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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第12章 貧民街の新人冒険者たち

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伝えるべきこと(前)

 稽古の休憩で何気なく話した雑談の内容が大事(おおごと)だったことにより、ユウはウィンストンと一緒に代行役人と会うことになった。非常に不本意だったがことの重大性を強調されて拒めなくなる。


 てっきり打合せ室に行くと思っていたユウだったがウィンストンに今いる場所で待てと告げられた。修練場を一望できる冒険者ギルド城外支所の裏側、青空が見えるだだっ広い場所である。怪訝な表情を向けると、このような場所の方が逆に秘密の話をしやすいと教えられた。


 特に反論もなかったユウは言われた通りその場で待つ。再び地面に座ると建物の壁にもたれて修練場の様子を眺めた。暑いのによくやると訓練する冒険者たちを見てぼんやりと思う。


 次第に眠くなってきたユウは建物の扉が開く音で意識をはっきりとさせた。立ち上がって扉側に向き直る。そして、わずかに顔を引きつらせた。


 ウィンストンの隣には禿げかかった頭の無愛想な男が立っている。胸元に首縄と錫杖の紋様があしらわれた刺繍が施されている服を着ており、外套を身に付けていた。


 戻って来たウィンストンが一歩前に出てユウに紹介する。


「ユウ、こいつが代行役人のティモシーだ。ティモシー、目の前にいるヤツがユウだ」


「この小僧がか。ウィンストンから話を聞いた。最近、貧民の市場辺りで妙な薬が出回っている件について何か知っているようだな。知っていることは全部話せ」


 挨拶もなくいきなり命令口調で話しかけてきたティモシーにユウは目を丸くした。ちらりとウィンストンを見ると小さくため息をついている。


 印象が悪い相手ではあるが無視するわけにもいかず、ユウはウィンストンのときと同じように幸福薬に関することを話した。途中、口出しすることなくティモシーは耳を傾ける。


「これが、僕が見聞きしたことです。噂ばかりですけど」


「だが、無視することもできん。今話に出てきた屋台の店主と冒険者は誰だ?」


「串屋『肉汁のたれ串』の店主とルーサーという冒険者です」


「ルーサーの所属するパーティ名は?」


黄金の発泡酒(ゴールデンエール)です。そこのリーダーをしています」


「屋台の方は後で行くとして、冒険者か。ウィンストン、換金所の連中にルーサーを呼び出すように伝えてくれ」


「自分で行け。儂はお前の使いっ走りじゃねぇ」


「ちっ、使えん奴だ。まぁいい。それにしても、そんな妙な薬が流行るとはな。出所(でどころ)が質屋か買取屋ならば、薬に手を出した連中は駆け出しで蹴躓いた奴か、あるいは漁り屋(スカベンジャー)でもうまくいっていない奴らか」


 顎に手を添えて考えるティモシーのつぶやきを聞いたユウは首を傾げた。薬に手を出した冒険者たちの輪郭を特定できる根拠がわからない。


 気になったユウは遠慮しながらもティモシーに声をかける。


「あの、どうして薬を買う人のことがわかるんですか?」


「ん? お前にはわからんか。なら教えてやろう。まず、質屋に出入りする者たちを想像すればいい。大抵はカネに困ってる連中だ。それと買取屋の方は漁り屋(スカベンジャー)がよく利用している。また、噂というのは普通だと自分の知り合いにするものだ。立ち聞きしたなどということがない限りな。となると逆に考えて、噂をしているのが冒険者ということは教えた奴も冒険者である可能性が高いわけだ。ここから推測すると、新人が魔窟(ダンジョン)で失敗して質屋に行って薬を紹介される場合と、漁り屋(スカベンジャー)でもうまくいっていない連中が気晴らしに手を出す場合が考えられる」


 意外にも理路整然とした推測を聞かされたユウは目を丸くした。面倒がって教えてもらえないことも考えていただけに丁寧に教えられて返って固まってしまう。


 しかし、ティモシーの隣に立つウィンストンは眉を寄せた。そのままの表情で尋ねる。


「誰かが吹いて回ってるって可能性もあるんじゃねぇか?」


「もちろんある。しかし、まずは幸福薬という薬を誰が買っているのかというところに注目した。誰も買わなければそもそも広がらないからな」


「そりゃそうだ。そうなると噂が正しけりゃ、なんで質屋や買取屋がそんなモンを売るようになったかだよな。ちょっと前まではそんなそぶりもなかったんだろ?」


「この場合、誰が売ってるかというのはあまり重要ではないな。それより、誰が質屋や買取屋に売らせているのか、だ。いきなり売りさばくにしろ、薬を売ってくれる者を用意するのは簡単なことじゃない。この環境を準備した奴が必ずいる」


「なるほどな。お前さん、心当たりはあるのか?」


「明確にはまだない。ただ、薬の効果の表現で気になるところがある」


「んなもんあったか?」


「パオメラ教の御利益で生きながらに天国を感じられるというところだ」


「それが何かあんのか」


「どうしてわざわざ『パオメラ教の御利益で』なんて表現してるんだ?」


「そりゃぁ、あ?」


 答えようとしたウィンストンが口を閉じた。ユウも答えられない。


「串屋の店主の話によると、薬が切れた後は天国から地獄に落ちたみたいになるそうだが、これは恐らく麻薬の効果が切れたときの感覚だろう。そんな禁制品にわざわざ宗教の名前を付けたのはなぜだろうな? ちなみに、俺の推測では神殿関係者ではないな」


「どうしてそんなことがわかる?」


「忘れたのか? パオメラ教は多神教だぞ。それぞれに神がいる。信者ならばパオメラ教という宗教名よりも先に自分の信じる神の名を語るだろう」


「そうか、語るならナントカ神の御利益でって言うわけか」


「そうだ。しかし現実的にはそれだってあり得ない。何しろ麻薬の使用は忌避されているからな」


「一体誰がこんな面倒なことをしてるってんだ」


「さてな。それをこれから調べないといけないわけだ」


 老職員は肩を落とし、代行役人は横柄な態度のままため息をついた。


 2人の様子を見ていたユウは遠慮がちにティモシーへと話しかける。


「あの、この件とはまた別の噂についての質問なんですけど、いいですか?」


「構わんぞ。何だ?」


「城外神殿が買取屋と癒着しているという噂は知っていますか?」


「あれか。知っているが」


「その調査っていうのは冒険者ギルドでやっているんでしょうか?」


「いや、していない」


「もしかして、管轄外だからですか?」


「知っているのか。普通の冒険者はそんなことを知らないはずなんだが」


「城外神殿は貧民街にあるのにですか」


「元々神殿は町の中にあるものだったんだが、それがそのまま外に出てきたという扱いになっている。つまり、城外神殿関連は町の中の連中の管轄になるわけだ」


「そんな風になっているんですか」


 貧民街の治安維持を担当している代行役人に改めて尋ねたユウは肩を落とした。まったく何もしていないとは思わなかったのだ。思わずぽつりと漏らす。


「冒険者ギルドと城外神殿が協力したら早く解決すると思ったんだけどなぁ」


「そうかもしれんな。しかし、協力できる可能性はある」


「あるんですか? だったらどうしてしないんです?」


「冒険者ギルドから話をするわけにはいかないからだ」


「で、その方法はどんなものなんですか?」


「城外神殿から協力要請があれば、その範囲で動くことができる」


「えっとつまり、お願いされたらその範囲内で動きますよってことですか?」


「そういうことだ。もっとも、向こうにも体面があるからそう簡単には頼んでこないだろうがな」


「そうなのかなぁ」


「ふん、青いな」


 鼻で笑われたユウは少し口を尖らせた。ティモシーの表情を見ても馬鹿にしているのがよくわかる。隣のウィンストンは呆れていた。


 いささか不機嫌になったユウが少し強めの調子で反論する。


「協力できるってわかったら、あっさり頼んでくるかもしれませんよ?」


「お前は組織というものがわかっていないな。多少の不利益程度では面子を捨てることなどできんものなんだぞ」


「でもこんな一方的に悪評を広められていると、今まで真面目に活動していたことが全部台無しになるかもしれないじゃないですか」


「それをどう判断するかは城外神殿の管理者次第だな。俺に言っても仕方のないことだ」


 相手次第という点についてはユウも同意してしまったので一瞬言葉に詰まった。渋い表情をしつつもウィンストンが口出ししてこないことから、ティモシーの意見が正しいと考えているのが見てとれる。


「どうしても納得できないというのなら、お前が直接城外神殿に乗り込んで説得してみたらどうだ?」


「僕がですか?」


「伝手があるのかどうかは知らんが、そこまで言うのなら城外神殿の誰かを動かせばいいだろう。うまくいけば、こちらに頼んでくれるかもしれんぞ?」


 尚も小馬鹿にした様子のティモシーの話にユウは目を見開いた。確かにやってみる価値はあるように思える。


 ウィンストンが大きくため息をついたのに気付かず、ユウはうなずいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もしかしてこのティモシーってヤリ手なんじゃ…… 知らず知らずの内にユウは思惑通りに動かされてそう
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