森の巡回の打ち合わせ
ヴィリアンの村に到着した翌日、ユウとトリスタンは二の刻の鐘が鳴ると共に起きた。食堂へと向かうと中はほぼ満席だったので、一旦他の準備を済ませてから再び食堂へと向かう。こうして生活の習慣を調整していった。
今日は明日からの巡回に備えてやることがいくつかある。それに向けて2人は行動を始めた。
最初は三の刻の打ち合わせだ。警備隊本部の打合せ室に向かう。
鐘が鳴ると同時にユウたちが入室すると既に2人の男が座っていた。1人は気難しそうな顔をした小柄な男で、もう1人は彫りの深い顔をした大柄な男だ。
そんな見知らぬ2人にユウが声をかける。
「おはよう」
「ああ。あんたらが昨日初めて来たっていう冒険者か?」
「そうです。古鉄槌のリーダーのユウです」
「俺はトリスタンっていうんだ。よろしくな」
「オレは森の泉のマクシムだ。リーダーをしてる。こっちはメンバーのオレークだ」
紹介された大柄な男が会釈したのでユウとトリスタンも返礼した。感触としては悪くない。うまくやっていけそうに思える。
挨拶をきっかけに雑談を始めてすぐ、もう1人が打合せ室に入ってきた。警備隊の隊長であるイグナートだ。4人の様子を目にして小さくうなずく。
「俺が紹介する前からもう打ち解けてるのか。結構なことだ。それでは、これから明日の巡回についての説明を始める」
「隊長自らが説明とはどんな大任務なんです?」
「たまたま人がいなかっただけだ。まさか病欠に急用だなんて予想できないだろ」
茶化してきたマクシムの言葉をイグナートは受け流した。そうして居住まいを正して黙る4人に対して言葉を続ける。
「今回、お前ら4人にやってもらう巡回はいつもの定期巡回だ。マクシムたちはよく知っているだろう。そこへユウたち2人に参加してもらう。この新顔2人は蛮族の森での活動は今回が初めてだから、マクシムとオレークは色々と相談に乗ってやってくれ。ユウとトリスタンに説明すると、定期巡回とは決められた一定の範囲内を1周して様子を見て回る物見のことだ。これが基本だからよく覚えておいてもらいたい」
「場所と期間は?」
「巡回地域は村の真南の地域で6日間の予定だ。目的は蛮族の襲撃の兆候がないかを確認すること。数人程度の蛮族ならば討ち取っても構わないが、手に負えない人数ならば情報を持ち帰ることを優先するように」
マクシムの質問も取り入れてイグナートが話を続けた。昨日の概要説明にあったことも含まれていることから、ユウとトリスタン向けにひとつずつ教えてくれていることがわかる。繰り返されるということはそれだけ重要だということだ。
次いでオレークが発言する。
「2人に獣や魔物についての取り決めも話した方がいい」
「そうだな。蛮族の森と呼ばれているが、森の中にはもちろん他の生き物もいる。獣や魔物もだ。そしてこれらについては、警備隊に所属していない村の冒険者の獲物なので極力殺さないことを命じておく。警備隊に所属する冒険者の相手はあくまで蛮族であり、それ以外ではないということだ」
「襲われた場合はどうするんだ?」
「自衛のための場合はやむなしとする。ただ、蛮族は血の臭いにも割と敏感なようだから、戦闘はできるだけ避けた方が無難だな」
蛮族の森での活動の仕方を知らないトリスタンの質問にもイグナートは明確に答えた。地元の冒険者と競合しないための規則があることにユウたちも安心だ。
質疑応答をこなしながらイグナートは説明を続ける。
「また、村の冒険者から救援要請があった場合は可能な限り応じること。巡回任務とぶつかる場合もあるかもしれないが、その場合は臨機応変にやってもらうことになる」
「例えば、蛮族を追跡しているときに地元の冒険者から救援要請があった場合はどうするんですか?」
「難しい判断だな。一例としては、たまたま居合わせた蛮族を追いかけているときは要請に応えた方が良いし、逆に蛮族の大集団を追跡しているときなどは巡回任務を優先するべきだろう」
「判断の仕方によっては後で恨まれそうですね」
「過去にそういう事例はある。が、蛮族を放置すると危険なのも確かだ。だからこそ、臨機応変にやってもらうしかない」
尋ねたユウは難しい顔をして黙った。任務についてだけでなく、周囲との関わりにも気を遣う場面があるのは厄介だ。それが味方となると尚更である。
その後も打ち合わせは内容が徐々に具体的になりながらも続いた。気付けばユウとトリスタンに対して、イグナート、マクシム、オレークの3人が色々と教えるという形になっていた。
それが一段落するとイグナートが打ち合わせを終わらせる。
「オレから伝えるべきことはこんなものだな。後はお前たち4人で話し合ってくれ」
「この打合せ室はそのまま使ってもいいんですかい?」
「構わない」
マクシムの問いかけに許可を出したイグナートは打合せ室を出て行った。
室内に4人だけとなるとマクシムとオレークがユウとトリスタンへと顔を向ける。
「さて、それじゃここからはオレたちの話し合いだ。明日から6日間蛮族の森で一緒に行動するわけだけど、お互いのことを知らないと充分な協力ができない」
「僕もそう思う」
「そりゃ良かった。それじゃ早速なんだが、ユウとトリスタンは森の中で活動したことはあるかい?」
「僕はあるよ。駆け出しの頃に2年間と、別の場所で確か5ヵ月くらいだったかな」
「俺はないな」
「だとすると、ユウは森の基本的なことは知ってるわけか」
「共通する部分については」
「それなら、トリスタンに基本的な知識を教えるのはユウが中心になってやってくれ。オレたちは蛮族の森に関する知識を教えよう」
こうしてユウたち4人はお互いのパーティの事情を披露して方針と作戦を練っていった。それによると、移動のときはマクシムが先頭で周囲を確認するが、周囲の警戒はユウもある程度できるので2人で分担することになる。また、マクシムは弓使いでオレークは近接戦闘を担当しているが、ユウとトリスタンも近接戦闘専門なので戦闘のときは古鉄槌が前衛を担当し、森の泉は後衛を担当することになった。
役割を俯瞰すると全体的にユウの負担が重いが、単独パーティで行動するときと同じなのでこの案のままということになる。一時的に組むことを前提にした役割分担だった。
大体話がまとまったところでマクシムの雰囲気が少し真剣なものに変わる。
「それと、これは他のパーティと組むときに必ず決めていることなんだが、最悪の場合、誰が情報を持ち帰って誰が時間稼ぎをするのかをここで決めておきたい」
「集めた情報を本部に持って帰らないと意味がないもんな」
言葉を受けてトリスタンが肩をすくめた。オレークも静かにうなずいている。
蛮族の森と呼ばれているだけあって森の中では蛮族の方が優勢だ。なので、常に自分たちが有利に行動できるわけではない。そのため、もしものときのことを考えておく必要がある。
ここで全員が黙った。しかし、マクシムが最初に口を開く。
「最悪の場合はオレが村に情報を持ち帰る。これは、この4人の中では蛮族の森のことを一番よく知ってるからだ」
「僕もそう思う。たぶん、この中だと一番足が速そうだし」
「はは、かけっこなら負けないぞ。オレの自慢のひとつなんだ」
自分の足を軽く叩きながらマクシムはにやりと笑ってみせた。ユウ以外の他の2人も異存はないようで黙っている。
これで重要なことはすべて決められた。場の空気が弛緩する中、マクシムが落ち着いた声で話す。
「あと他には、そうだ、蛮族について話しておこうか。敵がどんな連中なのか知っておいた方が戦いやすいからな。ユウたちは蛮族を見たことがあるか?」
「村に来るまでに1度戦ったかな」
「おお、それなら話が早いな。連中はオレたちの文明を拒絶して森に入ってくる人間を見境なく攻撃してくるんだ。話す言葉もまったくわからないから何を考えてるのかもわからない厄介な連中さ。それでも、戦っているうちにいくらかわかったこともある」
そう前置きをしたマクシムが蛮族について語り始めた。その内容は実体験に基づいたものであり、大変な説得力がある。中にはユウたちが既に経験したこともあったが、それだけに他の知識も素直に信用できた。
語り終えたマクシムにユウが礼を述べる。
「ありがとう。事前に知っておけて良かったよ」
「後は実際にどれだけ役に立たせられるかだな。期待してるぞ」
「へへ、任せとけって!」
脇からトリスタンが声を上げて周囲の笑いを誘った。
イグナートからの巡回指示に始まってマクシムたちの知識伝授を終えたユウとトリスタンはそれなりに自信を持てるようになる。
何となくやっていけそうにユウは思えた。




