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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第20章 東端地方の蛮族

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村の警備を固めるために

 ろくに休む間もなく再び村を出ることになったユウとトリスタンは打ち合わせ後に手早く準備を済ませた。食料を背嚢(はいのう)に詰め込むと朝の間に村の北門から出る。


 2人は再び分断の川沿いを進んだ。しばらく歩いていると、今まで黙って付いてきたトリスタンが疑問を口にする。


「ユウ、また川沿いなのか?」


「あの蛮族たちがこっちの村を襲うのなら、川沿いに進んだ方が速く進めるからね。逆に街道を使うとしたらセンスラの町を襲うと思うよ」


「あいつら、舟で川を下ってこないのかな?」


「少数で奇襲するならその可能性はあるけれど、あの集団全体を移動させるのには使えないはずだよ。だって、人と荷物を舟で何往復もして対岸に移していたじゃない。舟の数はそんなに多くないんだと思う」


「なるほどな。確かに」


「それに、船を使われていたらもうとっくに蛮族は村を囲んでいたはずだよ。下るときは速いから。だから、僕たちはこのまま川沿いを歩いて行けばいいんだよ」


 相棒の問いかけにユウは自信ありげに答えた。


 緊張感を紛らわせるために雑談をしつつユウとトリスタンは歩き続ける。その間も進む先の地平線上は常に見つめていた。突然姿を現さない限り、最初にその姿を見つけるならばそこからだからだ。


 しかし、その日2人は何も発見できなかった。川からやって来る気配もない。


 不安を覚えつつもユウたちは河原の土手で一夜を過ごした。万が一蛮族が夜通しで進んで来た場合に鉢合わせをしてしまうことを避けるためだ。ほぼ満月の今夜は雲もないので見通しは良い。なので目立つ焚き火は(おこ)せなかった。


 日の出前、寒さに震えつつ朝を迎えるとユウたち2人は出発の支度を済ませる。そうして、薄明かりによって視界が利くようになると背嚢(はいのう)を背負って昨日と同じく歩き始めた。


 蛮族がやって来ないよう祈りながら進んだ2人だったが、出発してまもなく地平線上に何かの塊を発見する。


「なんだあれ? ユウ、もっと近づいてみようぜ」


「ちょっと待って。一旦土手に行こう。あれが蛮族だったら僕たちも見られていることになるよ」


 指摘されて表情を凍らせたトリスタンを引っぱってユウは近くの土手に隠れた。そこから注意しながら更に先へと進む。ところが、土手からたまに覗いたときに向こうから誰かが近づいて来るのを目にした。


 顔をしかめたユウがトリスタンに顔を向ける。


「トリスタン、君は今すぐこの河原を走って村に戻って、歩いて1日の川沿いに蛮族の集団がいることを隊長に伝えて」


「わかった。お前はどうするんだ?」


「少し近づいて様子を見てくる」


「誰か近づいて来るのにか?」


「あれってたぶん2人くらいだから、土手に隠れて奇襲すれば何とか倒せると思うんだ。それで時間を稼いでいる間にあの集団がどの程度かを見てくる」


「死ぬなよ」


 一瞬息を呑んだトリスタンだったが、小さく息を吐き出してからユウに背を向けた。そのまま河原伝いに村へと走って行く。


 その後ろ姿を途中まで見送ったユウは再び土手からわずかに顔を覗かせた。予想通り蛮族は2人だ。日の出前の薄明かりで周囲が見やすくなってきているが日の出後よりはまだ視界が利かない。


 背負っている荷物を土手の上の方、平原から見えそうなくらいの場所に置くと、ユウは相棒とは逆の方向に土手の下を少し進んだ。川沿いの河原の先には人影はなく、蛮族は川近くの平原の端に固まっているらしい。川に水を汲みに行くこともしていないのは、まだ起きていないからかと内心で首を傾ける。


 手頃な大きさの石を2つ手にするとユウは土手の半ばほどまで上がった。そこで土手にへばりつくようにうつ伏せる。やがて蛮族2人の話し声が聞こえてきた。自分たちとはまったく違う言葉を話しているので内容はさっぱりわからない。


 土手にぴったりとくっついてユウが様子を窺っていると、ちょうど通り過ぎたところで話し声に変化があった。そこでこっそりと顔を覗かせると、ユウの荷物に気付いたようだ。槍を構えながら近づいて行く。やがて荷物の近くで立ち止まったのを見た。


 距離は目測で20レテム程度、この距離なら当てられる。そう判断したユウは土手で立ち上がって1つ目の石を投げた。続いて2つ目を投げる。それからダガーを抜いて土手を駆けた。


 1つ目の石は手前で槍を構えていた蛮族の側頭部に当たる。鈍い音がしたかと思うと呻きながら地面に倒れた。2つ目の石は奥にいた蛮族が異変に気付いて顔を向けたところに命中する。短い悲鳴を上げてもんどりうってこちらも倒れた。


 屈みながら平原に現れたユウは2人に手早くとどめを刺すと土手へと引きずり込んだ。そこから更に川へと運んで流す。


 地平線上から太陽が姿を現したので周囲が一気に明るくなった。もう時間がない。ユウは自分の背嚢(はいのう)を取り戻すと、急いで土手伝いに蛮族の集団へと近づいた。


 遠くで声が聞こえる程度の所まで近づいたユウは土手に隠れながら平原上の蛮族たちへ目を向ける。さすがに集団全体が目覚めたようで動きが活発になっていた。


 数日前に蛮族の森で見たときの集団をユウは思い返す。あれで100人程度だとすると今の集団は2倍から3倍程度に見えた。物見の専門ではないので正確な人数はわからないが、500人以上いるとは思えない。


「よし」


 目的を果たしたと判断したユウは引き返した。土手の下を走ってゆく。防具を着た蛮族に発見されると厄介だ。


 蛮族が自分に気付くのができるだけ遅れるよう祈りながらユウは駆け続けた。




 その日の昼頃、ユウはヴィリアンの村に戻ってきた。すぐに警備隊本部の警備室へと駆け込む。その様子に事務員だけでなくイグナートもカウンターへとやって来た。


 いくらか息を落ち着かせてからユウは口を開く。


「村から川沿いに西へ1日進んだ所まで蛮族の集団が近づいて来ています。数は200人から300人くらいだと思います」


「そうか、よくやった。お前の仲間が先に位置だけは知らせてくれたから、こちらはもう本格的な準備を始めている。以後は別命あるまで宿舎で待機だ。まずはゆっくりと休め」


「はい。それで、トリスタンはどこにいるんですか?」


「宿舎に戻っているはずだ」


 安心したユウは口から大きな息を吐き出した。その間に事務員がカウンターに革袋を2つ置いてくれる。報酬を受け取ったユウは警備隊本部の建物を出た。そうして疲れ切った体を引きずるようにして冒険者用宿舎へと向かう。


 宿舎の中に入ったところでユウは背嚢(はいのう)の重みを思い出した。昨日8日分の食料をもらってほとんど手つかずのままだ。一旦食堂へと入る。


 厨房前のカウンターで残った食料を返却すると昼食を差し出された。そこで今が昼時だと知る。同時に自分が空腹であることも思い出した。


 食堂内はほとんど空席なのでユウは空いている席に座ろうとしたが、別席に座る人物から呼ばれる。


「ユウ、生きていたか」


「マクシム、オレーク」


背嚢(はいのう)を背負ったままやってくるなんてな。まだ部屋に戻っていないのか」


「さっき村に帰ってきたばかりで、今警備室で報告を済ませたばかりなんだ。部屋に戻る前に余った食料を返そうとしたら昼ご飯をもらっちゃって」


 知り合いの向かいに座ったユウは荷物を背中から降ろした。そうして大きく背伸びをする。自然と口から大きな息が出てきた。


 ほとんど食事を終えているマクシムがユウに話しかける。


「なるほどな。さっきトリスタンと話をしたんだが、北西から蛮族が村に近づいて来てるんだそうだな。明日にはここに来るんだって?」


「恐らくね。遅くても明後日中には来るはずだよ」


「何人くらいなんだ?」


「200人から300人だと思う。厄介な蛮族がいてあんまり近づけないんだ」


「厄介な蛮族?」


 興味を示したマクシムにユウは防具を着た蛮族の話をした。何らかの理由で隠れていても見つかってしまうという話にオレーク共々嫌な顔を向けてくる。


「そんな蛮族がいるのか。単に強いっていうだけじゃなくて」


「ユウはどうやってそんなのを相手にしたんだ?」


「相手になんてしていないよ。様子を見るのが目的だったから見つかったらひたすら逃げていたんだ。元々相手の数が多すぎてどうにもならなかったし」


「よく逃げられたな」


「自分でもそう思う。でも次は迎え撃たないといけないかもしれないんだよね」


「たぶん、いるんだろうなぁ」


 難敵と対峙しなければいけない可能性を考えてユウたち3人は大きなため息をついた。戦うとなるとまず冒険者が矢面に立たされる可能性が高いだけにどうするべきか考えておかないといけない。しかし、そんな都合良く良い案がひらめいてくれるはずもないため、3人の表情は暗くなる。


 その後、ユウたち3人は言葉少ないまま食事を続けた。

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