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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第20章 東端地方の蛮族

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蛮族の来襲(前)

 蛮族の集団がヴィリアンの村に姿を現したのはユウとトリスタンが報告をもたらした翌日だった。五の刻の鐘が鳴る頃、つまり日没直前である。


 その頃、ユウとトリスタンは部屋で休んでいた。何しろ前日まで10日間近く働きっぱなしだったのだ。休めるときに休んでおこうというわけである。その休暇も突然部屋に入ってきたキリルからの連絡であえなく中止となってしまったが。


 ともかく、蛮族来襲という報を耳にしたユウたち冒険者は宿舎から出た。すると、村全体の雰囲気がかなり緊張したものになっていることに気付く。特に西の防壁が騒がしい。


 その様子を眺めながらトリスタンがキリルに話しかける。


「蛮族はどのくらい来ているか聞いているか?」


「日没直前だったからよくわからなかったらしいよ。トリスタンは直接見てきたんじゃないの?」


「俺はいるってのを見てすぐに引き返したから人数までは知らないんだ」


 他の冒険者に混じって宿舎の玄関近辺でトリスタンがキリルと話していると、警備隊本部の建物から別の隊員がやって来た。冒険者は全員大きい方の打合せ室へ行くよう命じられる。


 命令に従って大きい打合せ室へとユウたちが入ると、既に他の隊員の一部は集まっていた。他にも村在住の冒険者たちの顔も見える。


 そこへイグナートが入ってきた。室内を見回してから口を開く。


「諸君、緊急事態だ。懸念されていた蛮族による村の襲撃が現実のものとなった。物見によると蛮族の数は200ないし300、現在は警備隊が防壁にて警護しているが人手が足りん。そこで、冒険者ギルドに緊急依頼を要請して在地の冒険者諸君の力も借りることになった。諸君らは今から警備隊直下の冒険者として扱われる。元々いる者たちと協力して事に当たるように」


「オレたちを入れて、今戦えるヤツは何人いるんだ?」


「傭兵を含めた警備隊員が40人、諸君らを含めた警備隊直下の冒険者が30人弱だ」


「マジかよ。全然少ねぇじゃん」


「村には周囲を囲む防壁がある。蛮族はこれを簡単には突破できん。蛮族の討伐に出た討伐隊には既に伝令を送ったので、数日中に戻って来る者たちが到着するまで守り切ればいい」


 主に緊急依頼によって強制的に編入された冒険者から多くの質問が出た。事情をほとんど知らないのだからこれは仕方がない。ただ、数日間は劣勢だと知って表情は暗かった。


 質問があらかた終わると作業の割り当てが発表される。とはいってもそれほど複雑ではない。防壁の警護は隊員と傭兵が行い、この日警備隊に編入された冒険者たちは各場所に配属された。


 残る8人、ユウたち元々警備隊直下の冒険者はキリルの配下であちこちを助けて回る予備戦力扱いとなった。防壁を突破されそうになったときに当てる戦力が必要なためだ。


 指示が終わると作業が始まる。既に日は暮れているが、村のあちこちに篝火(かがりび)が設置されていてとりあえず視界は確保されている。


「みんな、今から村の倉庫に行くぞ。薪を出してあちこちに配るんだ。それが終わったら、北門の守備隊のための天幕を張るよ」


「今夜はいつ眠れるんだかな」


「きっと八の刻までには眠れるさ!」


「なんだよそれ。せめて七の刻くらいにしてくれよ」


 明るく答えるキリルに対して、かつて蛮族の森の知恵を授けてくれた1人が愚痴った。


 それでも全員が指示に従う。必要なことだと理解しているからだ。いくつもの作業をこなした結果、一段落ついたのは八の刻を少し回っていたが。


 翌朝、戦いの火蓋が切られたのは二の刻を回ってからだった。前日の六の刻からは鐘は鳴らず、時刻を知らせる係の者が各地に時間を知らせて回っている。しかしそれがなくとも、ちょうど朝食の時間なので誰もがすぐに気付けた。


 ユウたち冒険者も宿舎の食堂で蛮族の攻撃を知る。駆けつけたキリルに告げられたのだ。そのため、全員が食事をかき込んで無理矢理終わらせて外に飛び出る。


「火矢が飛んできてるぞ」


 誰かのつぶやきがユウの耳に届いた。周囲を見ると主に北と東から火矢が射られている。その数から北側の方が攻め手の勢いを感じられた。


 村の造りは中心に建物が集中し、その周囲は畑か空き地があり、その更に周りを防壁によって囲んでいる。そのため、火矢の半分ほどは畑か空き地に刺さっていた。しかし、残り半分は建物へと届いている。


 建物には湿った皮などによって大半が覆われていた。なので簡単に燃えることはない。ただ、それでも早めに消火するに越したことはなかった。村人たちが懸命に消火活動に励む。砂や水をかけて火を消そうとしていた。


 村内から見える戦いの風景を見つめる冒険者に対してキリルが叫ぶ。


「警備隊本部まで行くぞ!」


 命じた後は一気に駆けるキリルに他の冒険者たちも後に続いた。ただ、キリルは建物内にそのまま飛び込んだのに対し、ユウたち冒険者は外で待つ。すると、すぐにキリルは戻って来た。配下の冒険者を目にすると口を開く。


「別命があるまで待機!」


「なんだそりゃ」


「消火活動くらい手伝ってもいいぜ」


「村の中の消火活動とかは村人ができるから、そっちにやってもらうことになってるんだ。オレたちは門を突破されたときに一番に駆けつけるのが仕事だからな!」


「だったら急いでメシを食う必要なんてなかったじゃねぇか」


「それで、宿舎に戻って待機してればいいのかな?」


 色々と意見や不満が出る中、ユウはキリルに待機場所を尋ねた。そこまで逼迫した状況ではないのなら、寒い外よりも暖かい室内で待つべきだろう。


 ユウの質問を受けたキリルは言葉に詰まった。すぐに警備隊本部の建物に入ってしばらくすると姿を現す。


「宿舎の食堂で待機だ! オレは本部で次の指示をすぐに受けられるように待つ!」


 そう言うと、キリルはまたもや建物の中に戻った。


 残された冒険者たちは少しの間呆然とした後、宿舎へと足を向ける。誰もが微妙な表情を浮かべていた。


 その中の1人であるトリスタンがユウに話しかける。


「キリルの奴、なんかやる気が空回りしているな」


「みたいだね。戦うときが不安になるなぁ」


「ユウもそう思うか」


「マクシム、僕よりこの村に長くいるんでしょ。キリルって実際のところ戦うときにちゃんと指揮できるの?」


「あいつが冒険者を指揮したところは今まで見たことがないな。大抵は他の先輩に指示される側だったはず」


「ということは、指揮するのは今回が初めてなの?」


「オレの知る範囲ではだが」


 横から話に加わってきたマクシムが不安そうな顔をしていた。


 そんなマクシムにトリスタンが尋ねる。


「なんでキリルが今回オレたちの指揮をすることになったんだ?」


「詳しいことはオレにもわからん。ただ、今回村の主力の連中は討伐隊にみんな参加しているからな。傭兵以外の隊員は本当に若い連中ばっかりのようなんだよ」


「ということは、キリルはその中でもまだましな方だってことか」


「たぶんな。門を守る隊員の指揮官はさすがに年配みたいだが、それ以外は」


「結構(いびつ)な構成だな。間がないみたいに聞こえるぞ」


「今年の春と秋の襲撃で結構やられたからな。今は特に厳しいんだよ」


 思った以上に厳しい内情にトリスタンは顔をしかめた。周りの冒険者の表情もいささか暗い。


 冒険者たちはそのまま無言で宿舎に入っていった。


 その後、ユウたち冒険者は日の出後しばらくまで宿舎の食堂で待ち続けた。不安の中の待機なので落ち着きがなくなる者もいる。ただ、会話は少ないままだ。


 そんな状態の冒険者の前に再びキリルが姿を現した。とてもやる気に満ちた顔をしている。


「みんな、北門側で待機になった。行くぞ!」


「今度は本部の命令なんですよね?」


「そうだ。蛮族が丸太で門を破ろうとしているらしい。だから、念のために側で待機することになったんだ」


「北門はそんな簡単に破られないよな?」


「もちろんだ。さすがに村の門はそんなに脆くないぞ」


 話を聞いていたユウはちらりとマクシムに目を向けた。それを受けてマクシムが小さくうなずく。一応門は大丈夫らしい。それを知ってトリスタン共々肩の力を抜いた。


 ともかく、正式な命令が出たのであれば動かなければならない。ユウたち冒険者はキリルに率いられて宿舎を出た。装備を整えた上で小走りする。


 北門の辺りは戦闘音が最も激しかった。村内にいるので蛮族の様子はわからないが、外から矢が撃ち込まれ、門の上の警備隊員や冒険者が応戦し、北門からは何かがぶつかる音が聞こえてくる。門の前には突破されないように様々な物が積み上げられていた。


 こういった戦闘は実のところユウは初めてだ。周りを見ても人々が必死に動き回っているのがわかるだけである。現状がどうなのか良くわからない。なので、何となく不安になった。

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火蓋は切るだけで落とさないんです 切って落とされるのは幕です
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