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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第20章 東端地方の蛮族

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最前線の村

 東端の街道を進み始めて7日目、ガヴリーロヴィチの隊商はヴィリアンの村へと到着した。そろそろ夕方になろうかという頃合いである。


 荷台の中を御者台へと移ったユウとトリスタンは目の前に迫る村を目にした。外周は防壁として土塁と木製の柵と堀に囲われており、それら防壁の一部は所々真新しい部分が見受けられる。その姿は村というより砦に近い。西門から中に入ると防壁近くには小さな畑が並び、建物は村の中心に集まっていた。


 村の建物の手前で隊商の荷馬車は停車する。ユウたちも荷台から下りると背嚢(はいのう)を背負って移動する準備を済ませた。お互いに用意が整うと商隊長の元へ向かう。


 ガヴリーロヴィチは配下の者に指示を出していた。その間に鋭い槍(オーストレカピオ)古鉄槌(オールドハンマー)の2パーティが集まる。


「警備隊に行く者たちは、集まったな。よし、ならこれから冒険者ギルドへ向かう」


 冒険者が5人いることを確認したガヴリーロヴィチは宣言すると歩き始めた。とはいっても遠くはない。少し離れた場所にある石造りの小さな建物が冒険者ギルドだ。


 建物内は閑散としており、隅に4人ほどの冒険者が集まっていた。受付カウンターには暗い感じのする職員が立っている。ガヴリーロヴィチは迷いなくその受付係の前に立ち、手続きを始めた。


 その2人の様子をユウたちが黙って眺めていると、暗い感じのする受付係が隅に集まっていた冒険者4人を呼んだ。そして、ガヴリーロヴィチに紹介する。話を聞くに、どうも警備隊の仕事を終えた冒険者たちのようだ。


 挨拶を済ませたガヴリーロヴィチがユウたち5人へと顔を向ける。


「お前たちの警備隊への入隊手続きは済ませた。後は警備隊本部に行くだけでいい。それじゃ、元気でな」


 今後の説明と挨拶を簡単に済ませたガヴリーロヴィチは新たに冒険者4人を率いて室内から出て行った。連れられてきたユウたちは残されたままだ。


 すると、ダヴィットがユウとトリスタンに話しかける。


「行こう、警備隊本部なら知っているから案内する」


「ありがとう、助かるよ。いつもこんな感じなの?」


「ああ。知らない者ばかりだったらそこの受付係に聞けば教えてくれるからな。ガヴリーロヴィチのような商売人はここに冒険者を連れてくるまでが仕事なんだ」


 肩をすくませたダヴィットがユウに説明した。それが終わるとすぐに歩き始める。


 ダヴィットに率いられたユウたちは建物から出ると村の南へと足を向けた。すぐに石造りの建物1つと木造の建物2つを目にする。その石造りの建物に5人は入った。


 とある扉の前で立ち止まったダヴィットは他の4人に振り返る。


「これからイグナート隊長を呼んでくるから、お前たちは先に打合せ室で待っていてくれ」


 そう言うと、ダヴィットはそのまま先へと進んだ。


 残された4人の中でザハールが声を上げる。


「中に入ろうぜ! 今回はユウとトリスタンがいるから説明が長そうだ」


「ザハールたちだけだったら短いの?」


「そりゃもう知ってるからな。去年なんか、ダヴィットが警備室でオレたちが入隊したことを言ってる間に、オレとエウゲニーは物品室で荷物を受け取っていたくらいだぜ」


「その辺りの話もしてもらえるんだよね」


「あーするする。今から眠たくなりそうだ」


 小さい方の打合せ室に入ったユウたち4人は席に座ってからも雑談を続けた。


 しばらくすると、ダヴィットと赤毛の髪の厳つい顔をした男が入室してくる。ダヴィットは仲間の近くに座ったのに対して、赤毛の筋肉質な体の男は5人の前に立った。その男が口を開く。


「ヴィリアンの村のへようこそ。オレはこの村の警備隊の隊長を務めるイグナートだ。今回、警備隊への参加を志願してくれて感謝している。鋭い槍(オーストレカピオ)は毎年この頃から春まで参加してくれて助かっているぞ。また、今回初めて志願してくれた古鉄槌(オールドハンマー)にも感謝している。今は苦しい時期だからな。人手は1人でも多い方がいい。では、今回初めて参加する者たちのためにここの警備隊について説明をしよう」


 挨拶から説明へと入ったイグナートが話を始めた。


 ヴィリアンの村の警備隊は大きく分けて2つから構成されている。ひとつは村の若者である隊員と外部から集めた傭兵から構成された本隊、もうひとつは冒険者の集団だ。分けられている理由は、冒険者はパーティ単位で動くのは得意でも、軍組織の部隊単位で動くのは苦手だからである。


 警備隊の活動は警備と巡回の2種類である。警備は村内および防壁近辺にて蛮族の襲撃を防ぐ仕事で、巡回は村内の警邏と村周辺の治安活動と蛮族の森での警戒の3種類だ。このうち、村内の警邏は隊員、村周辺の治安活動は傭兵、蛮族の森での警戒は冒険者が担当している。


 警戒とは、森での蛮族の襲撃を事前に察知するための活動である。また、可能なら足止め、人数の間引き、襲撃の阻止を行うため、臨機応変な対応が求められる。更に今までの経験から、身軽な状態で森に入るため巡回に不要な旅の道具は宿舎に置いておくことが求められ、代わりに巡回に必要な最低限の道具と食料は支給される。


 待遇は、在隊期間中に1日銅貨2枚、3度の食事と1日分の水が雇い主から支給される。尚、食事は温かい食べ物、寝床はパーティ単位の部屋がある宿舎、酒場は自腹である。


 討伐報酬は、魔物が1体銅貨2枚、蛮族が1人銅貨4枚であり、戦利品は討伐した当人または該当パーティに優先権がある。


 ここでイグナートは話を区切った。特にユウとトリスタンに目を向ける。


「警備隊についての大まかな説明はこのようになるが、何か質問はあるか?」


「カウンの町で聞いた話だと、宿舎は安宿の大部屋みたいな感じだと聞いていたんだが、実際どうなんだ?」


「それは古い情報だな。少し言いにくい話なんだが、今年の春に蛮族に冒険者用宿舎が火矢で焼き討ちに遭って建て直したんだ。木造の建物のうちひとつは真新しかっただろう?」


「ああ、なるほど」


「だから、お前たち冒険者はパーティ単位で寝泊まりできる」


 トリスタンの質問にイグナートが答えた。近くに座っているザハールが喜ぶ。後で聞いたところ、まだ大部屋だった頃の宿舎しか利用したことがないとのことだった。


 じっと話を聞いていたユウは微妙な表情を浮かべて黙っている。隊商の護衛中にダヴィットから聞いていたので驚きはない。ただ、傭兵と比べても冒険者の危険が高い点は気になった。とはいっても、傭兵に蛮族の森で活動してもらっても冒険者以上の活躍は期待できないので、この編成と配置以上の代案は出せないのだが。


 そんなユウに対してイグナートが声をかける。


「ところで、古鉄槌(オールドハンマー)の在隊期限は11月いっぱいでよかったな?」


「はい。ここからウェスニンの町へ向かう定期便か臨時便の護衛に就ける証明書をもらえるんですよね」


「ここからだとウェスニンの町へ直行する隊商はいない。隣のセンスラの町まで行く隊商ならいるが」


「では、その後は?」


「お前らが除隊後に証明書を発行するから、それを冒険者ギルドに見せて仕事を探せばいい。センスラの町からならウェスニンの町へ向かう隊商はいるはずだから、仕事を回してもらえるはずだ」


「わかりました」


 再び途中の村で警備に就くのはさすがに避けたかったユウは安心した。とりあえず冒険者の扱われ方に関しては目をつむることにする。


 話が一段落したところで、今度は鋭い槍(オーストレカピオ)から声が上がった。ダヴィットからイグナートに質問を投げかけられる。


「カウンの町でこの村が先月蛮族に襲撃されたと聞いたが、今の警備隊の状況はどうなってるんだ?」


「結構派手に襲われて少なからぬ損害を受けた。これは村の若者、傭兵、冒険者すべてだ」


「おい、大丈夫なのか」


「とりあえず通常の任務はこなせている。余裕はないがな」


「隊員や冒険者の補充はできていないのか?」


「まだ襲撃されて1ヵ月も経っていないからな。思うようには再編できていない状態だ。村の若者の人数には限りがあるし、東端地方には戦争できる余裕がないから傭兵はほとんど寄り付かないからな。そこで、何とかお前たち冒険者に頑張ってもらいたいんだ」


「オレたちみたいな警備隊の指揮下にいる方じゃなく、村の冒険者は頼れないのか?」


「あっちはあっちでやることがあるんだ。全部を警備隊に回すと森での狩猟や採取に支障が出てしまう。そうなると村の生活が立ちゆかなくなるんだ」


「うまくいかないな」


 暗い見通しを告げられたダヴィットはため息をついた。とりあえず、蛮族の活動が低調になる冬まで何とかしのがねばならないとイグナートが締めくくる。


 話を聞いていたユウとトリスタンはちらりと視線を交わした。どちらも少し渋い顔をしている。状況は良くないらしい。


 ユウはこっそりため息をついた。

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