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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第14章 魔窟が変わる頃に

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魔窟での最後の活動依頼

 衣服と革のブーツを新調した翌朝、ユウは機嫌良く修練場へと向かった。新しく買った物を身に付けるというのは何であれ楽しいものだ。


 ただし、喜んでばかりもいられない。ユウは武具について相談しないといけないからだ。武具選びは失敗すると命に関わる。高い買い物という以外にも慎重になる理由があるのだ。


 冒険者ギルド城外支所の建物の裏側にたどり着くとウィンストンが待っていた。それはいつも通りである。しかし、表情はいつもより渋い。


 不思議に思いつつもユウはウィンストンに挨拶をする。


「ウィンストンさん、おはようございます。どうしました?」


「おう、ちょいと面倒なことになってな。言いづらくてかなわねぇ」


「何がどうしたんですか? そんな言い方をされると気になりますよ」


「まぁそうだな。最近、魔窟(ダンジョン)の中が変わってきてるってのは知ってるな」


「中で活動している冒険者が結構困っているんですよね。トビーさんが資料室の地図が役に立たなくなったって嘆いていましたよ」


「あいつは別に地図作りに関わっちゃいねぇけどな。ともかく、魔窟(ダンジョン)の中のあっちこっちがちょろちょろと変化してんだ。今もな。そのせいで1階の混乱がまだ充分収まってねぇんだわ」


「新人は地図の描き方や使い方に慣れてないから迷子になるパーティが多いんでしたっけ」


「その通りだ。だから、冒険者ギルドも手間賃を出して慣れた連中に1階の巡回をさせてる。が、ここに来てそいつらが本業に戻りてぇって言い始めて巡回を止め始めてんだ」


「あー、稼げる人は普通に稼いだ方がいいですもんね」


「だろう? こっちも稼いでもらわにゃ困るから強く出られねぇんだ。そこで巡回の仕事が職員に回ってきたってわけよ」


 珍しく長々と説明するウィンストンの話を聞いたユウは話が読めてきた。微妙な笑顔を浮かべながら言葉を返す。


「つまり、ウィンストンさんの巡回に僕も参加してほしいというわけですね」


「ここまで言えばわかるわな。その通りだ」


「でも、ウィンストンさんなら、1階だと1人でも巡回できるでしょう。3階でもあれだけ戦えるんですから」


「それがだな、儂が巡回するのは1階じゃねぇんだよ。3階だ」


「え? どうしてですか?」


「別に混乱が少なくなったからといって2階と3階で迷子がなくなったわけじゃねぇんだよ。何しろ、2階や3階に上がりたてのパーティもいるしな。そういう連中がちょこちょこと立ち往生することもある。だから、儂が3階で巡回する代わりにそれまで3階で巡回してたパーティを2階に回し、更に今まで2階で巡回してた連中を1階に回すんだよ」


「それ、何のためにするんですか?」


「2階で活動してる連中なら6人パーティを3人ずつ2組に分けて1階で巡回させられるんだ。それで巡回パーティの不足分を補おうってわけだよ」


「他の職員の人たちも3階を巡回するんですか?」


「いや、他の連中はそこまでの腕じゃねぇから1階や2階だな」


「なんかウィンストンさんだけ貧乏くじを引かされていませんか?」


「儂なんかはこういうときにこういう使われ方をするから、普段は好き勝手できるんだよ」


 普段の行いが悪いと言うべきかユウは迷った。本人が納得しているのならばお好きにと言えるが、それに巻き込まれるとなると話は変わってくる。


「でもどうして僕なんですか? 他の職員の人は?」


「みんなさすがに3階だと嫌がるんだよ。なんせ危ねぇしな。その点、お前さんは前に儂と3階を回ったことがあるだろう?」


「ウィンストンさん、日頃からちゃんと人付き合いしています?」


 じと目でユウが見つめると珍しくウィンストンが目を背けた。トビーに対する態度や周囲の評価を見るにそうだろうなと納得する。


 別にユウとしても嫌というわけではない。日頃稽古を付けてもらっている返礼で引き受けても良い。来月にアディの町を出る予定でいるが、それだって何かに急かされているわけではないのだから延期しても良いのだ。あまりずるずると伸ばされるのは困るが。


 そうは言っても、危険な仕事に対して無償というのはさすがになかった。ウィンストンがユウに話を持ちかけてきたのは個人的な都合だが、職員として冒険者を雇うとなるとこれは冒険者ギルドからの指名依頼に等しい。


 それを踏まえた上でユウがウィンストンに尋ねる。


「期間はどのくらいなんです?」


「明日から1週間だ。つまり今月いっぱいだな。何せ儂だって来月にゃ王都に行かなきゃなんねぇから、ずっと魔窟(ダンジョン)に入ってるわけにもいかねぇ」


「なぜか忙しいときって重なりますよね」


「そうだな。暇なときは暇なんだが。それで報酬だが、日当で銀貨3枚、それと巡回中に手に入れた魔石と出現品は全部お前さんが受け取れ」


「また凄い額になりそうですね」


「どうだかな。今回は困ってる連中を助けるのが仕事だから、基本的には魔物がいない部屋を巡ることが多いはずだ。前ほどじゃねぇと思うぞ」


 変に期待していると思われたらしいユウはウィンストンに釘を刺された。それでも提示された条件を天秤にかけてみる。前と違って大っぴらに動けるので行動の選択肢は多い。それに、日当が出るのなら魔窟(ダンジョン)内の成果はあまり気にする必要もなかった。どのみち結構な額になるのだから。むしろ危険な3階をどう乗り切るかの方が重要である。


「ウィンストンさんにはお世話になっているのでその条件でも構いません。ただ、1点だけ質問です。今も魔窟(ダンジョン)内は変化しているんですよね? だとしたら、僕たちも迷子になる可能性があるんじゃないですか?」


「その通りだ。だからこそお前さんに頼んでんだよ。こういうときこそ優秀な地図製作者(マッパー)の腕の見せどころだろ?」


「描いた後に変化されたらお手上げですよ」


「何言ってるんだ。それまで描いた地図と変化した地形から道筋を推測できるだろ。そうしたら多少迷っても帰れるじゃねぇか」


「なるほど、一応それも考えて僕を指名したんですね」


 他の職員に断られたという以外にも理由があることを知ってユウは少し安心した。そういうことならば尚のこと応じやすい。


「わかりました。でしたら良いですよ。明日から月末までの1週間ですね」


「引き受けてくれるか。そりゃ嬉しいぜ」


「でしたら、僕の相談にも乗ってくれませんか?」


「お前さんの相談? 何を悩んでるんだ?」


「武具についてなんですよ。実は武器も防具も色々変えようと思っているんですよ」


「ほう、例えばどんな風にだ?」


「一番気にしているのは武器なんです。僕、元々使っている槌矛(メイス)はこれなんですけど、次は全部金属のやつにしようかなって思っているんです。ウィンストンさんの稽古で何度か使ったときにいけそうな気がしたんで。でも、重くて動きが鈍くなるのは確実だし、どうしようかなって迷って」


 説明し終えたユウは今持っている槌矛(メイス)をウィンストンに手渡した。取っ手以外の木の棒の部分に金属を被せたものである。ウィンストンがそれを軽く振るのを眺めた。


「これか。確かにこいつは軽すぎるな。全金属製のやつの方がいいと儂も思う。お前さんだったらあれも慣れたら使いこなせるはずだぞ。今は軽いやつに慣れてるから扱いづらいと感じてるだけだろう」


「そうなんですか」


「そんなに不安だったら、今日そいつを買って明日から使えばいい。3階だから最初はちときついだろうが、危なくなったら前みたいに1つ前の部屋か通路に逃げればいいしな」


「わかりました。そうします」


「お前さんの稽古を始めてもう5ヵ月くらいになるが、かなり体力も付いてきてるし、大抵の武器は扱えるぞ。そこはもっと自信を持っていい」


「はい」


 はっきりと強くなっていると伝えられたユウはかなり気分が楽になった。前から不安に思っていたことが杞憂だと知ったからだ。後は行動あるのみである。


「ところで、防具についてなんですが、今僕は軟革鎧(ソフトレザー)を使っているんですよ。これを硬革鎧(ハードレザー)にしたら動きにくくなりますよね?」


「そりゃ動きにくくはなるが、結局は自分次第だぞ。体を柔軟に使って動き回るってんなら軟革鎧(ソフトレザー)の方がいいし、そうでなくて防御力を求めるんなら硬革鎧(ハードレザー)の方がいい。お前さんは何を求めるんだ?」


「あーそれは。だとしたら、硬革鎧(ハードレザー)の方がいいのかな」


「大抵答えなんて自分が持ってるもんだぞ。もっと自分の考えに自信を持て」


「はい」


 忠告されたユウは小さく縮こまってうなずいた。蓄えに余裕があるからという理由で買い換えようとしていた側面があったので、本当にこの選択肢が正しいのか自信が持てなかったのだ。これは良くないと改めて気を引き締める。いくら金銭に余裕があっても無駄遣いできる身ではないのだ。


 こうしてユウは稽古そっちのけでウィンストンから色々と話を聞いた。

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