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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第20章 東端地方の蛮族

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蛮族の来襲(後)

 門を突破されて村内に蛮族が侵入してきたときはもちろんこれを警備隊で防がなければならない。しかし、いつ、どこを攻められるかわからないので一定の人員は各所に配置しておく必要がある。そのため、門が突破された場合は各所から村を守るために人員を差し向ける必要があった。


 キリル率いる冒険者8人はその時間を稼ぐための戦力だ。これだけで蛮族の侵入を防げれば幸いだが、それが無理でも攻め込んでくる蛮族の数を少しでも減らす必要があった。


 もっとも、これは門を破られたときの話なので破られない間は完全に遊兵となる。少ない人員で村を守っている中では他に使いたい戦力だが、城門を破られる可能性がある以上はそういうわけにもいかなかった。


 今、ユウたちの前方では村の北門を巡る攻防が続いている。門を突破されたときに巻き込まれないよう少し離れた場所で待機しているが、そう簡単には突破されるように見えなかった。確かに門を叩く鈍い音は不安を駆り立てるが、そもそもそんな簡単に突破されるようでは防壁の役目を果たせているとは言えないだろう。


 そのため、ユウは不安に思いつつも今日中の出番はないのではと考えていた。さすがに攻撃されてわずか数時間で門を突破されてはあと数日間も持ちこたえられるとは思えないのである。


「マクシム、今まで蛮族に村を攻められたときに門を突破されたことってあるの?」


「ある。門の上からの攻撃じゃ不充分だから、突破される場合もあるんだよ」


「それって強化できないの?」


「色々あって難しいらしい。色々と検討しているそうだが」


「でも今の様子を見ていると、突破されたら蛮族に好き勝手されそうに見えるんだけど」


「今は討伐隊としてみんな出て行っているからだ。本当ならもっと何十人とここに集まっているはずなんだよ」


「ああ、なるほど」


 回答を聞いたユウは顔をしかめた。今は本来の戦い方ができないでいるのだ。何となく感じていた不安が具体的になったせいで更に不安になってくる。


 しかし、幸いに門は持ちこたえ続けた。昼前になると門を叩く鈍い音がなくなり、防壁近辺の戦闘音も収まる。どうやらしのぎきったらしい。


 これにはユウだけでなく他の冒険者も胸をなで下ろしていた。侵入してくる何十人もの蛮族をキリル含めて9人だけで撃退できるとはさすがに誰も思っていないからだ。


 命令が解除されたのは昼時だった。周囲も蛮族の攻撃をしのげた安心感が広がっている。そんな中、ユウたち冒険者は宿舎に戻った。空腹を抱えながら次々と食堂へと入る。


 厨房前のカウンターで食事を受け取るためにユウは列に並んだ。自分の順番になって食事を受け取ろうとしたときに料理人がニキータだということに気付く。


「ニキータは朝晩だけじゃなかったの?」


「蛮族が攻めてきてる間はここで働くことになったんだ。あいつらをやっつけてくれよな」


「もちろんだよ」


 わずかに不安を覗かせながらもニキータが笑顔で食事を差し出してくれた。それを手に取ると席に座る。隣にはトリスタンが着いた。


 正面に座ったマクシムにそのトリスタンが話しかける。


「なぁ、蛮族の森に出かけている連中はまだ帰ってこないのか?」


「どうだろうな。門を閉じて村の中にこもってるからさっぱりわからん。まぁでも、北門はもちろん東門の前にも蛮族は陣取ってるから、川まで戻って来ていても村の中には入れないと思うんだ」


「そっか。他に出入口はないのか?」


「そんな都合のいい通り道はないな。それに、あんまり作りすぎると守るときに大変だ」


「確かに」


 肩をすくめたマクシムの姿を見たトリスタンが面白くなさそうにスープをすすった。


 食事が終わると食堂で待機となる。部屋に戻って横になりたいと愚痴る者もいるが、許可されていないのでテーブルにうつ伏せて寝始めた。


 そんな何とも言えない時間を冒険者たちが過ごしているとキリルがやって来る。


「ユウ、マクシム、来てくれ。イグナート隊長が呼んでるんだ」


 呼ばれた2人は顔を見合わせた。この組み合わせで呼ばれるのは珍しい。


 不思議に思いつつも両者は警備隊本部の建物へ向かった。キリルに促されて小さい方の打合せ室に入る。しばらくするとイグナートが姿を現した。


 2人が見守る中、警備隊の隊長が口を開く。


「よく来てくれた。実はやってほしいことがあって呼んだ」


「やってほしいことですか?」


「ああ。今日の昼頃、南の防壁を守る隊員から、川向こうに人影を見かけという報告があった。それも、この村の冒険者のな」


「戻って来た人がいるんですか。でも、今は村の中には戻れないんでしたね」


「普通ならな。しかし、ちょっとした方法で中に帰還させることができるんだ」


 イグナートによると、南の防壁に隣接する見張り台から縄梯子を垂らし、そこから冒険者に村の内側へと入ってもらうという方法だった。


 てっきり門からしか出入りできないと思っていたユウは目を見開く。そんな方法があるとは思いもしなかった。


 驚くユウを見ながらイグナートが話を続ける。


「しかし、この方法も森から帰ってきた冒険者が川を渡れたらという条件が付く。船頭も村の中に避難している今、岸に寄せてある舟を対岸まで渡せないと冒険者を村の中には入れられない。泳ぐという手段もあるが、もう冬目前の今に川を泳ぐのは危険だ」


「そこで、僕とマクシムが縄梯子で外に出て舟を向こう岸に渡すわけですか」


「そうだ。マクシムが舟を漕げるから、2人で協力して冒険者を連れ戻してほしい」


「でもどうして僕なんです? 普通ならパーティメンバーのオレークとやることですよね」


「この任務は身軽さと大胆さと慎重さが必要なんだ。オレークはあまり身軽ではないから今回は外した」


 説明を聞いたユウはマクシムに目を向けた。すると小さくうなずかれる。


「僕はその3つを兼ね備えていると判断した理由はなんですか?」


「蛮族の集団の物見をしてもらったときの話から推察した。近づいて来る蛮族の物見2人を土手の陰でやり過ごし、石を投げて倒し、死体をうまく処理し、集団の様子を窺った。完璧だと思うぞ」


「僕、隊長にそんな話をしましたっけ?」


「そういう話は流れてくるものなんだ」


 にやりと笑ったイグナートにユウは微妙な表情を向けた。トリスタンにはしゃべった記憶があるので、恐らく雑談のときに話したのだろうと推測する。別に口止めしていたわけではなかったので文句を言うつもりはないが、意外に広まるものだと実感した。


 そんなことを考えていると、ふと疑問がひとつ湧いてくる。


「あれ? 僕は何のためにマクシムについて行くんです? 舟は漕げませんよ?」


「蛮族と遭遇したときに対処してもらいたい。さっきの物見の話から、お前ならうまくやれると考えている。できればこの動きは蛮族に知られたくないからそのつもりでな」


「わかりました。ところで、森から帰ってきた冒険者はこの方法を知っているんですか?」


「村の冒険者みんな知ってる。だから、迎えてくれたら何とかなる」


 思ったほど難しい任務ではないかもしれないとユウは思い始めた。任務の実行は八の刻頃というから真夜中だ。少し欠けた満月の明かりがある程度あるので松明(たいまつ)はいらない。蛮族は門の近辺は警戒しているが門のない南と西の防壁はあまり見ていないらしいので、何とかなるのではという思いが強くなる。


 より詳細な打ち合わせをした後、ユウとマクシムは宿舎に戻って再度話し合った。そして、南の防壁を守る隊員たちとも顔合わせをしておく。冒険者の受け入れに関しては既に話が通っているらしく、準備は整っているとのことだった。


 防壁に据え付けられたかのような見張り台の上に登らせてもらい、周囲を見る。更には冒険者の姿を見かけた辺りも教えてもらった。確かに誰かいる。最後に縄梯子を触らせてもらって準備を終えた。


 八の刻になると、ユウとマクシムは任務を実行する。垂らされた縄梯子を下りて村の外に出て素早く土手を下りた。ここでユウはマクシムと別れる。マクシムはそのまま渡し場に行って舟を出し、ユウは土手沿いに東門近くにいる蛮族の天幕に近づく。舟を漕げないユウが渡し場に行っても何もできないからだ。


 かつてのように土手に寝そべって蛮族の天幕に目を向けた。確かに川側にはあまり注意を向けていないように見える。


 このまま何事もないようにとユウは祈ったがたまには通じるらしい。驚くほどあっさりと森から戻ってきた冒険者を村内に迎えることができる。結果的にユウは必要なかったほどだ。


 こうして貴重な戦力である8人の冒険者を村内に連れて帰ることに成功し、最後にユウが縄梯子を登って任務は完了となる。蛮族は最後までユウたちの行動に気付かなかった。

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