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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第11章 やり過ぎた者たちの末路

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元仲間の冒険者

 春真っ盛りの日々も関係なく、アディの町の冒険者たちは終わりなき魔窟(エンドレスダンジョン)に入っては活動している。1年中人の出入りが多い町ではあるが、その中でもこの時期が最も激しい。


 ユウたち6人の知人関係にも微妙に影響があった。引退する者や町を出る者との縁が切れる。多少は寂しいことだが冒険者なら当たり前の出来事だ。


 そんな毎日の中、大きな手(ビッグハンズ)は2階の大部屋への挑戦を続けていた。相変わらずの結果でもどかしい思いをしているものの、メンバー全体の向上心は衰えていない。色々と試行錯誤をしている。


 中でも最近の大きな出来事としては、ジュード、ハリソン、キャロルが軟革鎧(ソフトレザー)から硬革鎧(ハードレザー)に取り替えたことだ。貧民の工房街で買ったので結構な値が張ったが、防御力の向上はより積極的な行動への担保になると全員が期待している。


 6月の初日にそのお披露目をすることになった。とはいっても、装備して魔窟(ダンジョン)に入って戦うだけである。


 早朝、数多くの冒険者と共に魔窟(ダンジョン)へと入ったユウたち6人は奥へと進んだ。2階に上がると陣形を組む。


 地図を取り出したユウが今日はどこに行こうか考えた。その合間にジュードが嬉しそうにしゃべる。


「やっぱり装備を換えると身が引き締まるな。早く戦いたい」


「よくわかる。オレもだ。前から欲しかったんだよな、これ」


犬鬼(コボルト)に噛みつかれそうになるとやっぱり怖いからねぇ」


 同じく防具を換えたハリソンとキャロルがジュードに賛意を示した。しかし、すぐにハリソンが少し暗い顔になる。


「ただ、これでオレの財布はほぼ空っぽだ。また稼がないといけない」


「俺もだねぇ。まだもう少し余裕があるけど、何かあったときに心許ないよ。どうしようもなくなったらボビーに借りるけど」


「キャロル、大丈夫。おれ、まだあるから」


 元からのパーティメンバーであるボビーがキャロルに大きくうなずいた。


 その様子を微笑ましそうに眺めていたケネスがユウへと顔を向ける。


「ユウ、今日の行く先は決まったか?」


「今決まったよ。まずは普通の部屋をぐるっと回ろう。あの3人は装備が新しくなったからちょっと調子を見ておかないと」


 賛意を示したケネスに目を向けたユウが行き先を示した。こうして、装備の一部を更新した大きな手(ビッグハンズ)の面々は今日も活動を始める。


 出だしは順調だった。大部屋を主戦場としているユウたち6人にとって2階の普通の部屋はもう敵ではない。20匹近い犬鬼(コボルト)の数は侮れないが対処法さえわかってしまえば流れ作業である。


 そうして大部屋に到着した一行は早速挑戦したわけだが、結果は微妙だった。前よりも良くなったようなそうでないようなという感じである。魔物の攻撃に対して大きな安心感を得られるようになったという点は評価できるが今のところはそれだけだ。


 何とも言えない成果に微妙な表情を浮かべる6人であったが立ち止まるわけにはいかない。当面は金稼ぎという目的もあるので次の部屋へと向かった。


 昼食時辺りまでは何事もなく活動できたユウたち6人は、腹を満たすと再び魔窟(ダンジョン)内を巡り始める。


 外だと恐らく昼下がりのあるとき、ユウたちは別の冒険者パーティと出会った。他の面々が首を傾げる中、ユウだけはその中の1人を見て声を上げる。


「ルーサーじゃないか!」


「ユウ!」


 互いほぼ同時に声を上げた2人はとある部屋で駆け寄った。魔窟(ダンジョン)内で巡り会えたことを喜び合う。


 パーティメンバーも寄ってきたところで2人は自分の仲間を紹介した。10人の自己紹介が終わると雑談に入る。


 ルーサーは同じリーダーであるケネスと話をし始めたので、ユウはルーサー以上に小さくて童顔のドンに話しかけた。やたらと落ち着きがない男の子である。


「ドンはパーティの中で何を担当しているのかな?」


「へへーん、オレは宝箱を開けるのと罠の解除するのを担当してるんだぜ!」


「ということは、僕と同じだね」


「ユウもそうなのか! 罠の解除って難しいよな!」


「そうだね。失敗するとひどい目に遭うから面倒だよ」


 パーティ内の役割が同じということでユウはドンとの話が弾んだ。互いの苦労話を次々と披露する。


 ドンとの話が一段落したユウは次いでルーサーに近づいた。満面の笑みで迎えてもらう。


「いや驚いた。まさか2階のこの辺りで会うなんて思ってなかったよ」


「へへ、一昨日こっちに来たばっかりなんだ。結構きついけど、1人3匹ずつだから何とかなってるんだ。反対側だとちょっと物足りなかったからね」


小鬼(ゴブリン)相手に苦労していたのが遠い昔みたいだね」


「それは言わないでくれよ! 今じゃもう一人前なんだから! これでも弟分たちを指導してやってるくらいなんだぜ?」


「え? パーティメンバーの中の?」


「違うよ。実は知り合いでもう1組魔窟(ダンジョン)に入ってるんだ。オレよりも少し年下なんだけど、今はそいつらを鍛えてるところなんだよ」


「へぇ、すごいなぁ」


 2ヵ月以上前に別れたときに比べてかなり成長しているルーサーにユウは目を見張った。何となくしばらくは1階で稼いでいるだろうと思っていたので尚更である。


「剣だけ買ってすぐにでも魔窟(ダンジョン)に入りたいって言って聞かないんだよ。とりあえず6人揃えて小鬼(ゴブリン)を2人がかりで倒させる練習をさせてから、今は犬鬼(コボルト)相手に1対1で戦わせているのさ」


「随分と急だね。もっとゆっくりとしてもいいと思うんだけど」


「とにかく稼ぎたいって言って聞かないんだ。これでも抑えてる方なんだよ?」


「それはまた」


 かつてのルーサーを思い出してユウは苦笑いした。とにかく稼ぎたいと毎日のように言っていたことと重なるのが面白い。


 しばらくその話が続いて弟分パーティから貧民街の話へと移った後、ルーサーの顔つきが真剣なものになる。


「そうそう、次に会ったら言っておかなきゃって思ってたことがあるんだ。ユウって前に酒場で巨大な角(ジャイアントホーンズ)と喧嘩したんだよね」


「う、うん、パーティメンバー全員でだけど」


「あいつら、ユウたちを逆恨みしてるだろうから気を付けなよ」


「え、喧嘩に負けたことを根に持ってるってこと?」


「それもあるんだろうけど、あいつらもっと困ってるんだ」


 事情が飲み込めないユウは首を傾げた。喧嘩に負けて恥を掻かされて相手恨むというのならわかるが、それ以外に理由は思い付かない。


 話の先を促すとルーサーが続けてしゃべる。


「あいつら、ユウたちに負けてから貧民街で大きな顔ができなくなったんだ。腕っ節の強さで周りをつなぎ止めていたからね。喧嘩に負けたら周りから人がいなくなるのは当然だろう? 今じゃ残った手下に一層殴る蹴るをして更に人が減ってるんだ」


「それが僕たちのせいだって向こうは思っているの?」


「たぶんね。何しろ、ユウたちをブッ殺してやるって言ってたのを仲間が耳にしたんだ。魔窟(ダンジョン)で出くわしたら襲われるかもしれないよ」


 深刻な顔をしたルーサーの話を聞いたユウは困惑した。話の内容は信じられるものだが、以前出会ったときの態度がこの話と一致しないことに首を傾げる。


 いつの間にか全員がユウとルーサーの話を聞いていた。一瞬の沈黙の後、ケネスが最初に疑問を口にする。


「それは妙だな。前に魔窟(ダンジョン)で会ったときはこっちを見て笑ってたよな?」


「命拾いしたなとも言ってた。このセリフの意味は恐らく、今の話の仕返しをしなかったことに対してなんだろう。しかしそうなると、どうしてあのとき何もしなかったんだ?」


 続いてジュードが唸った。ガスたちの事情を知らないのでまともな推測はできない。


 2人の疑問に対してハリソンが仮説らしきものを立てる。


「あの貴族様が何か関係しているのかもしれないな。ガスたちのオレたちへの仕返しを思いとどめるくらいの何かを与えているのかもしれない」


「貴族様が貧民の喧嘩なんかを仲裁するかな?」


「さすがにそんなことをするとは思ってない、キャロル。単に貴族様からの仕事を失いたくないから余計なことをしなくなっただけだろう」


「なるほど、割のいい仕事を失わないためか。でもどんな仕事なんだろうねぇ」


「オレたちのような貧民上がりにさせる仕事なんだ、どうせ真っ当じゃないだろうよ」


「違いない」


「あいつら貴族様から仕事を受けてんの!?」


 ユウたちの話を聞いていたルーサーとその仲間たちが驚愕した。大騒ぎになる。そして、最近ガスたちの羽振りが良くなったらしいとドンが主張し始める。


 こうなるともう収集がつかない。ユウたちの話とルーサーたちの話で噛み合わない点がある理由を推測し合う。しかし、最後まで結論は出なかった。


 結局、そのまま中途半端に話を終えてユウたちとルーサーたちは別れる。今はまだ仕事の途中なのだ。今日の分を稼がなければならない。


 不完全燃焼ではあるが、どちらのパーティも再び魔物の討伐作業に取りかかった。

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― 新着の感想 ―
 同業狩りかなぁ…三階で罠に嵌めて、落ちて相手を蹂躙・略奪する。魔法の品は貴族の取り分。
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