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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第15章 都市での汚れ仕事

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胡散臭い冒険者との揉め事

 いよいよ晩秋に入り、地上では風の冷たさが身に沁みるようになる。寒がりな者は外套を羽織る季節だ。


 下水路へ入ることにすっかり慣れたユウはトリスタンと共に今日も稼いできた。外に出ると既に日は没しており、辺りは暗い。設置されている篝火(かがりび)や人々が手にする松明(たいまつ)の明かりでかろうじて周囲が見える。


「すっかり冷えるようになったなぁ」


「今年はいつもよりちょっと早いんじゃないかな。ユウ、早く酒場にいこうぜ」


 わずかに体を震わせたトリスタンがユウを急かした。階段前で立ち止まっていた2人は歩き出す。


 貧民の道には多くの人々が往来していた。下水路から出てきた冒険者や職人、城内の仕事を終えた人足、買い物帰りの貧民など雑多な人々だ。


 そんな人々の間を縫ってユウとトリスタンは貧民の歓楽街へと向かう。職人の宿屋街を過ぎた辺りから道沿いに酒場や食堂が並び始めた。


 すっかり馴染みなった安酒場に向かうため、2人は街の路地へと足を踏み入れる。六の刻の鐘が鳴る前なので人通りは多くなる一方だ。


 あと少しでいつもの店にたどり着くというところで2人は異変に気付いた。目の前にサイモンたち4人が立ちはだかったのである。サイモン以外の3人も柄が悪い。


「よぉ、久しぶりだなぁ」


「サイモンさんじゃないですか。どうしたんですか?」


「ちょいとてめぇらに用があるんだ。(ツラ)貸せや」


「どんな用なんですか?」


「それは後で教えてやる。とにかくついて来い」


「嫌ですよ。なんでいきなりそんなこと言われてついて行かなきゃいけないんですか」


「んだとてめぇ」


 一方的に告げられたユウは用件も告げないサイモンに拒絶を示した。不穏な態度でわけもわからずどこかへ連れて行こうとする者など信用できない。


 しかし、サイモンの方はそんなユウの態度に怒りを示した。眉をつり上げ、歯を見せる。


「ったく、てめぇは最初から生意気だったよなぁ。ちったぁセンパイの言うことを聞けよ」


「一緒に活動していたとき、重要な質問に限って他の人に教えてもらえって言って答えてくれなかったじゃないですか。しかもその理由がお金を寄越さなかったことだなんて。これのどこが先輩なんですか」


「言うじゃねぇか。最初から気に入らなかったんだよなぁ」


 青筋を立てたサイモンが自分の仲間に目配せをした。すると、他の3人がユウとトリスタンを取り囲もうとする。


 その瞬間、ユウはトリスタンを引っぱって踵を返した。目を剥いたトリスタンが叫ぶ。


「ユウ!?」


「逃げるよ!」


 短く返答するとユウは人通りの多い路地と駆け抜けた。さすがに全力では走れないが、人と人の間に体を入れてはすり抜けていく。その後を不器用ながらもトリスタンが続いた。


 2人を囲み損ねたサイモンたち4人は叫びながら追いかける。こちらは通行人のことなど気にせず次々と突き飛ばして進んでいた。


 路地を抜け、貧民の道に出たところでユウは北へと向かった。路地よりも走りやすくなったがまだ人がいる。すぐに道の東側の原っぱに出た。ここなら人にぶつからない。


 追いついて並んだトリスタンが走りながらユウに問いかける。


「いきなり走り出して驚いたぞ!」


「4人に囲まれたら不利だからね!」


「このまま逃げ切れると思うか?」


「ここで撒けなきゃ無理だと思う。それに、どうせ後日またやって来るだろうし」


「それじゃどうするんだ?」


「このまま走っていたらサイモンたち4人はばらばらになるはず。だから2人で1人ずつ倒していこう」


「頭いいな!」


 自分の意図に賛意を示したトリスタンにうなずいたユウは背後を振り返った。すると、サイモンたち4人が追いかけてきているのがかすかに見える。


 走ることにユウは自信があった。足の速さではなく持久の方だ。また、トリスタンも下水路で害獣から逃げていた様子からすると割と走れる方だと推測できる。それに対してサイモンはそこまで長く走れないことを知っていた。この作戦ならうまくいくと確信する。


 1人だけ抜けて2人に近づいて来ていることにユウは気付いた。トリスタンに声をかけてユウは走る速度を調節する。


「トリスタン、最初に僕が仕掛けるから、その後相手を殴って」


「あいつだな。わかった、任せておけ!」


 徐々に走る速さを緩めてユウは近づいてくる1人との距離を縮めた。口汚く制止の声を上げるサイモンの仲間が手を伸ばしてくる。


 もうすぐ手が届くというところで、ユウはいきなり立ち止まって屈んだ。そのまま体当たりをする勢いで肘を相手の腹へと叩き込む。


 突然のことに対応できなかったサイモンの仲間は肘鉄を喰らうと目を剥いた。口を大きく開けて息を吐き出す。更に、ユウに一拍遅れて止まったトリスタンにその顔面へ拳を叩き込まれて吹き飛んだ。そのまま原っぱに倒れてもだえ苦しむ。


「トリスタン、走るよ!」


「おう! これはいいや!」


 きれいに攻撃が決まった2人は再び走り始めた。追跡者たちを引き離しにかかる。


 仲間の1人がやられたのを見て足が緩んだサイモンたち3人だったが、ユウたちが再び逃げると全力で走った。


 大岩の街道との交差点と通り過ぎ、旅人の宿屋街の建物が貧民の道に建ち並ぶのが見える。比較的人の少ない西門側でもこの時間帯ならばなかなかの人の出入りだ。そんな脇を全力で走る人間がいるのだから目を向ける人がいるのは当然だろう。


 貧民街に差しかかる頃には、サイモンたち3人は再びばらけ始めていた。ただし、足が速くて1人が抜け出したのではなく、他の2人が息切れを起こし始めたからだ。


 その様子を見たユウとトリスタンは再び走る速度を調節する。そして、先頭の1人を同じように叩きのめして原っぱに転がした。


 2度もうまくいったのを見たトリスタンが快哉を叫ぶ。


「案外うまくいくものだな! でも、さすがにこっちの戦法に気付いたかな?」


「トリスタン、疲れてきた?」


「まだいける。この程度なら平気さ」


「だったらあの2人と対決して倒そう。今ならあっちは疲れているだろうからこっちが有利なはずだから」


「いいね。逃げてばかりだとつまんないしな!」


 やる気を示したトリスタンを見たユウは足を緩めた。しかし、すぐに警戒し始めたサイモンたち2人が目を剥いて突っ込んでくるのを見て立ち止まる。ユウはサイモン、トリスタンはもう1人とぶつかった。


 勢いをそのままにサイモンがユウに殴りかかる。


「てめぇ、ふざけやがって!」


 表情はすさまじいが体力不足なのかサイモンの動きは鈍かった。


 相手の拳を躱したユウはすぐに反撃に移る。顔に一発当てると動きが止まったことから、腹にも拳を叩き込んだ。大きく息を切らせるサイモンが避けようとするが逃さない。何発か殴って原っぱに倒す。


 一方、トリスタンの方も短時間で勝負は付いていた。サイモンの仲間は地面に転がって呻いている。


 全員が薄らとした白い息を吐く中で、ユウはサイモンに顔を向けた。さすがにここまでされたら話の内容が気になる。


「サイモン、僕たちに一体何の話をしたかったの?」


「畜生、知らねぇ」


 悔しそうな表情を浮かべたサイモンがよろめきつつも立ち上がって逃げようとした。


 最低どんな話だったのかだけでも聞きたかったユウは追いかけようとする。ところが、振り向いたサイモンが剣を抜いて威嚇してきた。


 その様子にユウは驚いて足を止める。


「来るんじゃねぇ、ブッ殺すぞ!」


「こんな所で剣を抜くの? 代行役人に捕まるよ?」


「うるせぇ! 知ったこっちゃねぇよ! 近づくな!」


「お、置いてかないでくれよぉ」


 剣を手にしながら後退(あとずさ)っていくサイモンにもう1人の男がふらつきながら縋った。そうして徐々に遠ざかっていく。


 相手の様子を窺いながらトリスタンがユウに近づいてきた。そして、剣の柄に手をかけながら声をかけてくる。


「このまま逃がしてもいいのか?」


「捕まえようとしたら確実に殺し合いになるから止めておこう。近づいてきた理由は気になるけど」


「冒険者ギルドにすぐ連絡するべきなんだろうけどなぁ。ウィンストンって人の話を聞くに、ちゃんと対処してくれるか怪しいな」


「僕もあんまり期待していないよ。ただ、報告だけはしておこう」


 ある程度距離が開き、背を見せて走り去っていくサイモンたちの姿を眺めながらユウはトリスタンに答えた。貧民の道で立ち止まって見物していた人々も散ってゆく。


 サイモンたちが闇夜で完全に見えなくなった後になって、ユウとトリスタンも貧民の歓楽街に向けて歩き始めた。夕食の直前で乱闘劇を演じたので空腹感が強い。


 具体的な話の内容はわからないものの、密輸関連、更に言うとジャッキーに関することだとユウは推測した。そうなると、これで諦めてくれるとは思えない。


 面倒なことになったとユウはため息をついた。

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― 新着の感想 ―
ユウくんが受けた依頼をトリスタンが手伝う関係だからとはいえ、この頃のユウくんはしっかり考えてリーダーシップ発揮できてて頼り甲斐出てきたなぁ これまで〜アディの魔窟での色んな経験がいきてる
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