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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第17章 古鉄槌、街道を行く

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隊商の人足兼護衛の仕事

 休暇を満喫した翌朝、ユウとトリスタンはアカムの町の冒険者ギルド城外支所へと向かった。東へ向かうために仕事を探すためだ。


 落ち着いた感じのする室内に入って行列に並んだ2人はすぐに受付カウンターの前に立つ。受付係にすぐ話しかけられるのはこの城外支所の利点だ。


 前に立つユウが受付係に声をかける。


「穀物の街道を東に向かいたいんですけど、隊商か荷馬車の護衛の仕事はありますか?」


「護衛は傭兵の仕事だよ。前にも言わなかったかな?」


「それじゃ、隊商の人足兼護衛の仕事はありますか? 昨日、セレートの町からその仕事をしてこの町にやって来た冒険者に話を聞いたんです」


「お、いいところに目を付けたな。その手の話だと確かにあるぞ」


「これって傭兵とは別に雇うんですか?」


「そうだ。ここから東の穀物の街道は西と違って治安が悪いからな。戦力はいくらあっても困らないんだ」


「だから人足を差し置いてでも冒険者を雇うと」


「ああ。東の穀物の街道に限れば、傭兵も冒険者も両方雇うのが当たり前なんだ」


「珍しいですね」


「この仕事を引き受けるのならば覚悟しておくんだな」


「なんだか引き受けてほしくないみたいですね」


「そんなことはない。たまに甘っちょろいヤツが引き受けて、泣いて逃げることがあるんだ。それはこっちとしても困るんでね。毎回新顔は少し脅かしておくんだよ」


 わずかに困惑するユウに対して受付係がにやりと笑った。そして、そのまま続ける。


「この種の依頼は、傭兵団の欠員募集ではなくて商売人との直接契約だ。大抵は隊商のな。それで、護衛だけでなく雑用係も兼任してるからその分だけ報酬は高めだ」


「ちなみに、いくらですか?」


「1人1日銅貨6枚が相場だな」


 受付係の話を聞いたユウとトリスタンは目を見開いた。今までの護衛の報酬が銅貨4枚なので5割増しだ。1人2役だと考えれば妥当ではあるが、高い報酬を示されるとやはり嬉しい。


 今度はトリスタンが脇から口を挟んでくる。


「それで、どんな依頼があるんだい?」


「隊商を率いる商売人アイヴァンからの依頼がある。今話した人足兼護衛という仕事で報酬が1人1日銅貨6枚だ。2日後に出発とちょっと急ぎのやつだな」


「他にはあるのかい?」


「4人パーティや6人パーティ向けのやつならあるが、2人向けはないな」


「ユウ、これをやってみないか? というか、これしかないぞ」


「そうみたいだね。それの紹介状を書いてもらえますか」


 承知した受付係が羊皮紙に羽ペンを走らせた。手早く書き終えると折り畳んでユウに手渡す。それで仕事は終えたという顔をした。


 仕事の端緒を掴んだユウとトリスタンはすぐに踵を返して城外支所から出る。町の北側にある原っぱへと足を向けた。


 穀物の街道の東側へと向かう荷馬車の数は多い。治安が悪くても主要街道であるため荷馬車や人の往来が多いのだ。しかし、商売人や旅人も無策ではない。より多くの集団を形成し、より武装を整えて対抗するのだ。


 荷馬車の集団や徒歩の集団が出発していく中を2人は目的の隊商を求めて歩く。見てわからないのならば聞き回れば良い。それらしい人物に声をかけては首を横に振られた。


 都合8回間違い、いい加減うんざりとしてきた9回目にようやく目当ての人物に出会える。暗い金髪で自信ありげな顔をした丸みのある体の中年だ。


 受け取った紹介状に目を通したアイヴァンが2人に目を向ける。


「ふむ、本物のようだな。では改めて、私がこの隊商の長であるアイヴァンだ。ファーラン市からここアカムの町までやって来たが、この先は危険地帯だから戦える者を少し増やそうと思ってな。冒険者を雇うことにしたのだ」


「僕は冒険者のユウです。こっちはパーティメンバーのトリスタンです。人足兼護衛の仕事ということで応募しました」


「きみたち2人は、隊商や荷馬車の護衛の経験はあるのか?」


「どちらもありますよ。人足はありませんけど」


「なるほどな。まぁ、人足の仕事もしっかりやってもらいたいが、本命は護衛だ」


 小さくうなずきながらアイヴァンはユウと会話をした。たまにトリスタンへも目を向ける。値踏みをするような視線だ。


 そのトリスタンが口を開く。


「ここから東の穀物の街道は危ないと聞いていますが、そんなになんですか?」


「ああ、危険だ。今までもそうなんだが、最近は特にひどくてな。何しろ、マグニファ王国とウォード王国が戦争をしているせいでこの辺りの傭兵の数が減ってな、盗賊の討伐が難しくなってきているんだ」


「あの戦争ってそんな影響があったんですか」


「何しろ大規模だからな。傭兵なら一旗上げたくもなるだろう。商機があればどこへでも行く私たちと同じだ。そのせいで護衛の傭兵が不足するのはたまったものではないが」


「だから足りない分を俺たちで補うってわけですか」


「その通りだ。ともかく、きみたち2人は採用ということにしよう。出発は2日後だ。あまり時間がない」


「ありがとうございます!」


 首尾良く採用されたことを知ったトリスタンが真っ先に喜んだ。ここで断られると当面足踏みをすることになりそうだっただけにその喜びもひとしおだ。


 そんなトリスタンから目を離したアイヴァンはユウへと顔を向ける。


「きみたちは人足として雇い入れる。なので立場は人足だ。普段は各種雑用をしてもらう。護衛の仕事は傭兵が担当するから気にしなくても良い。ただし、戦闘が始まった場合は戦ってもらう。主に荷馬車を守るためにな」


「ということは、夜の見張り番なんかはしなくても良いんですか?」


「そうだ。きみたちの立場は人足だからな。戦うときだけ戦闘員として扱う。何もなければ割の良い人足仕事をしたということになるだろう。逆に、盗賊の襲撃が続くとなると割に合わない仕事になる。私としても無事にセレートの町に着きたいからな。せいぜい神様にでも平穏無事を祈っておいてくれ」


「人足という立場ということは、護衛隊長の指示は受けないんですか?」


「そうだ。わたしが直接指示する。護衛の傭兵は襲撃者を追い払うことだが、きみたち冒険者の目的は荷馬車を守ることが最優先だ」


「襲撃者を追い払ったら荷馬車を守れると思うんですけど、前に何かあったんですか?」


「盗賊どもが護衛の傭兵を荷馬車から引き離した隙に別の場所から襲われて荷馬車を奪われたことがあったんだ。あれは実に腹立たしかった」


 悔しそうな表情を浮かべるアイヴァンにユウは何も言い返せなかった。恐らく当時の護衛隊長はユウと同じ考えで盗賊を追撃して、その裏を掻かれたのだろうと推測する。


「報酬についてだが、銅貨6枚だ。で、この銅貨だが、どこの通貨で支払えばいい?」


「ユウ、どうする?」


「報酬の通貨は目的地のものにしてもらえますか。セレートの町ということになると」


「セレ王国だ。わかった。ならセレ銅貨と銀貨で支払おう」


「あと、町に到着するごとに支払ってもらえますか。僕たちはそうしてもらっているんで」


「町ごとだな。それもわかった。他に何かあるか?」


 問いかけられたユウとトリスタンは顔を見合わせた。知りたいことは大体聞いたのでお互いに黙ったままだ。


 再び顔を向けてきた2人に対してアイヴァンが伝える。


「ないのならいい。それより、出発は明後日だが、2人とも明日からこちらに来てくれ。関係者に顔会わせをした後、早速働いてもらう」


「わかりました。明日もアイヴァンさんに会いに行けば良いですか?」


「いや、今から呼び寄せる人足頭のところへ行くように。おい、ジムを呼んでこい」


 近くを通りかかった人足にアイヴァンが声をかけた。一礼してすぐさまこの場を去る。


 しばらくすると、髪の毛が禿げかかった険しい顔つきの中年男がやって来た。日に焼けた体がたくましく見える。


「ジム、この2人が明日から人足兼護衛としてわたしの隊商に入ることになった。普段は人足として働くことになるから面倒を見るように」


「承知しました。ジムだ。この隊商で人足頭をしている」


「冒険者のユウです。初めまして」


「同じく、冒険者のトリスタンです」


「明日の三の刻の鐘がなる頃に来い。案内をする」


「わかりました」


「よし、今日はここまでだ。解散」


 宣言をしたアイヴァンは踵を返すとその場から立ち去った。同じようにジムも仕事へと戻ってゆく。


「真面目そうな人だったね、ジムさん」


「真面目すぎて口数が少ないんだろうな。怒ると無言で殴ってきそうだ」


「殴られるのは嫌だから、明日は遅れないように行こう」


「そうだな。そうしよう」


 直属の上司の人となりをユウとトリスタンもあまり気にした様子ではなかった。あの程度ではとやかくいうことはない。


 ともかく、2人はどうにか仕事にありつけたことを喜んだ。

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