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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第20章 東端地方の蛮族

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蛮族の集まる場所

 11月を迎え、寒さはより厳しくなってきた。雪こそ降らないが朝晩の冷え込みは体を震わせるまでになってきている。


 そんな中、ユウとトリスタンはマクシムとオレークの2人と再び蛮族の森へと入った。今度は村から南東の方向で、森の奥よりも分断の川沿いの森を見て回るような経路だ。


 毛皮製品の衣類を身につけた4人の冒険者たちが森の中を進む。先頭からマクシム、ユウ、トリスタン、オレークだ。


 初回に比べてユウの動きは様になってきていた。元々森での活動経験があるので順応が早い。一方、トリスタンの動きもまだ(つたな)いところはあるがましになってきている。


 森に入った初日は魔物に襲われた。巨大蛇(ジャイアントスネーク)狂奔鹿(マッドディア)などと散発的に戦う。4人で戦うのであれば倒すのも難しくはない。


 日没直前になると4人は野営の準備を始めた。手早く済ませると焚き火を囲んで食事を始める。森での数少ない楽しみだ。


 その食事中にオレークがぽつりと漏らす。


「魔物の数、今日はやたらと多くなかったか?」


「オレークもそう思うか。森の奥でもないここで10匹だからな。おかげで進みが悪い」


 面白くないといった様子のマクシムが同調した。


 それに対してトリスタンが疑問を投げかける。


「これは普通じゃないのか?」


「前回の巡回任務を思い出してくれ。森に入った初日には何も遭わなかったし、2日目は朝の間に連続で3匹も遭って多いとオレが愚痴ってただろう」


「そういえば、あの日の昼に会ったパーティのリーダーも獲物を狩れていないって愚痴ってたな」


「そうだ。この森にはたくさんの獣や魔物がいるのは確かだが、こんなに密集していたらあいつら同士で縄張り争いが起きる。それを考えると、こんなに魔物と遭うのは不自然だ」


 マクシムに断言されたトリスタンは黙ってうなずいた。


 しかし、なぜそんな不自然な状況になっているのかがわからない。焚き火を囲む全員の言葉数が少なくなった。


 翌朝、ユウたち4人は巡回を始める。今回はマクシムの提案で南の方を中心に森の中を探ることになった。今度は魔物にできるだけ見つからないように隠れながら進み、発見したら迂回するということを繰り返す。


 なかなか面倒な行動をしたわけだが、それは報われた。昼頃になって多数の蛮族が集まっているのを発見したのだ。ほぼ平坦な場所なので隠れられる所が少ないが草木の陰を利用してできるだけ近づく。途中からはユウとマクシムの2人だけが進んだ。


 木の根元に生える草の陰から蛮族たちを見るユウがつぶやく。


「30人、40人くらいはいる?」


「結構な集団だな。しかし、男ばかりだということは、何かを狩ろうとしてるわけだ」


「この辺りに蛮族の集落があるってことはないんですか?」


「こんな森の外に近い場所に集落があるという話は聞いたことがない」


「どうしてあんなに集まっているのかな」


「森から出たら川の向こうに街道があるから、隊商を襲うのかもしれん」


 話を聞いていたユウはヴィリアンの村に向かう途中のことを思い出した。あのときに1度蛮族の襲撃を受けたことがある。


「隊商を襲うのに40人くらいというのは多い方なのかな?」


「オレとしては少し多いようにも思えるが、実際にそのくらいの人数で襲われたという話はあるにはある」


「この人数で村を襲うってことは?」


「さすがに少なすぎる。100人単位でないと。ということは、隊商を襲うために集まったのか」


「早く戻って本部に伝えるべきだよね」


「もちろんだ。が、もう少し周りを見てみよう。奥にもまだいるかもしれん」


 観察を切り上げたマクシムに促されてユウは仲間2人のところまで戻った。更にそこから大きく迂回して反対側からも蛮族たちの様子を窺う。すると、最終的に70人程度も集まっていることが判明した。さすがに隊商を襲うには規模が大きすぎる。


 ある程度知りたいことを知ったユウたち4人はその場を離れた。そこから急いで村へ戻ろうとするが、このとき邪魔になったのが魔物だ。急いでいる姿が目に付くのか、往路以上に魔物と遭遇する。充分に離れていることは承知していても、蛮族たちに気付かれないかという不安は常について回った。


 それでもどうにか村へとたどり着き、4人は急いで警備隊本部へと向かう。警備室へと入るとマクシムが事務員を呼び出した。前回と同じ頭頂部がいささか寂しい事務員がカウンターの前にやって来る。


「お、今日は顔がちょいと真剣だな。何かあったのか?」


「報告が2つある。ひとつは村から南東側の川沿いの森に魔物が多数湧いて出てきてる。黒妖犬(ブラックドッグ)巨大蛇(ジャイアントスネーク)突撃猪(チャージボア)狂奔鹿(マッドディア)なんかと1日10回ほど遭遇するくらいだ」


「おい待てよ、そりゃおかしいだろ。縄張りが被りまくってるじゃねぇか」


「そうだよ。だからこうやって報告してるんだろう。証拠だってあるぞ。ほら、これが討伐証明の部位だ」


 しゃべるマクシムの隣に出てきたオレークが麻袋2つをカウンターの上に置いた。それから袋の口を開けて事務員に見せる。


「うわっ、こんな所で開けるなよ! あーあ、カウンターが汚れちまう。掃除するのオレなんだぜ。って、本当にたくさんあるな」


「だろう。だから、今は南東側に魔物が溢れてるんだ」


「ちなみに、それって魔物を積極的に狩ったんじゃないよな?」


「逃げまくってこれだ。というより、数が多すぎて逃げた先にまた別の魔物がいることもあるんだ。だから最後の方はもう諦めて目の前の奴は倒していった」


「村の冒険者が聞いたら喜びそうな話だな」


 麻袋を取り下げるオレークを尻目に事務員が肩をすくめた。しかし、すぐに表情を改めてマクシムに問いかける。


「で、2つ目ってのは何だ?」


「その南東側に蛮族の集団がいた。オレたちが確認できた範囲で70人だ」


「中途半端だな。隊商を襲うには多すぎるし、村を襲うには少なすぎる」


「ああ。連中の目的は何かわからんが、何かやろうとしてることだけは確かだ。だから、あいつらは早く始末しておいた方がいい」


「そいつぁ言えてるな」


「マクシム他3人、ちょっとこっちに来い」


 話をしていたマクシムと事務員が奥にある席へと顔を向けた。すると、イグナートが目を向けていることに気付く。事務員がマクシムに小さく顎をしゃくった。


 呼ばれたユウたち4人は警備角奥にある警備隊長の机の前に立つ。代表してマクシムがイグナートの前に出た。


 その様子を黙って見ていたイグナートが口を開く。


「今の報告は聞かせてもらった。非常に気になる話なので詳しく聞かせてもらいたい」


「それはいいですけど、さっき話したので全部ですよ?」


「他の3人からも話を聞きたいんだ。何か新しいことがわかるかもしれんからな」


「そういうことでしたら」


 理由を聞いたマクシムが下がると順番に説明するようユウたち3人に促した。最初はユウ、次いでトリスタン、最後はオレークの順番に自分の知っていることや感じたことをイグナートへと伝える。


 3人が話す間、イグナートはほとんど黙って聞いていた。たまに質問することもあるがそれほど多くはない。


 最初にマクシムが報告していたこともあって3人からの説明はそこまで時間はかからなかった。オレークが話終わるとイグナートが口を開く。


「なかなか面倒そうな話だな。魔物の増加と蛮族の集結か」


「イグナート隊長、他の場所でもそういった話はないんですか?」


「今のところは聞いていない」


「オレたちが前回の任務で遭った蛮族の連中はその後どうなったんです?」


「そちらは現在調査中だ。あれもまとまった人数がいたから無視できん」


「さすがに秋になると蛮族の奴らが湧いてきますね」


「自分たちの集落に閉じこもっていればいいものを、厄介なことをしてくれる。ところで、マクシムはこの魔物と蛮族の話は関連あると思うか?」


「どうでしょうね。関係があるとして、連中がどうやって魔物をまとめてあの辺りに放り出したのかがまるでわからないですよ」


「何らかの手段があるとして、これからもこんなことをされたらたまらんな」


 報告の内容にイグナートはため息をついた。一見すると地元の冒険者の狩りの対象が増えて良いように思えるが、いつも自分たちにとって都合の良い魔物ばかりが増えてくれるとは限らない。それに過剰に増えると薬草採取など他の作業に支障が出る。なので魔物が増えた現象は森の恵みではなく厄災と見るべきだ。


 ひとつうなずいたイグナートがマクシムたちに告げる。


「ご苦労。下がってくれていい。それと、次の巡回については明日連絡する」


「わかりました」


 代表のマクシムが答えたことで解散となった。ユウたち4人は物品室で魔物の討伐証明の部位を換金するとその日は解散する。


 毎回巡回任務をこなす度に村の問題は増えつつあった。

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