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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第12章 貧民街の新人冒険者たち

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パーティ名は

 魔窟(ダンジョン)1階の東側の大部屋を逃げることなく攻略できたアントンたち4人の機嫌は良かった。その勢いで以後の大部屋も6人がかりで突破していく。4人での攻略はまだ当分先になるだろうがその足がかりは得た。


 1日が終わって魔窟(ダンジョン)から出てきたアントンたちは終始笑顔だ。換金所で換金を済ませて門から外に出てもそれは変わらない。


 夕方とはいえまだ暑い中、そんなものは関係ないとばかりにアントンが叫ぶ。


「今日は記念すべき日だ! 気分がいいぜ!」


「頑張りすぎてお腹が空きすぎたよぉ。早く串屋に行こう」


「バイロン、お前途中からそればっかりだったよな」


 隣でお腹をさすっている仲間を見てアントンが呆れた。しかし、すぐに笑顔に戻る。


 その後ろを歩いていたコリーは何かを思い付いたかのような表情を浮かべた。そして、すぐにアントンへと声をかける。


「記念すべき日だって言うのなら、今日は飲みに行かないかい?」


「飲みに? そうか、それも悪くねぇな。バイロン、ドルー、どうだ?」


「ぼくは食べられたらどこでもいいよぉ」


「今日は特別な日なんだから悪くないと思うね」


「よし、決まりだ! ハリソン、ユウ、『ふらつく熊亭』に行こうぜ!」


「いいぞ。そういうときは飲むものだからな。ユウはどうする?」


「行くよ。みんなのお祝いだしね」


 6人全員の意見がまとまるとアントンが先頭に立って冒険者の道を歩いた。


 城外神殿の辺りで曲がって貧民の道をそのまま進んだユウたち6人は貧民の歓楽街に差しかかる。道に面した店はどれも安酒場だ。そのとある路地に入った一角にある古びた石造りの平屋へと入る。


 六の刻の鐘が鳴る前後はどの店も客入りが多くなる時期だ。安酒場『ふらつく熊亭』も例外ではなく、テーブル席はほぼ満席になっている。


 空いている席に全員が座る前にアントンが給仕女を捉まえて酒と料理の注文を始めた。他の仲間たちもそれに倣う。


 店側も繁忙期の客の扱いは心得たもので、とりあえず木製のジョッキを人数分だけすぐに持ってきた。全員がそれに口を付ける。


「ぷはー! やっぱり仕事が終わった後の1杯はたまんねぇな!」


「東側の大部屋もとりあえず突破できたからね。酒も旨くなるってものさ」


「いやぁ、安心して飲めるっていいよね」


 料理を持ってくる給仕女を待つバイロンを除いた3人が木製のジョッキから口を離した途端に感想を漏らした。


 その中に混じってユウも木製のジョッキを傾けている。味はいつも飲んでいるものより薄いが祝いの席でそんな無粋なことは言わない。


「これでみんなも一端の冒険者だね」


「そうだぜ、ユウ! 東側の大部屋なんてすぐに突破して2階に行ってやるんだ!」


「それは楽しみだね。早くハリソンに追いつかなきゃ」


「オレか? そうだな、待ってるぞ」


「よーし、すぐに追いついてやるぞ! なぁ、みんな!」


 アントンの呼びかけに他の3人が景気良く返事をした。どの顔も明るい。


 料理がテーブルに置かれると真っ先にバイロンが手を付けた。肉、黒パン、スープとせわしない。戦っているときよりも機敏だった。


 そんな光景を見ながらハリソンが4人に尋ねる。


「みんなに聞いておきたいことがあるんだ。パーティ名はもう決まってるのか?」


「へへ、実はもう4人で話し合って決めてるんだぜ!」


「お、そうなのか? で、どんな名前なんだ?」


熱い魂(ホットソウル)なんだ! かっこいいだろ!」


熱い魂(ホットソウル)か、いいパーティ名だな。同じパーティ名もなさそうだし」


「だろ! オレが思い付いたんだぜ!」


 自慢げにアントンが胸を張った。それを見たハリソンが納得したという表情で小さくうなずく。ユウも同じだった。


 一瞬テーブルに沈黙が訪れるとコリーがハリソンに声をかける。


「ハリソン、俺たちは当面1階の東側で金を稼ぎつつ大部屋に挑戦するつもりだけど、方針はこれで構わないと思うかい?」


「というより、今はそれしかないだろう。まずは装備を充実させて、更に4人での戦い方をこれから考えていく必要があるからな。何にせよ、しばらく時間がかかるだろう」


「やっぱりね。アントン、聞いたかい? 2階はしばらくお預けだってさ」


「オレだってわかってるって。でも、2階の西側なら今のオレたちでもいけるんだよな?」


「装備の充実を優先するためにしばらく金を稼ぎたいというのなら、それもアリだ。ただし、今の状態で2階の東側には行くなよ」


 木製のジョッキから口を離してしゃべるアントンにハリソンが答えた。どちらが正しいということはない。実力を付けるのを優先するか装備を充実させるのを優先するかの違いだ。最終的にはどちらも達成しなければいけないのだから。


 そこから話はこれからどうやって活動していくのかというものに移った。一区切り付いた達成感から勢いの良い話が出てくる。それをハリソンが楽しそうに眺めていた。


 テーブルの上の料理を摘まみながら木製のジョッキを傾けていたユウは気になったことを口にする。


「そういえば、みんなは冒険者の宿屋街にいつ移るのかな?」


「装備を調えてからにするつもりなんだぜ。カネを少しでも貯めたいからな」


「そうそう、せめて全員が軟革鎧(ソフトレザー)を装備できるまでは無理なのさ」


「みんなで揃えたいよねぇ」


「剣の手入れを教えてもらってどうにかなってるけど、それでも剣と盾が消耗品みたいに使えなくなるのがかなりきついよね」


 珍しく食べるのを止めてしゃべったバイロンに続いてドルーが続いた。


 4人の意見を聞いたユウは目を丸くしてハリソンへと顔を向ける。


「すぐ移るんじゃないんだ」


「1階の東側の大部屋に到達したという点だけ見たら移り時なんだがな、他のものが色々と追いついてないだろう。今年中に引っ越せればいい方じゃないか?」


「なるほど。今年いっぱいかかっても魔窟(ダンジョン)に入って半年だもんね。そんなものなんだ」


「そういうことだ。オレも大体そのくらいだったしな。今の状態で時間をかけるのは悪くないと思う」


 威勢の良い話が先程から出ていたのですぐ移ると思っていたユウは意外そうな表情を浮かべた。確かに自宅に住んでいるのならばその方が安上がりである。


 聞きたいことを聞けたユウは口を閉じて木製のジョッキを傾けた。また聞き役に徹しようとする。しかし、今度は尋ねられる番だった。アントンから声をかけられる。


「オレたち4人はこれからパーティとしてやっていくけど、ハリソンとユウはこれからどうするんだ?」


「まだ決めていないが、オレはまた知り合いを頼って他のパーティに入ろうかと思ってる」


「僕もかなぁ。心当たりは今のところ1つしかないけど」


 のんびりと答えながらユウは鶏肉をナイフで切り取った。その切れ端を口に放り込んでから指を舐める。


 その話に反応したのは新人4人ではなくハリソンだった。スープを飲んでからユウに尋ねる。


「行けそうなところがあるのか?」


「声をかけてみないとわからないよ。ただ、まだ4人のままなのかがわからないけどね」


「ちなみに、どこなんだ?」


「キャロルのところだよ」


「あそこかぁ。確かに前は4人だったよな」


「前に3人で飲んだときはまだ4人だったはずなんだけど、あのときに何も言わなかったんだよねぇ、僕」


「あのときはまだこいつらの修行の終わりなんて見えなかったからなぁ」


「ハリソンは入れそうなパーティはあるの?」


「オレの方も声をかけてみないとわからないな。しばらく会ってない連中もいるし。ただ、前に1度やってダメだったからな。今回も怪しいんだ」


 少し苦い表情を浮かべたハリソンが自分の状態を説明した。その後、どうにもならなくて例の原っぱに立って参加できるパーティを探したという経緯がある。


 話の内容から少し雰囲気が沈んだ。それに気付いたハリソンが明るく振る舞う。


「ま、オレやユウのことは気にしなくてもいい。どうにでもなるからな。それより、お前たちの方だ。オレの感覚だとお前たちは結構早く成長したように思えるんだが、友達と比べてどうなんだ?」


「へへ、もちろん進んでるぜ! 装備もちょっとだけな!」


「6人パーティだと分け前が減るから、なかなかお金が貯まらないって友達がぼやいていたのを聞いたことがあるね」


「これからはもっと稼げるだろうから、更に差が開くだろうさ」


「あんまり調子に乗るなよ。大怪我なんてして休んだら、あっという間に抜かされちまうからな」


「そんなヘマはしねぇって、ハリソン!」


「お前が1番心配なんだよなぁ」


「えー、なんでだよ!」


 ハリソンの指摘に全員が笑った。アントンだけは頬を膨らませて抗議しているが誰も同調してくれない。


 その様子を見ていたユウも楽しそうに木製のジョッキを傾ける。ほとんど残っていない。


 近くを通りがかった給仕女を呼び止めるとユウはエールを注文した。

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― 新着の感想 ―
ボランティアで育成を手伝ったのは、最初の町で自分のことで精一杯で後輩たちの世話が出来なかったことへの心残りと、自分も無償で鍛えてもらってるということ、などからそういう心境になったのかなと思いました。 …
[一言] ハリソンとも別行動になるのか 余計になんでボランティアしたのかわからなくなってきたな
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