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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第20章 東端地方の蛮族

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護衛する隊商と同じ目的の冒険者パーティ

 何ともうまくはめ込まれた気のするユウとトリスタンだったが、とりあえずは冒険者ギルドの受付係に指示された場所へと向かった。城外支所の建物を出てゆっくりと進む。


 2人が今まで訪れた町だと、荷馬車は大抵街道の脇の原っぱに点在しているものだった。しかし、蛮族がいつ来襲してくるかわからないこの東端地方では、朝一番の出発時以外は町の中にいるのが常識だ。


 それは貧民街に拠点を置く商売人も例外ではない。町の東側にある防壁内の広場に何台かの荷馬車が停車していた。


 受付係から大雑把な特徴を聞いたユウはそれを頼りに1台の荷馬車へとたどり着く。御者台には誰もいないので後方に回ると中に誰か人が乗っていた。


 その髪の毛に白いものが混じった皺の多い顔の男にユウが声をかける。


「冒険者ギルドからやって来たユウとトリスタンです。ガヴリーロヴィチさんはいらっしゃいますか?」


「儂がガヴリーロヴィチだ。冒険者か?」


「そうです。依頼を引き受けるためにやって来ました」


「すぐそっちに行く」


 荷台の上で返事をしたガヴリーロヴィチがゆっくりと地面へと下りた。結構大きな体である。商売人なので鍛えられているわけではないが、見る者を圧倒する感じだ。


 そんなガヴリーロヴィチが紹介状を受け取ってユウとトリスタンの2人を交互に見る。


「依頼の内容は冒険者ギルドで聞いたのか?」


「はい。ヴィリアンの村行きの隊商の護衛で、蛮族に襲撃された村の支援物資を運ぶ臨時便ですよね。報酬は1日銅貨6枚で、護衛の冒険者の都合が付けばすぐに出発する予定だと聞きました」


「その通りだな。ところで、お前らは毛皮製品をもう買ったのか?」


「買いました。これから雪が降るほど寒くなるんですよね、この地方は」


「その通りだ。何しろここじゃ毛皮製品なしで過ごすなんて自殺行為だからな」


「でも、一度に揃えようとすると高いですよね、あれ」


「まぁな。だが、自分の命と体を守れるんなら安いもんだ。蛮族や獣との戦いで防具が役に立つように、毛皮製品は冬の寒さをしのいでくれるんだよ」


「凍傷の話は聞きました。怖いですよね」


「ああ怖いとも。たまに他の地方からやって来た冒険者がカネを惜しんで買い渋ることがあるが、そういう連中は凍傷にかかったり凍死したりしたな。既に毛皮製品を買ったお前らには関係のない話だが」


 そこから過去にあった実際の話をガヴリーロヴィチが話し始めた。割と新しい話もあるようで、最も新しいものでは去年の冬にある冒険者が凍傷にかかったらしい。


 やがてその話が終わると、ユウは更に一言付け加える。


「それと、僕たちはあちらの村に着いたら警備隊に参加することになっています」


「この紹介状にもそう書いてあるな。まぁ、いつものことだ。儂の隊商はそういう連中をあの村に連れて行くのも仕事のひとつだからな。今回は他にももう一組いる」


「そうなんですか。今はどこにいるんです?」


「面会は終わったからここにはいない。乗る荷馬車は別々になるが、出発当日には会えるだろう。3人組の連中だ」


「出発はいつになるんですか?」


「明日の日の出頃の予定だ。だから、それまでに必ず来るんだぞ」


「わかりました」


「冬に向かってこれからは昼の時間が短くなる。だから、日の出ている時間は貴重なんだ」


 やや力説するガヴリーロヴィチにユウはうなずいた。実際にどれだけガヴリーロヴィチの言葉を理解しているのかは自分でも怪しんでいたが、言っていることは正しいので承知したことを態度で示す。


「何か質問はあるか? なければこれで終わるが」


「わかり、いえ、ちょっと待ってください。ひとつ別の件で聞きたいことがあるんです」


「別の件? 何だ?」


「別のずっと遠い町の商売人から紹介状を前にもらったことがあるんですが、それがここでも通用するのか確認しておきたいんです」


「商売人の紹介状?」


 怪訝な表情を浮かべるガヴリーロヴィチにユウは背嚢(はいのう)から取り出した1通の紹介状を手渡した。目の前の商売人が中身を読む間、じっと待つ。


「恐らく本物なんだろう。が、儂はアカムの町もハーマンという商売人も知らん」


「ということは、紹介状としては使えないですか?」


「そうだな。残念だがこの辺りでは使えんだろう。他の場所では使えたのか?」


「同じ街道上の町やそこからいくらか離れた町でしたら」


「まぁ、普通はその辺りで使うものだからな。さすがにこの地方は遠すぎるようだ」


「そうですか」


「しかし、これは大切に持っていた方がいいぞ。紹介状としては役に立たなくても、お前が信用できる者だといくらかは証明してくれるからな」


「どういうことです?」


「どこの誰だか知らなくとも、この商売人はお前のことを信用したという証明にはなるからだ。こういう小さな信用が物事を動かすこともあるんだよ」


「なるほど」


 意外なことを教えてもらったユウはいくらか慰められた気がした。元々捨てる気はなかったが、より一層大切にしようと心に誓う。


 聞きたいことを聞いたユウはトリスタンと共にその場から立ち去った。




 翌朝、ユウとトリスタンは二の刻の鐘が鳴ると共に起きた。冷え込むようになってきた安宿の大部屋で支度を済ませるとすぐに外へと出る。


 そらは既に白み始めていた。周囲も薄らと明るくなっている。


 昨日と同じ場所に2人が向かうと荷馬車はまったく同じように停車していた。しかし、今朝は何人もの人々が周囲にいる。


 その中からユウはガヴリーロヴィチを探し出した。近づくと声をかける。


「おはようございます、ガヴリーロヴィチさん」


「お前たちか。よく来た。これで全員揃ったな」


「ガヴリーロヴィチさん、そいつがさっき言ってた冒険者ですかい?」


「そうだ。ユウとトリスタンだ」


「初めまして。僕は古鉄槌(オールドハンマー)のリーダー、ユウです」


「俺はパーティメンバーのトリスタンだ」


「オレはザハールってんだ。鋭い槍(オーストレカピオ)のメンバーなんだぜ!」


「何でお前はリーダーのオレよりも前に出てきてるんだ」


 最初に声をかけてきた茶髪のそばかすのある男に白い顔のがっちりとした体の男が呆れていた。リーダーと名乗った男に突っ込まれたザハールが愛想笑いをしながら引き下がる。


「すまんな。では改めて、オレは鋭い槍(オーストレカピオ)のリーダーのダヴィットだ。隣にいる戦斧(ハルバード)を持ってるのがエウゲニーで、今出しゃばったのがザハールだ」


 真面目そうなダヴィットの紹介を聞いたユウとトリスタンはうなずいた。そして、ザハールの普段の立ち位置を把握する。


「ダヴィット、僕らは村の警備隊に参加する予定なんだけど、そっちも同じなの?」


「ああそのつもりだ。来年の春頃までかな」


「半年ほどなんだ。結構長くいるんだね」


「冬の間は仕事が減るからな。知り合いと取り合いになってもつまらないし、オレたちは村の警備隊に毎年参加してるんだ」


「そうなんだ。ということは、ヴィリアンの村の警備隊にはもう何回も参加していたりするのかな?」


「参加してるぞ」


「それじゃ後で色々と聞こうかな」


「構わないぞ。ところで、ユウたちはどのくらい警備隊にいるつもりなんだ?」


「僕たちは11月いっぱいの予定だよ」


「ウェスニンの町に行く途中なんだ」


「なるほどな。この時期だと警備隊に入るしかないのは確かだ。冒険者ギルドから色々と言われなかったか?」


「うん、言われた。ねぇ、トリスタン」


「断るっていう選択肢を取り上げられていたよな」


 トリスタンが肩をすくめると冒険者全員が笑った。ダヴィットの話からしてもあの受付係のやり方はいつものことらしいことをユウは知る。


 割と話しやすい3人組とユウたち2人はその後も雑談を続けた。これならば村に着くまでの道中も楽しくできそうだと期待する。


 やがて東の空が明るくなった。太陽が姿を現したのだ。それに合わせてガヴリーロヴィチが声を上げる。


「出発するぞ! ユウたちは最後尾の馬車に乗れ。ダヴィットたちはそのひとつ手前のやつにだ。もたもたするんじゃないぞ!」


 商隊長の声を耳にしたユウとトリスタンはダヴィットたちと別れると最後尾の荷馬車に向かった。背負っていた荷物を荷台に載せると次いで自分も乗り込む。


「最近は冷えてきたな」


「あの買った毛皮製品、そろそろ着ようか」


「でも、まだ誰も着てないぞ」


「それじゃ、まだ我慢する?」


「うーん、難しいところだよな。村に着いてからでもいいような気がするんだ」


「僕は今晩辺りから使おうかと思っているんだ。だって平原だと吹きさらしだし、絶対寒いよ」


「そうだなぁ」


 そんなとりとめもないことをユウとトリスタンが話していると荷馬車が動き始めた。東から差してくる朝日が原っぱと街道を明るく照らす。


 何事もないようにと祈りながらユウは荷馬車に揺られてゆっくりと進んだ。

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