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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第20章 東端地方の蛮族

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警備隊の反撃(前)

 小さいが重要な成功を収めたユウたちはヴィリアンの村攻防戦の2日目を迎えた。日の出と共に蛮族の攻撃は北門と東門で始まり、初日と同じく激しく戦うことになる。


 もちろん北門に対する丸太での突撃も繰り返された。丸太が門にぶつかる度に鈍い音が響く。簡単には突破されないとわかっていても誰もが不安にはなった。


 そんな攻防も昼頃には終わる。これでこの日も一息付けた。


 この頃になると村に攻めてきた蛮族についていくらかの事実がわかってくる。まず、最も気になる敵の戦力だが、北門に約200人、東門に約50人だ。防壁の上に陣取る警備隊の隊員と冒険者に対する攻撃は2日目になると投石が増えて矢は減った。更に蛮族は丸太による北門の突破を攻撃の軸にしており、東門は村側の人間を自由に出入りさせないための抑えであることもわかってくる。そして、防具を着た蛮族は北門側の集団で指揮を執っている様子だった。


 一方、村の状況だが、初日の火矢の攻撃は防ぎきり、2日はむしろ村民は手すきになっていた。蛮族との攻防で防壁の上から警備隊も反撃しているが、攻撃手段が蛮族と同じ投石と弓矢くらいしかなく、またそれも人数が少ないので充分に行えていない。更には蛮族も盾を頭上にかざして対抗しているので効果は大して期待できなかった。そして、丸太の攻撃に曝されている北門であるが、2日目の終了時点で耐久力が怪しくなってきている。点検した隊員の話によると3日目が正念場とのことだった。


 唯一の良い話がまだ死者は出ていないという点だろう。負傷者は何人か出てきているが戦えないほどではない。ただし、蛮族も大して被害は受けていない様子なので一方的な朗報というわけではなかった。


 こんな状態で2日目の五の刻を迎える。この時期だともう日没直前だ。空の東半分は既に暗い。


 そんなときに冒険者用宿舎で待機していたユウたちはキリルに呼び出された。場所は警備隊本部の大きい打合せ室だ。行ってみると村在住の冒険者も詰めかけている。


 村の冒険者に知り合いはほとんどいないユウだったが中には例外もいた。その例外である冒険者に声をかけられる。


「よう、お前さんはいつぞやの新顔じゃねぇか」


「タラソヴナ。来ていたんだ」


「全員来いって言われたからな。そりゃ来るさ」


「今から何の話がされるかって知っているかな?」


「いーや、誰も何も知らされちゃいねぇ。あの隊長、何をやらかすんだろうな」


 明るく話しかけてきたタラソヴナだったがユウと同じく首を(かし)げていた。こうなるともう話を聞くまで待つしかない。


 呼びつけた張本人であるイグナートはしばらくしてやって来た。冒険者全員が注目すると口を開く。


「諸君、よく集まってくれた。これから反撃の作戦について説明する。静かに聞いてもらいたい」


 反撃という言葉を耳にした冒険者たちは明らかに興味を引かれた様子だった。それを見たイグナートがそのまま言葉を続ける。


「蛮族の集団がこの村を襲い始めて2日が終わった。諸君が奮闘してくれたおかげで村は今のところ持ちこたえている。予定では討伐隊が明日か明後日頃に戻ってくるはずなので、それまでもう少し耐えればいいだけだ。しかし、懸念事項もある。知っての通り蛮族は北門を突破しようと試みているが、これが明日か明後日に成功する可能性が出てきた。そこで、明朝こちらから打って出てその試みを牽制する」


 説明を聞いていた冒険者の表情が明るくなった。依然胡散臭そうな目つきを向ける者もいるが、大半は目を輝かせている。


 作戦の概要は、東門側の蛮族約50人を日の出前に奇襲して撃破するというものだった。これにより、蛮族の頭数を減らし、士気をくじくのである。その後、蛮族が東門に戦力を割かなければ以後は自由に出入りできるようになり、再び一定の戦力を配置したのなら北門側の集団がそれだけ弱体化する上に再び同じように攻撃して更に数を減らせば良い。これが作戦の目論見だった。


 大まかな内容を聞いてやる気になった冒険者たちにイグナートが説明を続ける。


「これが作戦の概要だ。こちらの人数は40人弱だが、奇襲効果を入れれば終始優勢に戦えるだろう。また、作戦は暗い中で実行するので目印として左の二の腕に布を巻いて敵味方の区別を付けることにする」


「悪くねぇな」


「引きこもってるよりよっぽどマシだ」


「やろうぜ! 蛮族どもに思い知らせてやるんだ!」


 景気の良い声が次々と聞こえてきた。反対する者はいない。大勢は決まった。


 次に具体的な作戦の話に移ってゆく。段階としては2つあった。


 第一段階は、冒険者を村に引き入れた南の防壁から一部が縄梯子を使って外に出て蛮族の背後に回って最初に襲撃する。これにより、村側に援軍が来たと蛮族に誤解させるのだ。更に、冒険者を引き入れる経路は今後も使いたいので蛮族に気付かれないようにするという意図もある。


 第二段階は、混乱している蛮族に対して、東門を開けて主力の冒険者たちが攻撃を仕掛けるというものだ。前後を挟撃されたと思った蛮族を浮き足立たせ、潰走させるのである。尚、追撃は東門と北門の半ば辺りまでだ。それ以上は蛮族の本隊とぶつかる危険が高く、冒険者に余計な被害が発生してしまうのを防ぐためである。


「作戦の内容はこれでいいだろう。次は、誰がどこを担当するかだな」


 大きな打合せ室全体を見ながらイグナートが自分の案を披露した。それによると、冒険者は警備隊直下組8人と地元組30人弱に分けられ、警備隊直下組が第一段階の奇襲班、地元組が第二段階の主力班となる。また、それぞれの指揮は、主力である地元組は西の防壁の警備を担当する中から副班長が任命され、もう一方はキリルがそのまま指揮することになった。


 この案にキリルは興奮する。そして、元から指揮下にあったユウたち8人は微妙な目を向けた。


 そんな状況を尻目にイグナートが更にしゃべる。


「尚、奇襲班はマクシムがキリルを補佐するように。キリル、マクシムの助言はよく聞くんだぞ。何でも自分で決めればいいというわけじゃないからな」


「はい、わかりました!」


 釘を刺されたキリルだったが態度からはあまり理解しているようには見えない。それが一層ユウたち8人の不安をかき立てた。


 そろりとイグナートに指名された冒険者にユウが近づいて小声で話しかける。


「マクシム、何とかなりそう?」


「何とかするしかないだろう。まずは突っ込みすぎないように気を付けないとな」


 既に色々と考えているらしいマクシムを見たユウはいくらか安心した。


 そうして打ち合わせが終わると全員が作戦の準備に取りかかる。まずは主力班と奇襲班で意見と手はずをすり合わせ、その上で東門と南の防壁の警備担当者とも相談をした。特に失敗したときの退却については取り残されると死を意味するので念入りにだ。


 奇襲班は第一段階で蛮族の集団の裏側に回り込む必要があるため、主力班以上に色々と打ち合わせる必要があった。防壁の外に出るのはともかく、問題はどうやって蛮族の背後に回るかだ。


 しかし、これはユウが解決策を提示する。


「この前、森から戻ってきた冒険者を村の中へと迎え入れたときに、東門側にいる蛮族の様子を見ていたんだ。そうしたら、蛮族は川の方にはあんまり意識を向けていないみたいだったから、土手沿いに隠れながら進めば蛮族の背後に回れるよ」


「そういえば、あいつら結局襲ってこなかったな」


「そうでしょ。あの様子だとまだ無警戒だと思う」


「いいことを聞いたな。それじゃ、裏手に回る経路はユウに案内してもらおう。で、いいですよね、キリル班長」


「もちろんだ!」


 最後に大きくうなずいただけのキリルに何人かの冒険者が苦笑いをした。都合が良い分には何も言う必要はない。


 それ以外にも、攻撃を始める頃合いや逆に発見されたときのことなども話し合ってゆく。松明(たいまつ)が使えない中での行動なのでその注意点もだ。これについては冒険者たちというよりは主にキリルに対しての忠告になるが。


 話し合いがまとまると後は実際に練習できることをやっていく。暗闇での歩き方、縄梯子の使い方などをわかっていても繰り返した。自分たちが失敗して作戦を台無しにするわけにはいかない。


 そうして一通りやり終えた後、マクシムが小さく息を吐く。


「よし、こんなものだろう。後はうまくいくことを祈るだけだ。起床時間は一の刻だからな。みんな早く寝て寝坊しないようにするんだぞ」


「へへ、わかってるって。ね、キリル班長」


「もちろんだぜ!」


 トリスタンから話を振られたキリルが勢い良く答えた。周りで見ていた冒険者が小さく笑う。


 これでやれる準備はすべて終わった。後は明朝の作戦開始を待つばかりである。

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― 新着の感想 ―
みんなキリル班長の扱いがわかってますねー!
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