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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第12章 貧民街の新人冒険者たち

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変則的な場所選び

 早朝から突き刺すような日差しを浴びつつ、今日もユウたち6人は魔窟(ダンジョン)に入る。最初に向かうのは1階の東側、隠し扉の向こう側だ。


 犬鬼(コボルト)6匹の部屋を次々に進んでゆく。今ではアントンたち4人もそれほど苦労せずに倒せるようになった。


 そうして、昼食後は1階の西側に移って大部屋に挑戦するわけだが、この移動に結構時間がかかる。段階を踏んで成長するためには場所を選んで戦うのは当然だが、同時に移動時間を短くしたいと思うのも自然だ。


 何度か西側の大部屋に挑戦した後の休憩でハリソンが漏らす。


「金を稼ぐ場所と鍛える場所が遠いんだよな。もっと近くにあればいいんだが」


魔窟(ダンジョン)の1階は入口近辺でしか横の移動はできないからね。2階だったらできるんだけど」


「この魔窟(ダンジョン)を作ったヤツの思惑なんざ今更だが、何かもっとこう、うまい方法はないか、ユウ?」


「うーん、そうは言ってもなぁ」


 現在使っている地図の1枚を目にしながらユウはぼやいた。1階西側の部屋に魔物は3匹、大部屋は10匹以上、1階東側の部屋に魔物は6匹、大部屋は20匹以上だ。これは変えようがない。


 かつて使ったことのある転移の魔法陣があれば良かったのだが、この終わりなき魔窟(エンドレスダンジョン)にそんな便利なものは発見されていなかった。そうなると、やはり歩いて移動するしかない。


 そこまで考えたユウの頭に何かが引っかかった。それが何か、わかりそうでわからない。


「そうなんだよね。歩いて移動するしかないんだ。東から西へ。北へ行っても同じ階じゃ意味ないし。ん? 同じ階?」


 自分のつぶやいた言葉に首を(かし)げたユウは腰にある麻袋から2階の西側の地図を取り出した。何枚かを眺めてみる。2階西側の部屋に魔物は9匹、大部屋は20匹以上、2階東側の部屋に魔物は18匹、大部屋は30匹以上だ。


 先月までこの2階の東側で稼いでいたことをユウは懐かしがった。あの頃は6人で3階にも上がっていたことを思い出す。あのときも東側から西側へと移動したものだ。そして、3階ではついに大部屋には入らないままだった。


 取り出した1階と2階の地図を見比べる。魔窟(ダンジョン)の構造ではなく魔物の数だ。1階西側の部屋に魔物は3匹、大部屋は10匹以上、2階西側の部屋に魔物は9匹、大部屋は20匹以上である。2階西側の部屋の魔物の数は1階西側の大部屋よりも少ない。それでいて、1階東側の部屋よりも5割増しで多い。


「そうか、魔物の数だけを見たら、アントンたちだってもう2階に上がれるじゃないか。上の大部屋にさえ入らなかったらいいんだ」


「ユウ、さっきから何をしてるんだ?」


「ハリソン、うまい方法が見つかったよ! かなり良い感じなんだ! 2階の西側で稼いで、鍛えるときに1階の大部屋に行けばいいんだよ!」


「なに?」


「2階の部屋や通路にいる魔物の数は9匹しかないでしょ。1階の大部屋より少ないじゃない。それでいて1階の東側よりも数は多いから、今のアントンたちにはぴったりじゃないかな」


「言われてみればそうだな。全然気付かなかった」


「僕たちだとどうしても数の多い東側が思い浮かんじゃうからだろうね」


「2階の西側だと1人2匹ちょいか。これならあいつらだけでも対処できるな」


「しかも、2階だと通路にも魔物がいるから相手には困らないでしょ。稼げるし、鍛えられるよ」


「うん、いいな! それでいこう。おい、お前ら、話がある!」


 盲点に気付いたハリソンが明るい口調でアントンたち4人に声をかけた。珍しく少し興奮している。


 その間にユウは地図を取り出して経路の確認をした。現在の場所から2階に通じる階段のある大部屋に向かい、そこから上の階に登る。少し遠いが経路は問題ない。


 次いで2階の地図を取り出したユウは眉をひそめた。東側は10枚以上あるのに対して西側のものは2枚しかない。


 2階に行けると聞いて沸き立つアントンたち4人から離れたハリソンにユウが近づく。


「ハリソン、ここから2階に行く経路は確認しておいたよ。ただ、2階の西側の地図は2枚しかないんだ。僕たちは東側ばかりで活動していたから」


「そうだったな。でも、当面はそれでいいじゃないか。どうせ今のあの4人じゃそう遠くへは行けないからな」


「確かに。だったら必要になったらまた描き足すよ」


「いや待て。もう少し先にしようと思ってたが、少し前倒しにしてあいつらにも地図を描かせてみないか? これからは2階の西側で活動するから稼ぎが増えるわけだし、筆記用具を買うくらいの余裕は出てくるはずだろう」


「構わないよ。冒険者ギルドの資料室で描き写す練習をさせたらいいんじゃないかな。ハリソンも先月やったみたいに」


「あれかぁ」


「今度は教える側に回ったらどう?」


 笑顔で提案するユウを見るハリソンの表情が苦笑いに変わった。それから顔ごと目を逸らす。


 それからも少し話をして、バイロンとドルーに地図を描かせることに決まった。早いうちに慣れさせたいというのと、どちらに適性があるか確認するためだ。筆記用具については2人で一式を買わせることになる。最終的には適性のある方が買い取るのだ。


 将来の話を取り決めつつもユウたち6人は2階へと向かう。冒険者によく利用される階段がある大部屋には魔物がいないので素通りだ。


 2階に上がって周囲の風景がまったく変わらないことにアントンは失望していたが、それを無視して6人は魔物のいる場所を目指した。ユウが2枚の地図を見ながらまだ人が通っていなさそうな地域を見極める。


 そうしてようやく、とある通路にたどり着いた。罠もない魔物がいるだけの通路だ。突っ込んでくる小鬼(ゴブリン)9匹をアントンたち4人が迎え撃つ。


「陣形は考えなくていい! 2人で連係することを考えて戦え! アントン、ドルー、前に出ろ! コリーとバイロンはその場所だ!」


 扉の前でハリソンがアントンたち4人に指示を飛ばした。初めて通路で戦う4人に合わせて位置取りさせる。数が9匹なら今の4人でも対処できるのでユウ共々見守るだけだ。


 最も突っ込むことになったアントンは小鬼(ゴブリン)を真正面から迎え撃った。左側は壁なので前方と右側だけを気にすれば良い。雄叫びを上げて短剣(ショートソード)を振り回していた。


 その右後方ではドルーが向かって来る小鬼(ゴブリン)を迎え撃っている。基本的には防戦一方で、たまにアントンを右から襲おうとする1匹を牽制していた。


 更にその後方ではコリーとバイロンが戦っている。右側の壁を利用してバイロンが向かって来る小鬼(ゴブリン)を押さえ込み、コリーがその側面から反撃する。逆にコリーが攻められているときはバイロンが前に出て剣を突き出していた。


 目の前の様子を眺めているユウが隣のハリソンに声をかける。


「初めてにしては意外と様になっているよね」


「そうだな。今は魔物の数が倍ちょっとだからいけてるんだろう」


「壁を利用できているのは良いことだよね。たぶん、1階の大部屋での戦い方を活用しているんだと思うけど」


「そうだな。ただ、15匹くらいを部屋の真ん中で相手取れるようになってくれないとこの先は厳しいだろう」


「まだ魔窟(ダンジョン)に入って1ヵ月も経ってないんだから、こんなものじゃないかなぁ。急ぐ必要ないと思うけど」


「あいつらの成長という意味じゃその通りなんだが、オレたちの懐具合を考えるとな」


「なるほど、早く成長してもらわないといけないよね」


 元気に戦うアントンたち4人を見ながらユウは笑顔の中につらそうな表情を混ぜた。懐事情という面からはのんびりとしていられないことを思い出す。


 戦いはやがて終わった。怪我をすることなくすべての魔物を倒せたアントンたちが歓声を上げる。


「やったぜ! 2階でもオレたちは通用するんだ!」


「1階の大部屋よりも小鬼(ゴブリン)の数が少なくて助かったねぇ」


「ここなら1階の大部屋並に魔物がいるから修行にもなるし、何より1階の東側よりも稼げるからいいじゃない。これなら充分にやっていけるさ」


「壁があるから回り込まれにくいのは楽でいいよね」


 まるで大部屋で魔物を一掃したときのようにアントンたちは喜んでいた。ユウとハリソンにとっては魔物の数の違いしか差異はないのだが、4人にとっては2階で戦って勝てたことが何よりも嬉しいようだ。


 そんな喜びに沸く4人に対してハリソンが声をかける。


「お前ら、喜ぶのはいいが魔石を拾え。それがないと今日の稼ぎがないんだぞ」


「やべぇ、忘れてた!」


 指摘されたアントンが目を見開いて床へと顔を向けた。慌ててその辺りに散らばっている魔石を拾い始める。他の3人もそれに倣った。


 4人の様子を眺めながらユウは自分の提案がうまくいきそうなことを喜んだ。これならば赤字を解消できる日も近いのではと期待する。


 腰に手を当てたユウはハリソンと顔を向け合って笑った。

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