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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第12章 貧民街の新人冒険者たち

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やんちゃな4人組(後)

 貧民の少年たち4人と初めて出会ったユウはハリソンと共に面倒を見ることになった。最初は猜疑心の目を向けられていたが、1対1の模擬戦で圧勝すると指導者として4人に認められる。


 五の刻の鐘から大きく過ぎたとはいえ、まだ強い日差しに曝された貧民街の南端でユウはハリソンと共にアントンたち4人と一緒にいた。今日はこの辺りまでだろうと考えたユウは肩の力を抜く。この前にやっていた裁縫工房の洗濯の疲労がじんわりと残っていた。


 そんなユウを含めた5人にハリソンが告げる。


「それじゃ一旦家に戻って剣と盾を持って門に集合だ。これから魔窟(ダンジョン)に入るぞ。お前ら、門ってわかるな?」


「やったぁ! もちろん知ってるぜ!」


 喜びを爆発させたアントンたち4人が走ってこの場から去った。


 あっけにとられてそれを眺めていたユウがハリソンへと顔を向ける。


「ハリソン、今から入るの? もう五の刻の鐘はとっくに過ぎているのに」


「魔物との戦いを経験させるだけだ。最初にこれを知って心の整理をつけておけば、長時間魔窟(ダンジョン)に入っても大丈夫だからな」


「なるほど。それに、万が一戦う適性がなかったらすぐに引き返せるようにって意味もあるんだね」


「そうだ。剣技が優れていても闘争心がなければ戦えないからな」


 肉体的には優れていても精神的に戦闘を拒絶してしまう人物では冒険者にはなれないということだ。これは実際に戦ってみないとわからないのでハリソンは最初に洗い出そうとしている。ユウはその意図を理解した。


 少年4人が去ってすぐにユウとハリソンも自分たちの宿に戻り、魔窟(ダンジョン)に入る装備を身に付ける。慣れた作業なので時間はかからない。


 再び宿を出たユウとハリソンは往来する人々の多い冒険者の道を北に進んだ。冒険者ギルド城外支所の奥に魔窟(ダンジョン)の入口を囲う壁があり、その壁に(しつら)えられた門がある。脇には門番が数人立っていた。


 その門の近くに先程別れたアントンたち4人が立っている。ユウとハリソンを見つけると手を振ってくる。


「おーい、遅いよ! 早く早く!」


「あれはちょっと恥ずかしいね。ハリソン、何とかならないのかな?」


「何度言っても聞いてくれなかったんだ。諦めてくれ」


 歩きながら返答したハリソンはユウに何とも言えない表情を向けた。それを受けてユウも微妙な表情になる。


「お前ら、剣と盾を持ってきただけじゃなく、ちゃんとブーツに履き替えてきたな」


「へへ、どうよ、これ。ぴったりなんだぜ!」


「そこまで持ち上げなくていい。それじゃ行くぞ。ユウ、1階西側へ連れて行ってくれ」


「いいよ。ついてきて」


 腰の麻袋から地図を取り出したユウは先頭切って歩き始めた。アントンたち4人がそれに続き、ハリソンが最後に動く。


 魔窟(ダンジョン)の入口近辺は人が多くて非常にうるさい。初めて入った冒険者は大なり小なりこれに目を丸くする。4人も同じだった。コリーなどは顔をしかめている。


 最初の部屋を左折したユウは手にした地図に目を向けながら先を進んだ。結構進んでもまだ周りに冒険者がちらほらいる。その光景を4人が珍しそうに眺めていた。


 その中の1人ドルーがぽつりと漏らす。


魔窟(ダンジョン)の中にもたくさん冒険者がいるんだね」


「そりゃそうだろう。みんなこの中で稼いでるんだからさ」


「でも、結構歩いたのにまだ見かけるなんて多すぎない?」


「それ以上に魔窟(ダンジョン)が広いんだから問題ないさ」


 一番最初に興味を失いつつあるコリーがドルーの言葉を受けた。いかにも慣れていますという様子で歩いている。


 やがて2枚目の地図の半ばまで進むと、ユウはとある通路の端で立ち止まった。扉を目の前にして振り返る。


「ハリソン、この奥に魔物がいるよ」


「やっとか。よし、お前ら今から魔物との戦う。とはいっても、まずはオレとユウが中に入って戦うから、それをここからよく見ておけ」


「えー、オレたちは!?」


「そんなにがっつかなくてもいい。どうせ他にいくらでもいるんだ。まずは魔物と戦うことがどういうことなのかを見るんだ。いいな」


 相変わらず最も元気なアントンが抗議の声を上げたがハリソンは一蹴した。真剣なその顔を見たアントンは口を尖らせながらも黙る。


 他の5人が問答している間にユウは地図を腰の麻袋にしまって右手で短剣(ショートソード)を鞘から抜いた。今やすっかり手に馴染んだ武器だ。左手で丸盾(ラウンドシールド)を持つ。


 同じ武器を手にするハリソンが横に並んだのを知るとユウは扉を開けた。先頭はユウ、次いでハリソンが部屋の中に入る。その直後、部屋の中央にいた小鬼(ゴブリン)3匹が一斉に向かってきた。2人同時に真正面の小鬼(ゴブリン)に斬りかかる。


「あああ!」


 錆びたナイフを持っていた小鬼(ゴブリン)相手にユウは短剣(ショートソード)を突き出した。反応できない相手の魔物は避けられずにその切っ先を喉元で受け入れてしまう。


 床に崩れ落ちる魔物から目を離したユウは誰も相手にしていない1匹へと顔を向けた。金切り声を上げて向かって来るそれが欠けたダガーを突き出してきたので右手を切断する。上げる声が悲鳴に変わったのを無視して首筋を切った。


 隣を見ればハリソンも小鬼(ゴブリン)を倒し終わっている。お互いに1つうなずくとユウは魔石を拾い始めた。


 アントンたち4人の元へ戻ったハリソンが声をかける。


「見たか? オレとユウが今戦っていたのが小鬼(ゴブリン)と呼ばれてる魔物だ。魔物の中だと弱い部類に入るが、最初のうちはそれでもかなり苦労する。好戦的な上にこっちを殺すことにためらいがないヤツらだ。次からはお前たちも1匹ずつ相手をしてもらう」


「すげぇ。あんなあっさり勝てるんだ」


「今のお前たちじゃ無理だぞ。あれは慣れてるオレやユウだから簡単にできてるんだ。ナメてかかると死ぬぞ、アントン」


「お、おう」


 先程まで騒がしかった4人は先達2人の戦う姿を見ておとなしくなった。その姿は微笑ましくもあるが、次からは自分たちで戦わなければならない。いつまでも呆けさせているわけにはいかなかった。


 次の魔物のいる部屋に差しかかったとき、ハリソンは4人の中から3人を選ぶ。


「まずはアントン、バイロン、コリーの3人だ。部屋に入ったら今のように横一列になって小鬼(ゴブリン)を迎え撃て。普段の訓練通りにやれば勝てる相手だから落ち着いて戦うんだぞ。それと、危ないと思ったらオレかユウが割って入るからな」


「へへ、いよいよだ。やってやるぜ」


「不安だなぁ」


「サクッと終わらせてやるさ」


「残ったドルーは3人の戦いをよく見ておけ。他人の戦いを見るのも大切な修行だからな」


「わかった」


 後輩4人に話し終えたハリソンがユウを見てうなずいた。うなずき返したユウは扉を開けてやる。その瞬間、ドルーを除いた3人が一斉に部屋へと飛び込んだ。


 ハリソンに続いて入室したユウはアントン、バイロン、コリーの3人が小鬼(ゴブリン)と戦い始めたのを目の当たりにした。声を上げて自らを鼓舞し、剣を振るい、盾を構えている。


 3人はいずれも初めての戦いなので不格好なのは仕方ない。その中でも、アントンは積極的に打って出て、逆にバイロンは防戦主体、一方、コリーはそつなく戦っている。


 最初に小鬼(ゴブリン)を倒したのはコリーだった。相手の隙を見計らって確実に傷を与えて弱らせてからとどめを刺したのだ。次いでアントンが倒す。大ぶりの攻撃を外すのが今後の課題だ。最後はバイロンで、もっと積極的に攻撃する必要がある。


 こうして、ユウとハリソンは各個人の戦い方や問題点を洗い出しながら4人を戦わせた。尚、小鬼(ゴブリン)は3匹だけなので、戦う度に1人を抜けさせて代わりに見学していた少年を戦わせている。


 また、精神面について、4人の中でアントンとコリーに関しては何も問題はなかった。バイロンは積極性に欠けるものの、魔物との戦いそのものを忌避感を抱いているようには見えない。しかし、ドルーはどうなのかユウもハリソンもよくわからなかった。


 勝利に沸く4人から少し離れた場所でユウはハリソンに小声で話しかけられる。


「ユウ、ドルーをどう見る?」


「単に慎重に戦っているだけにも見えるんだけどね。バイロンとはまた違うのは確かなんだろうけど」


「オレも似たような感想なんだ。ドルーみたいなのは初めてでどうにも判断しにくい」


「本人も続けても良さそうにしているから、当面は様子を見るしかないんじゃない? ここより難易度の高い魔窟(ダンジョン)の東側に行ったときにどうなるかだよね」


「そうだな。なら、しばらくは様子を見るか。おい、お前ら、ちゃんと魔石を拾え!」


 話し終えたハリソンが4人に声を上げた。その注意で4人は慌てて床に転がっている魔石を拾う。


 この後、もう少し魔物との戦いを重ねるとこの日は魔窟(ダンジョン)から帰還した。換金所で魔石を換金することも学ばせる。これをやって初めて稼ぎを手に入れられるのだ。


 新人冒険者の教育初日はこうして終わった。

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