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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第11章 やり過ぎた者たちの末路

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不穏な死体

 2階の犬鬼(コボルト)の大部屋で敗北してからというもの、大きな手(ビッグハンズ)の一行は手を替え品を替え何度も挑んだ。1匹ずつは大したことなくても、それが30匹以上も群れて襲いかかってくれば大きな脅威となる。


 今もとある2階の大部屋でユウたち6人は戦っていた。壁際に寄って背後から回り込まれるのを防ぎつつ1匹ずつ倒していく。


 最後の1匹に戦斧(バトルアックス)を叩き込んだケネスはすぐに周囲に頭を巡らせた。確かにもう犬鬼(コボルト)はいない。


 戦いを終えた直後のケネスに背後からジュードが声をかける。


「どうにか勝てるようになってきたな」


「ああ。最初の頃みたいに逃げることがなくなったのはとりあえず良かったが」


「何かあるのか?」


「まだ勝てるようになっただけなんだよな。犬鬼(コボルト)ごときと言いてぇところだが、やっぱり数は脅威だよなぁ」


「それでも進歩はしてるんだ。いいじゃないか。なぁ、ハリソン、キャロル」


 魔石を拾っていた2人は声をかけられて顔を向けた。どちらもうなずいている。


 その様子を見ていたケネスは微妙な表情を浮かべた。そのままジュードへと顔を向ける。


「3階で活動しているパーティは、一体どうやってんだろう?」


「さてな。俺もそこには興味あるが、あの2人もまだ話は聞けていないそうだから」


「かぁ、もどかしいぜ」


 大きなため息をついたケネスはジュードに促されて魔石拾いを始めた。


 現在、ユウたち6人は2階の大部屋の攻略法や3階の情報を集めようと色々と探っているがうまくいっていない。3階で活動するパーティのメンバーに巡り会えないからだ。地元の住民であるハリソン、キャロル、ボビーの伝手も使っているがそれでもである。


 そんな状態なのでケネス、ジュード、ユウの酒場巡りも行き詰まっていた。誰か1人ぐらいはいるだろうと思っていただけに完全に当てが外れた状態である。


 そのため、今は手探りで2階の大部屋に挑戦していた。数をこなして慣れた分だけ前進しているものの、6人ともまだ3階に行ける手応えはまるでない。


 魔石を拾い終えるとケネスが仲間に声をかける。


「それじゃ次の大部屋に行こうぜ。ユウ、案内頼むぞ」


「わかった。えっと、ここからだと2つほど部屋を戻ってから反対側だね」


 地図を見ながらしゃべったユウは顔を上げた。踵を返して歩いていた仲間に続く。


 魔窟(ダンジョン)内は広大なので魔物のいる場所はいくらでもあった。しかし、日帰りで出入りしていると活動範囲は自然と限られてくる。たまに他の冒険者に出会ったり、既に魔物が倒された部屋に出くわしたりすることも珍しくない。


 途中まで戻ったユウたち6人は別の経路をたどり始めた。この辺りは慣れたもので危なげなく進む。


 とある部屋で魔物を倒した後、ユウたち6人は次の部屋に向かうため扉を開けた。すると、通路の奥の床に何かが散らばっているのを目にする。


 陣形の前衛を担当しているケネス、ジュード、ハリソンは一瞬怪訝な表情を浮かべた。しかし、それが何か気付くと顔をしかめる。


「おいマジかよ。死体か」


「結構ひどいな。かなり食い散らかされている」


「いや待て。ケネス、ジュード、剣のような刃物で切りつけられた跡もある」


 散乱する死体に近づいた6人は手前にある死体2体を眺めた。いずれも魔物に殺された跡の他に武器で攻撃されたような跡もある。


 次いで声を上げたのはボビーだった。首を傾げながらぽつりと漏らす。


「みんな武器を持ってない? 防具を着てない人もいる。なんでかな?」


「金目の物も見当たらない。背嚢(はいのう)の中をぶちまけた跡もある。こりゃぁ追い剥ぎか物取りにやられたねぇ」


 片膝を付いて死体とその周辺を見ていたキャロルがボビーに返答した。嫌そうな顔をしている。


 そんな中でユウは奥に横たわる2体の死体にも目を向けた。いずれもひどい表情である。こちらも背嚢の中身は床にばらまかれており、めぼしい物はなかった。


 本来ならば遺体を街に運ぶなり近くに埋葬してやるなりするべきなのだろうが、魔窟(ダンジョン)内ではどちらもできない。外に運び出すのは手間がかかりすぎるし、全面石造りの部屋や通路では地面を掘ることもできないのだ。


 そして何より、放っておけばいつの間にか消えてなくなっているため手間をかける必要がなかった。死んだ魔物のようにきれいさっぱりなくなるのだ。理由は誰にもわからない。


 ともかく、いくつかの理由があって魔窟(ダンジョン)内で死亡した冒険者の遺体は基本的にそのまま放置するのが慣わしになっていた。貴族のような高位者でない限り、どんなに腕の立つ冒険者でも扱いは変わらない。


 そうなると死んだ冒険者の持ち物はどうなるのかというと、基本的に好きにして良いことになっている。その冒険者の関係者に優先権があるのは確かだが、魔窟(ダンジョン)内で手に入れた物は原則として拾った者のものという習慣が勝るのが現状だ。


 ただ、行方不明になる冒険者が多い中で死体を見つけてもらえるというのはある意味幸運でもある。ユウもそれは知っていたので、せめて死んだことを報告しようと冒険者の証明板を探した。しかし、見つからない。


 死体とその持ち物を触っているユウは首を(かし)げた。そんなユウに気付いたジュードが眉をひそめる。


「ユウ、何をしてるんだ?」


「証明板を探しているんですよ。せめて冒険者ギルドに報告しようと思って。けど、どこにも見当たらないんです。あれって別にお金になるわけじゃないですから、取られずに残っていると思ったんですけど」


 2体目の死体に取りかかっていたユウが顔を上げて答えた。返事を聞いたジュードが目を丸くする。金級や銀級ならばともかく、銅級や鉄級は木の板に薄い銅板と鉄板が貼られているだけだ。売ってもほぼ金にはならない。それは冒険者の常識だ。


 念のため6人全員で遺体とその持ち物を調べてみた。すると、誰も証明板を持っていないことがわかる。


 一通り調べ終わると全員が集まった。最初にキャロルが口を開く。


「最初は物取りにやられたのかと思ったけど、怪しい点があるな。証明板が1つもないというのはさすがにおかしいと思う」


「全員銀箔が貼られてる銀級の証明板だったら盗まれてもおかしくはないが。ハリソン、この魔窟(ダンジョン)の3階で活動してるパーティの冒険者は銀級という可能性はあるか?」


「そんな話は聞いたことがないな。町の中に拠点を移したパーティとの交流が薄くなっても、誰が銀級になったかくらいの話はオレたちの耳にも入る。銀級になった連中だって隠す意味なんてないだろうし、昇級してたらあっちこっちで触れて回るだろうからな」


 ジュードに問われたハリソンが気難しげな表情で返事をした。


 答えの出ない問いに頭を悩ませている3人に対して、次いでケネスが声をかける。


「この4人、どうも上から落ちてきたみたいだな。足首を骨折してるヤツがいたぜ。魔物にやられた跡があるってことは、一緒に落ちてきた魔物と戦ったってことだな。更にその後か途中でやって来た他の冒険者に襲われて最終的に全員死んだんじゃねぇか?」


「3階で活動するパーティは6人だと聞いてるから、落とし穴に引っかからなかった残り2人は上に残ったままになったんだろう。ああ、これは上に残った2人も厳しいな」


 ケネスの言葉を継いで発言したジュードが渋い表情を浮かべた。天井を見上げると死体のある近辺だけ高さが倍になっている。今は閉じたままだ。


 しばらく考え込んでいたキャロルが独りごちる。


「持っていったのは武器、(かね)、食料、水、そして恐らく何かしらの道具。体に傷のない死体からは防具も剥ぎ取ってる。持っていても目立たない物だけを取ってるのを見ると、犯人(こいつら)は結構手慣れてるな」


「武器や防具なんて換金所でバレないの?」


「だから破損してるやつは避けて無傷のやつだけを持っていったんだろう。魔法の道具でもなけりゃ、出現品だって言い張ったら大体通用するしね」


 ユウの疑問に対してキャロルが肩をすくめた。魔窟(ダンジョン)内の暗黙の了解がある以上、規制品以外はあまり深く追及されないのだ。


 しばらく首を捻って唸っていたユウたち6人だったが、やがてケネスが声を上げる。


「こうも証拠が少ねぇと、なんもわかんねぇな。これについてはもう考えるのは止めようぜ。帰ったら冒険者ギルドに報告して終わりだ」


「オレもそれでいいと思う。こういうことはたまにあって、大体報告して終わりだと聞いてる」


 小さなため息をついたハリソンがケネスに追従した。キャロルとボビーも小さくうなずいていることからそのような習慣であることが窺える。


 何となくすっきりとしない終わり方になるが、ユウたち6人はこの話を打ち切った。踵を返して元の部屋へと戻っていく。


 最後尾を歩いていたユウは振り向いてちらりとその光景を見た後、部屋に入って扉を閉めた。

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― 新着の感想 ―
ユウはいい加減鉄級から昇格しないのかな メリットは不明ながらポンコツ具合見てるとなんな大事なこと見逃してそう
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