現行犯の連行と水晶の相談
ユウたち6人は確保した生存者と襲撃犯の3人を冒険者ギルドまで送り届けなければならなかった。そこで、動けない冒険者はボビーが背負い、縄で縛られたガスとアダムはハリソンとキャロルが護送することになる。
ガスの持っていた水晶はユウが持っていた。誰が見ても魔法の道具であること以外はわからなかったのでこれも冒険者ギルドに提出予定だ。
そうして魔窟の中を出口目指してあるいていたのだが割と目立った。特にお縄にかかっているガスとアダムは注目の的である。
「あんたら、その縛られてる2人って何したんだよ?」
「冒険者殺しの現行犯さ。今からギルドに突き出すところなんだよ」
「あの噂のか!?」
「まだそこまではわかんねぇ。けど、オレたちが見つけたときは、あいつが背負ってるヤツを殺そうとしてたんだよ」
たまに話しかけてくる同業者にケネスが説明をすることがあった。話を聞き終えた者たちは興味本位の顔から怒りの表情へと変えることが大半だ。
何回かそんなことを繰り返した後、ユウたち6人はようやく魔窟から出た。まだ夕方にもなっていない。
しかし、ここでちょっとした問題が起きた。魔窟の出口から南に伸びている冒険者の道を進むと壁にぶつかって門を潜って外に出るわけだが、そこで今日手に入れた魔石や出現品を換金していないと門番にせき止められたのである。
「ちっ、めんどくせぇな」
「僕が換金してくるよ。その間に先に行ってその2人を引き渡しておいて」
「それじゃ頼んだぜ」
門番と押し問答をしかけていたケネスがユウの提案に表情を明るくした。喜んで自分の拾った魔石と出現品をユウに引き渡す。他の仲間も同じようにユウへと渡した。
1人パーティから離れたユウは換金所に戻って魔石と出現品を換金する。今日はほとんどガスたちの追跡に費やしたので大した額ではない。それでも数日分の食費にはなる。
引き取った稼ぎを懐にしまったユウは改めて冒険者ギルド城外支所に向かった。中に入ると南側の階段辺りに人山ができている。反対の北側は空いていた。
ほとんど列がなかったのでユウは直接受付カウンターに向かう。人山の方に顔を向けているトビーの姿が見えた。その前に立って声をかける。
「トビーさん、こんにちは」
「お前さん、あっちにいたんじゃねぇの? あれ、大きな手だろ?」
「門の所で門番に止められたんで、僕だけ魔石と出現品を換金するために別れたんです」
「なるほど。融通利かすとしょうもないことをするヤツが増えるからなぁ」
「ウィンストンさんはいます?」
「いるよ。ウィンストンの爺さん、こっちに来てくれ!」
「トビー、てめぇ仕事しろっつってんだろ!」
「やってるって。それより、ユウのご指名だよ。相手をしてやってくれ」
「ああ?」
しわくちゃで偏屈そうな顔をした白髪の老人がトビーの隣にやって来た。割と良い体格をしており、トビーよりも明らかに強そうに見える。
「なんでお前さんがここにいる。あっちじゃないのか」
「魔石と出現品を換金するために一旦別れたんですよ。門の所で止められちゃって」
「だったらすぐに仲間と合流すりゃいいだろ」
「その前に渡しておきたい物があるんです」
口を閉じるとユウは懐から光る水晶を取り出した。相変わらず淡い光の線は魔窟へとまっすぐ伸びている。
水晶を目にしたウィンストンは目を見開いた。ユウから受け取ると手のひらで転がすように眺める。しかし、淡い光の線にはまったく目を向けない。
「どこで拾ったんだ?」
「あっちにいる巨大な角のガスが持っていたんです」
「おいおい、また厄介なモンを持ってきたんじゃねぇだろうな? いでぇ!?」
「トビー、てめぇは黙ってろ! なるほどな。証拠の品として持ってきたってわけか」
「あのガスの懐にありましたからどうせ職員が見つけたとは思いますが、それよりもあの2人は魔術使いのウィルコックスと鉄の大地と繋がりがあるようなので話しておこうかと思ったんです」
「貴族関連かよぉ、絶対めんどくさいやつじゃねぇか。っでぇ!」
「何度も殴らせるんじゃねぇぞ、馬鹿たれ! ユウ、話してみろ」
殴られた頭をさするトビーの横で腕組みをしたウィンストンにユウは今までの経緯を説明した。ガス、エルトン、ウィンストンの関連の他にも、先月見つけた死体、魔術師の捜索依頼と突進する猪の行方不明の件などもまとめてだ。
じっと話を聞いていたウィンストンはまったく動じなかったが、隣のトビーは聞くほどに顔を嫌そうにしかめた。職員の仕事が明らかに増える件だからというのはユウにもわかる。短い付き合いからでもわかることはあるのだ。
話し終えたユウが最後に締めくくる。
「どこまで関係あるのかわかりませんが、僕が知っていることはこれで全部です。あっちで仲間も同じことを話していると思いますけど」
「よく話してくれた。これでナメたことをする連中を追い詰められそうだ」
「爺さんマジでやんのかよ?」
「あたりめーだ。放っておいたら魔窟に入る冒険者がいなくなっちまうだろうが。そうなったらてめぇもメシの食い上げだぞ」
「めんどくせぇなぁ」
「ユウ、これは儂が預かっておくぞ」
「どうぞ。元々ここに提出するつもりでしたから」
自分のできることをすべてやりきったユウはすっきりとした表情を浮かべた。まだ事件が解決したわけではないが一介の冒険者ができることはもうない。
用を終えたユウは受付カウンターから離れた。そうして仲間に合流する。これで一安心と思いきや、別の職員に事情聴取を求められて同じ話を繰り返す羽目になってしまった。
ユウたち6人が襲撃犯を冒険者ギルドに引き渡してから数日が過ぎた。2階で冒険者パーティを襲っていたのが巨大な角だと知れ渡り話題になっている。今まで不安に思っていた分だけその憤りは激しい。しかし一方で、ようやく犯人が見つかったことで余計な警戒をせずに済むとも喜んでいた。みんな不安だったのだ。
その襲撃犯を捕まえた大きな手は一躍有名になった。前に巨大な角と酒場で喧嘩していたことも思い起こされて話題になる。
このように知名度が上がるとメンバーは方々で声をかけられるようになった。ケネスは喜んでそのときの話を言って回り、ジュードはそつなく対応し、ハリソンはやりにくそうに戸惑いながら対応している。尚、臨時メンバーであるキャロルとボビーは大きな手ではないので対処にかなり困っていた。求められれば話はしたが。
もちろんその影響はユウにもあった。当時の話を求められたことも何度かあったが、正確性ならともかく、面白おかしく話すということはできなかったので次第に声をかけられる頻度は減っていく。
とある休養日の朝、ユウはウィンストンに稽古をつけてもらっていた。1度予定に組み込むとすっかり定番の出来事だ。体の節々がまだ痛いが以前ほどではない。
「ウィンストンさん、ガスの件ってあれからどうなったんですか?」
「ちょいと撫でてやったらすぐにゲロったぞ。あいつら、鉄の大地のエルトンに雇われて2階に落ちた冒険者を殺していたらしい。お前さんが渡してくれたあれは『惹かれ合う水晶』っていう魔法の道具で、互いに相手の水晶の場所を輝きの強さで示すものらしい。それを使って落ちてくる冒険者の位置を特定していたそうだ」
「あの水晶、そんな使い方ができたんだ」
「それと、お前さんが話してくれた中に突進する猪の話があっただろ。連中、あのガスどもの所業を探って強請ろうとして返り討ちにあったらしい」
「え、フランクたちってガスたちにやられたんですか!?」
「正確にはエルトンのパーティが始末したそうだ」
「そこまでわかっていたら、雇い主のウィルコックスも捕まりそうですね」
「たぶん無理だろうな。あっちの言い分だと、水晶は盗まれたもので巨大な角など知らないということだからな」
「その言い分は無理がありますよ。だって僕たちウィルコックスとエルトンとガスが同じ所にいるのをみたんですから」
「証拠がない限りは知らぬ存ぜぬで突き通すつもりらしい。何しろ冒険者や貧民の言葉よりも貴族の発言の方が重いからなぁ。しかもヤツは魔術師ギルドの所属だ」
「ひどいですね」
「まったくだ。更に、水晶の返却も冒険者ギルドに要求してるときたもんだ」
体を動かす度に呻きを漏らすユウがウィンストンの話を聞いて顔をしかめた。おおよそ予想していたこととはいえ、実際に聞くと実に気分が悪い。
「ま、この件はしばらく押し問答になるな。気長にやっていくしかねぇ」
「もどかしいなぁ、ぐぇ」
両肩を掴まれて体を無理矢理折り畳まれたユウは肺から息を吐き出した。相変わらず容赦がない。
その後も悲鳴を上げながらユウはウィンストンの稽古を続けた。




