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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第20章 東端地方の蛮族

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村内での戦い

 立て続けに作戦が成功したことにヴィリアンの村は沸いた。最初の1つは冒険者を村内にこっそりと帰還させるというささやかなものだったが、今回の蛮族への奇襲は正式な反撃である。村民も隊員も冒険者も大いに士気を上げた。


 日が昇ると戦いが再開する。3日目も蛮族は北門に丸太をぶつけてきた。それに対して村側も門の上の(やぐら)だけでなく、その両脇に急造した(やぐら)からも石を投げ矢を射続ける。その甲斐もあってか、北門は何とか持ちこたえた。


 しかし、依然綱渡り状態であることには変わりない。数を減らしたはずの蛮族はそれでもまだ戦える者が200人程度おり、村側と約3倍の戦力差がある。東門への攻撃は諦めたようで今や北門に攻撃を集中していた。


 警備隊も明日には北門が破られるということを予想し、それに対する備えを始める。


 まず、北門の村内側の周囲に荷馬車を倒して応急の防壁を構築して門が突破されたときの守りとする。次に石と弓矢をかき集める。荷馬車の応急防壁で引っかかった蛮族に使うためだ。


 とりあえずできることは何でもやるという精神で始めた処置だが、応急対策だけあって何とも不安が残った。何より荷馬車の応急防壁に丸太を突っ込まれたらすぐに突破されるのは誰が見ても明らかだ。


 この様子を見ていたユウはキリルにぽつりと漏らす。


「門の裏に穴は掘らないのかな?」


「穴? どこに?」


「北門と荷馬車の防壁の間にだよ。そこに深くて大きな穴を掘るんだ。そうしたら、北門を突破してきた蛮族が次々に落ちていくでしょ。それに穴の幅が広いと丸太で荷馬車の防壁を叩くこともできないと思うんだ」


「おお? いいんじゃないか、それ。で、どのくらい大きくて深ければいいんだ?」


「大きさについては北門の幅いっぱいで良いと思う。奥行きは今の荷馬車が置いてある手前までかな。深さは深いほど良いよ。深い分だけ蛮族が穴を埋めるのに苦労するだろうから」


「なるほど。冴えてるな、ユウ!」


 ほとんど思い付きと言えるユウの案にキリルは飛びついた。早速イグナートに提案すると即座に取り入れられる。日が暮れた五の刻過ぎから夜通しかけて村民がひたすら穴を掘った。その結果、北門と荷馬車の応急防壁の間は完全に穴のみとなる。しかもかなり深い。


 この準備と並行して、警備隊は人員も北門に集中させた。東門、西の防壁、南の防壁に最低限の隊員を残して傭兵共々北門へと配置換えをする。もちろん冒険者は全員北門だ。大穴と荷馬車の応急防壁が突破されたときの対処である。


 隊員である村の若者約20人は大量に集められた石を北門と荷馬車の間にひたすら投げる担当になった。何らかの方法で大穴を渡る方法を構築された後であっても、簡単に蛮族を侵入させないためである。また、経験不足の若者が多いので前面に出せないという問題もあった。


 次に、傭兵10人と冒険者35人は村の若者の前で守りを突破してきた蛮族を直接迎え撃つ役目を負う。手早く対処することが求められた。


 村民が北門辺りで作業する中、隊員と冒険者は警備隊本部の打合せ室で明日の打ち合わせをする。蛮族との戦力比や村の状況から見て恐らく明日か明後日辺りに勝負が付くと予想されるだけに誰もが真剣だ。


 打ち合わせの締めくくりとしてイグナートが全員に語りかける。


「依然厳しい状況が続くが、今のところ村の防衛はうまくいってる。早ければ明日には討伐隊が戻って来てくれるはずだ。それまで何としても村を守り抜こう」


 話が終わって解散となると皆が警備隊本部の建物から出ていった。


 その中にはユウとトリスタンの姿もある。宿舎に戻る途中、周りに人がいないことを確認したトリスタンがユウに話しかける。


「ユウ、明日の戦い、どうなると思う?」


「今掘ってもらっている穴と荷馬車の防壁で、どの程度蛮族を食い止められるかによると思う。簡単に突破されるようじゃ駄目かもしれない」


「駄目だったときはどうするんだ?」


「どうと言われても。逃げられるものなら逃げる方が良いんだろうけどね。ただ、時機を見誤るとその後が面倒になるから」


「蛮族に殺されるよりはましだろうけど、か」


 2人はそのまま黙った。面白くない話なので会話は続かない。


 どちらも口を開くことなく冒険者用宿舎へと入った。




 翌朝、4日目の攻防戦が始まった。日の出と共に蛮族が丸太を持って押し寄せてくる。防壁上からの反撃にも負けず、盾を上にかざして北門に丸太をぶつけ始めた。


 前日までは何とか耐えていた北門だったが、この日はさすがに限界に達したようである。早々に門からいつもとは違う軋む音が聞こえてきた。それは丸太がぶつかる度に大きくなってゆき、やがて門が明確に内側へとへこむようになる。


 荷馬車の応急防壁の近くに待機しているユウとトリスタンはその光景を目の当たりにした。目の前の防壁とつっかえとして置かれている物で門全体は見えないが、それでも歪んできているのは明らかだ。


 傭兵と冒険者を指揮する年配の隊員が戦闘準備を号令した。それを合図に誰もが武器を構える。ちなみに、キリルは指揮の任を解かれて投石隊へと配置換えになっていた。


 いつ北門が破られるか全員が見守っていると、丸太がぶつかる音がすると同時に門が中途半端に内側へと開きかける。つっかえとして置かれている物が押し出され、一部が穴に落ちた。そして、次の一撃で北門が内側へと開く。


「来るぞ! お?」


 隣に立つ相棒が叫ぶと同時に奇妙な表情を浮かべたのをユウはちらりと見た。しかし、すぐに目の前の光景へと顔を向け直す。


 荷馬車の応急防壁の向こうでは蛮族の悲鳴が上がっていた。丸太ごと北門を突破した蛮族はそのままの勢いで掘られた大穴へと落ちてゆき、何も知らない後続も次々と穴へと飛び込んでゆく。まるで、滝上から水が勢い良く落ちるようだ。


 一部の蛮族は穴に気付いて止まろうとするが、後続に突き落とされて穴に落ちてゆく。その突き落とした蛮族も一緒だ。


 具体的にどの程度の深さの穴が掘られたのかユウは知らない。だが、目の前の有様を見ていると相当頑張って掘ったことは理解できた。


 思わずユウはつぶやく。


「これ、このまま終わらないかな」


「楽でいいな、それ」


 横目でユウを見たトリスタンも同意したが、さすがにそれは虫の良すぎる話だった。穴がいくら大きくても限りがあるのだ。いずれは穴が蛮族で満たされて先へと進めるようになる。


 その変化を最初に察知したのは防壁上の(やぐら)で様子を窺っていた隊員たちだった。落ちに落ちた蛮族の体が積み重なってついに大穴の対岸まで渡れるようになったのだ。荷馬車の応急防壁へとたどり着いた蛮族はまだいくらか体が沈み込んでいるので簡単には乗り越えられないようだが、それも時間の問題である。


 この時点で合図を送られた村の若者で編成された投石隊が蛮族の頭上に石を投げ始めた。すると、蛮族たちから悲鳴が上がり始める。同時に、傭兵と冒険者は荷馬車の応急防壁の隙間から槍で蛮族たちを突いてゆく。こちらは刺さるとより大きな悲鳴が上がった。


 槍で蛮族を突く冒険者の背後でユウとトリスタンはその様子を眺める。上がる悲鳴から荷馬車の向こうの地獄を想像した。自分で発案したがあまり気分の良いものではない。


 そうやって出番はいつかと待ち構えていると、ついにそのときがやって来た。蛮族がとうとう荷馬車を乗り越え始めたのだ。何人かは石にぶつかったり矢を射かけられたりしてひっくり返ったが、それ以外は次々と村内へと乗り込んでくる。


 荷馬車から槍を振るう冒険者の隣に飛び降りてきた蛮族にユウは槌矛(メイス)で殴りかかった。斧を持ったその蛮族は反応できずに頭頂部を思いきり殴られて倒れる。


 それを機に乱戦が始まった。荷馬車の奥をやりで突いていた傭兵と冒険者は自分の身を守るためにも目の前の蛮族を相手にする。


 トリスタンの位置を気にしながらユウは現れる蛮族を次々に殴っていった。数が多いので死んだかどうか確認する暇がなく、とどめを刺す余裕がない。基本的には頭部を殴っているので戦闘不能になるはずだと考えて、まずは行動不能にすることを優先した。


 目の前の1人を倒したところでユウはちらりと背後を窺う。まだ奥へと抜けた蛮族はいないらしい。また、隊員である村の若者は近接武器に持ち替えたようだ。農耕用具などを持った村人の有志と組んで蛮族を相手にする計画だったが、当てにしすぎるのは危険である。投石がまだ続いているのは、村人の中でも石を投げるのがうまい人に変わったからだ。


 いよいよ後がなくなってきたことをユウは実感した。傭兵と冒険者の層が突破されると被害が一気に増えることは間違いない。


 何としてもここで食い止めるとユウは決意した。

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