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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第14章 魔窟が変わる頃に

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3階に行った元仲間たち

 未だに変化をしている魔窟(ダンジョン)で活動している冒険者たちのために、ユウはウィンストンと共に中へと入った。事前に聞いていた通り、最新の地図でも一部通用しないところがあって顔をしかめることがあったが、それ以外は特に問題はない。


 2人は3階に上がった。ユウにとっては夏以来である。床、壁、天井の造りは相変わらずまったく同じなので一瞬どの階にいるのかわからなくなるくらいだ。


 3階の地図に取り換えたユウがウィンストンに話しかける。


「ここからは地図を描きながら進むことが多いですから、早くは進めませんよ」


「わかってる。3階に上がってきてる連中もみんな慎重だと聞いてるから、そんなに遠くは行ってねぇだろ」


「原則として、魔物のいる部屋に入ったらすぐに退いて別の部屋に行きます」


「わかっちゃいるが面倒だなぁ。何もかもぶち抜いて行けりゃいいんだが」


「そこは諦めてください」


 ため息をついたウィンストンにユウは少しだけ同情した。基本的に真正面から魔物と戦うことを得意とする人なので、戦えないとなるとがっかりする類いなのだ。


 巡回を担当する階にたどり着いた2人はここからは階段を軸に渦巻き状に巡回していった。なので最初は人にも魔物にもまったく出会わない状態が続く。


 しかし、やはり3階は他の階に比べて活動するパーティが少ないためか、昼食前辺りから冒険者たちと出会うようになった。


 こういうときに話しかけるのはウィンストンの役目だ。職員として冒険者パーティに事情を説明する。


「儂は冒険者ギルドのウィンストンだ。魔窟(ダンジョン)はまだ変化が続いてるから迷子がいねぇか巡回してる。誰か見かけなくなったとかっていう話は聞いてねぇか?」


「噂ならともかく、実際には見かけないな」


「だったらいい。何かあったら冒険者ギルドに伝えてくれよ」


 一方、ユウはその横で相手パーティの地図係と話をした。お互いの情報を交換する。


「これ、僕が今まで描いた地図です。よければ写しますか?」


「この辺りはまだ描いてなかったから、写させてくれ」


「はいどうぞ。1階や2階の入口までの経路も確認しておいてください。そちらが入った後に変化している可能性がありますから」


「そうなんだよなぁ。あーめんどくせぇ」


 愚痴を垂れながらも地図係はユウの地図と見比べて自分の地図を修正していった。


 こうして出会ったパーティと話をしていった2人だが、1度出会うと他のパーティともよく出会うようになる。大抵はどこも平気そうであった。


 ただ、巡回していた2人にとって唯一罠が厄介だ。仕掛け矢や落とし穴のような有名なものはもちろん、細い網が通路一面に張られている陰気な網(ディズモルネット)や床一面が強い粘着物質で覆われている粘着床(スティッキーフロア)など、地味な嫌がらせの罠も各地にある。


「ウィンストンさん、この粘着床(スティッキーフロア)は迂回しましょう」


「写した地図には描いてなかったのか?」


「なかったです。原本を描いた人が描き忘れたのかもしれないです」


「しょうがねぇな」


「でも不思議ですよね。仕掛け矢や落とし穴みたいなのはまだわかるんですけど、これや陰気な網(ディズモルネット)って別に殺傷目的じゃないんですよね。いいところ時間稼ぎくらいしかできないのに、どうして設置してあるのかなぁ」


「その時間稼ぎが目的なんだよ。この仕掛けは普段なら大した意味はねぇが、魔物と戦ってるときや逃げてるときだと凶悪な罠になるんだ」


「動きを封じられてしまうってことですか?」


「そうだ。戦ってる最中に体の動きを急に制限されたら致命傷になっちまうし、逃げるときにこんな罠が目の前にあったら絶望しかねぇ」


「状況によって恐ろしい罠になるわけですか」


「その通りだ。魔物は通路から部屋へ、部屋から通路へは追いかけてこねぇが、例えば通路の中ならどこまでも追いかけてくる。だから、ちゃちな罠だとナメてかからんことだ」


 踵を返したウィンストンが歩きながらユウに説明した。


 たまに老職員の薫陶を受けながらユウは魔窟(ダンジョン)内を巡る。既に何組ものパーティに出会い、会話をしていた。それによると、最近は3階で問題は起きていないらしいことがわかる。魔窟(ダンジョン)の変化が終わるまでこのまま何事もないようにと祈るばかりだ。


 そんな中、ユウは懐かしい冒険者と出会う。3階のある部屋に入るととある冒険者たちが休憩していたのだ。


「ケネス、ジュード!」


「おいおい、ユウじゃねぇか。なんだお前、3階に来てたのかよ! 久しぶりだなぁ」


「まったくだ。別れたとき以来だったからな。もう3ヵ月近く会ってなかった」


 スタンリー率いる赤い石(レッドストーン)と出会ったユウは寄ってきたケネスとジュードの2人と握手を交わした。3人とも嬉しそうに話をする。


 その脇からウィンストンが見守っていたが、同じく寄ってきたスタンリーに顔を向けた。そちらへと顔を向ける。


「儂は冒険者ギルドのウィンストンだ。魔窟(ダンジョン)はまだ変化が続いてるから迷子がいねぇか巡回してる。誰か見かけなくなったとかっていう話は聞いてねぇか?」


赤い石(レッドストーン)のリーダーのスタンリーだ。こっちは問題ない。最近はそういった話も聞かなくなったかな」


「そりゃ良かった。何かあったら冒険者ギルドに伝えてくれ」


「わかった。ところで、あんたたちは2人なのかい?」


「そうだが、どうかしたか?」


「いや、ここは3階だからな。普通は6人で来るものだろう?」


「まぁこの辺りならどうにかなるんだよ」


 尋ねたスタンリーがウィンストンの返答に顔を引きつらせた。


 一方、ユウも2人で3階に来ていることをケネスに問いかけられている。


「ユウ、あの爺さんって前にお前を借りてった職員なんだよな? 本当に2人だけでここまで来たのかよ?」


「うん、来たよ。主に戦っているのはあっちのウィンストンさんだけど」


「マジかよ。オレたちなんて6人がかりでやっとなんだぜ? それをほとんど1人でやっちまうのかぁ」


 返答を聞いたケネスがため息をついた。もうすっかり3階の活動にも慣れているが、それはパーティで活動しているからだ。さすがに1人で3階を回ろうとは考えたこともなかった。


 聞きたいことがあるのはケネスだけではない。ジュードもユウに質問する。


「あのウィンストンっていう爺さん、かなり偏屈だと聞いたことがある。でもそれだけじゃない。年配の冒険者がむちゃくちゃ強いとも言っていたんだ。あの噂は本当なのか?」


「本当だよ。今回はそれほどでもないけど、前の夏のときはひたすら3階の魔物を倒し続けていたからね」


「お前、その間どうしてたんだ?」


「隅っこの方で何匹かを相手にしていたよ。それでも危なくなって手前の部屋や通路に逃げたこともあるけど」


「なるほどな」


 老職員の話に顔を引きつらせていたジュードが安心したかのように小さく息を吐いた。


 その様子を見たユウは少し複雑な思いを抱いたが、それよりも言うべきことがあったことを思い出す。


「ケネス、ジュード、言わなきゃいけないことがあるんだ。僕、来月になったらこの町を出るんだ」


「マジかよ!? どうしたんだ、一体」


「元々僕は世界のいろんな所を見たくて旅をしていたんだ。ここでしばらく路銀を稼いでいたんだけど、もう充分に貯まったから旅を再開しようかなって思ったんだ」


「そういえば、酒の席でいろんな所を見て回ってたなんて言ってたな。あれをもう1度始めるのか。そういうのを聞くと、なんかオレもって気になってくるよなぁ」


「ケネス、少なくとも充分に稼いでからだぞ。今は装備の更新で全然カネがないんだからな」


「わーってるって。オレたちは当分この町でガンガン稼ぐんだろ」


 元大きな手(ビッグハンズ)の面々で話が盛り上がっていると、そこにスタンリーが寄って来た。そうしてユウへと話しかける。


「今聞いたぞ。もうすぐここを出るのか。そうなると、今やってる仕事は最後の一稼ぎってところかい?」


「はい。僕も装備を新調したばかりなんで少しでも稼いでおきたいんです」


「なるほど、確かに服や鎧が前と違うな。その様子だと、他にも買い換えたのか」


「そうですよ。これを機に一新したんです」


「豪勢なことだな。にしても、恩人が町を出るのか。寂しくなるな」


「そう言ってもらえて嬉しいです」


 残念がられて嬉しいのはユウの本心だった。やはり必要とされると嬉しいものだからだ。


 そこへウィンストンが入ってくる。


「話は尽きねぇんだろうが、いつまでもしゃべってるわけにもいかねぇ。その辺にしておいてくれねぇか?」


「確かにな。俺たちも充分休んだし、もう一稼ぎしようか」


「それじゃぁね、みんな」


 名残惜しいという気持ちを断ち切ってユウはケネスたちに別れの挨拶を告げた。また会う可能性はあるものの、とりあえずここで一区切りをつけておく。


 そうしてユウはスタンリーたちのパーティとその場で別れた。

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 ケネスたちが元気そうでよかった(笑)
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