよな。魔物もそうなんだけど、今度は蛮族がしょっちゅうちょっかいをかけて来やがったんだよ」


「足止めをされてるんだよね、それ」


「その通り! 鬱陶しいったらありゃしなかったぜ。さすがにやってられなかったからよ、今度はこっちがハメてやったんだ!」


「どんな風に?」


「あー、えーっと、どうだったっけ、エウゲニー?」


「こっちに有利な地形に誘き寄せて半分囲んでから攻撃した。これで蛮族を撃退できた」


 話を振られたエウゲニーが静かに答えた。横でザハールが大きくうなずいている。


 そこで話が一旦落ち着いた。そして、ダヴィットがユウに話しかける。


「ところで、トリスタンはどこにいるんだ?」


「まだ部屋で寝ている。ここ数日間気の休まるときがなかったから、ようやく安心して寝ているんだよ。僕もさっきまで少し寝ていたかな」


「村がいつ攻め落とされるかわからんとなると、そりゃ落ち着いて寝られねぇよなぁ」


「そのうち起きてくるんじゃないかな」


「このままだと昼飯抜きになりそうだな」


「今は食欲よりも睡眠の方が大切なんだよ」


「なるほどねぇ」


 うなずくダヴィットを見ながらユウはエールを飲んだ。今回のものはいつにも増して旨い。いくらでも飲める。


 すっかり気を緩めながらユウとダヴィットたち3人はその後も楽しく食事を続けた。

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