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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第10章 集う冒険者たち

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魔窟内での揉め事

 拠点を変え、装備を調え、心機一転したユウたち4人は魔窟(ダンジョン)での活動を再開した。心身共に充実しているため以前よりも調子が良い。その勢いに乗って活動の場所を小鬼(ゴブリン)の現れる地域から犬鬼(コボルト)の現れる地域へと変える。


 4人の中で最も調子良くなったのはユウだ。背負う荷物が減ったことで動きが良くなったのである。また、買い換えた短剣(ショートソード)の切れ味が増した他、壊れることを気にせずに使えるようになったのも大きな要因だ。


 以前にも増して稼げるようになった大きな手(ビッグハンズ)の面々の表情は明るい。やった分だけ成果があるのだから活動にも力が入る。


 とある部屋で魔石を拾い集めた4人が集まった。ケネスが仲間に声をかける。


「魔石は全部拾い集めたな! ユウ、次はどこに行くんだ?」


「北と東に通路があるけど別にどっちでもいいかな。今ここにいるんだけど、ケネスはどっちがいい?」


「ここか。よし、それじゃ北に行こうぜ!」


 地図を覗き込んだケネスが即決した。陣形を整えると迷いなく選んだ扉を開ける。目の前の通路は奥まで続いて次の扉が見えており、途中で十字路になっていた。


 その十字路の辺りに犬鬼(コボルト)の群れが固まっている。冒険者の姿を見かけたら全員が一斉に襲いかかってくるのが普通だ。しかし、今回はいつもと違った。大半が十字路の西側の通路へと向かい、一部だけがユウたち4人のいる南側に向かってきたのだ。


 いつもと違う動きにジュードが首を傾げる。


「どうして一部しかこっちに来ないんだ?」


「西側の通路に別のパーティが入ってきたんだろう。面倒なことになりそうだな」


「とりあえずあいつらを片付けようぜ!」


 眉をひそめるハリソンの懸念をかき消すようにケネスが叫んだ。まずは目の前の危険を取り除いてからというわけである。


 向かってきた魔物は犬鬼(コボルト)が6匹だ。今のユウたち4人ならば敵ではない。ケネス、ジュード、ユウが2匹ずつ倒してすぐに終わる。別の通路から響く戦闘音はまだ続いていた。


 現れた魔石を拾い終えた一行は十字路まで進む。西側の通路ではほとんど戦いが終わっていた。6人組のパーティだ。


 通路の向こう側で戦っているパーティの様子を見ながらジュードがハリソンに尋ねる。


「ハリソン、知ってるパーティか?」


突進する猪(ランジングボア)だと思う。知り合いじゃないが、酒場で何度か見かけたことがあった。この町に流れてきた冒険者たちだったはずだ。あの槍を持った禿げ頭がリーダーのフランクだったはず」


「どんな連中なんだ?」


「噂だと強引な連中らしい。実際にその場を見たわけではないが」


「これから体験することになりそうだというわけか」


 話を聞いたジュードが小さくため息をついた。そういう手合いは自分たちが有利だと知ると(かさ)にかかってくることが多い。自分たちが4人組なのが不利に働きそうだと感じ取ったのだ。


 そんな仲間2人の様子を見ていたケネスが口を開く。


「だったらさっさと行っちまおうぜ。何もあいつらを待つ必要なんてねぇんだからよ」


「それもそうだな。ユウ、次はどこに行くんだ?」


「北側と東側のどちらかなんだけど、この場合だと」


「おーい、そこのてめぇらぁ!」


 十字路の真ん中で話をしていたユウたち4人は声のした方へと一斉に顔を向けた。西側の通路から禿げ頭の少し丸みのある体をした男が槍を担いで近づいてくる。もう1人、ぼさぼさの茶髪頭の男がその後に続いていた。


 仲間1人を従えた男が槍を担いだまま4人に話しかける。


「オレぁ突進する猪(ランジングボア)のリーダーをやってるフランクだ。そっちのリーダーは誰だ?」


「オレだよ。大きな手(ビッグハンズ)のケネスだ」


「おめぇら、犬鬼(コボルト)を何匹やった?」


「6匹だが、それがどうしたってんだ?」


「こっちは全部で12匹やった。つまり、オレたちがこの通路でどこに行くか決める優先権がある」


「は?」


 眉をひそめたケネスがハリソンに顔を向けた。アディの町に来てまだそれほど長くないのでその辺りの常識に疎いのだ。


 フランクをちらりと見たハリソンが困惑しつつもケネスに答える。


魔窟(ダンジョン)内で何かあったときは、原則として当事者同士で解決することになってる。この手の話は確かにたまに聞くが、基準なんてあってないようなものだ。当事者が納得すればそれで良しということになる」


「ということは、先にこの十字路にたどり着いたオレたち優先権があるとも言えるわけだ」


「あ?」


 明るい調子で自説を披露したケネスをフランクが睨んだ。その背後に立っているぼさぼさの髪の男は興味なさそうに5人を眺めている。魔石を拾い集めた突進する猪(ランジングボア)の面々が近づいていた。


 より圧を込めた表情でフランクがケネスに言い放つ。


「何言ってやがるんだ。この通路の魔物の大半はオレたちが片付けただろうが。何でオレたちよりも働いてねぇてめぇらに優先権があるんだよ」


「どこに行こうが自由なんだから、早い者勝ちでもいいだろ」


「んだと!? だったら先にこの通路に入ったオレたちに優先権があるじゃねぇか!」


「お互い別の部屋から来て見えなかったのに、なんで先に入っただなんてわかるんだよ?」


犬鬼(コボルト)のほとんどがオレたちんところに来たじゃねぇか。あいつらの意識が最初にオレたちへ向いたってことは、最初にオレたちこの通路に入ったってことだろ」


 フランクの主張を聞いたケネスは目を丸くした。そばで聞いていたユウたちも同じだ。ガラが悪く粗野な物言いだが意外に言っていることはしっかりとしている。


 人数だけでなく、主張も劣勢だなとユウは感じた。そもそもなぜケネスがあんなに相手と張り合っているかがわからない。お互いの要望を出し合って話し合えば良いのにと内心で思った。


 と、そこまで考えたユウはあることに気付く。ここは十字路の交差点でお互い南側と西側からやって来た。残る通路は北側と東側だが、どちらがどこに向かうのかはまだ何も言っていない。


 睨み合うケネスとフランクにユウが声をかける。


「僕たちとそっちのパーティってどこに進むのか誰も言っていないよね。お互い別の通路に行くならそもそも優先権の話はしなくてもいいんじゃないの?」


「は?」「あ?」


 徐々に顔を近づけ合っていたケネスとフランクがユウに顔を向けた。どちらもそのまま動かない。しばらく奇妙な沈黙が辺りを支配した。


 最初に口を開いたのはフランクだ。再びケネスへと顔を向けて言い放つ。


「オレたちは北に行く」


「なんだと? オレたちも」


「良かった。僕たちは東に行くつもりだったんだ。これで決まりだね」


「え? いや、ちょっとユウ!?」


 しゃべっている途中で上から言葉をかけられたケネスが目を剥いてユウへと顔を向けた。


 それには構わず、ユウはフランクに話しかける。


「自分の進みたい方へ進めるんですから、これで話は終わりでいいですよね?」


「あ、ああ。オレぁ別にいいぜ」


「それじゃこれで。さ、行こう、みんな」


 話を強引に終わらせたユウがケネスの腕を引っぱって東側の通路へと向かった。よくわからないという様子でジュードとハリソンもそれに続く。そんな大きな手(ビッグハンズ)の面々をフランクたち突進する猪(ランジングボア)は呆然と見送った。


 次の扉の手前まで来たところで立ち止まるとケネスが真っ先にユウへと尋ねる。


「おい、ユウ。なんであんないきなり口を挟んできたんだ?」


「リーダー同士の話に割って入ったのは謝るけど、元々僕は東側を勧めようと思っていたからだよ。相手が北側に行くっていうのなら喧嘩する理由がないんだ」


「そうなのか?」


「そうだよ。あのとき、ケネスが売り言葉に買い言葉で北って言いかけたから」


「あー」


 確かに北側と言いかけていたことを思い出したケネスは微妙な表情を浮かべた。勢いで反論しようとしていたのは確かだ。


 言葉に詰まったケネスに変わってジュードがユウに話しかける。


「しかし、どうして北じゃなくて東なんだ?」


「北側の部屋には罠があるけど、東側の部屋には罠がないんだ。わざわざ危険な所に行く必要はないからね」


「元々罠のある場所は避けてたからな。納得した」


「けどよぉ、こっちが引き下がったら舐められて次もってなっちまうだろ」


「他はともかく、あのフランクって人は見た目や言葉遣いの割に理詰めで話してきていたから、こっちに理があるときは僕たちの主張を押し通せると思う」


「確かにそんな感じだったな」


「ジュードもかよぉ」


 相棒もユウの肩を持つに至ってケネスは肩を落とした。それまで不機嫌だった顔がしょんぼりとする。その様子を見たジュードが苦笑いした。


 この手の揉め事は珍しくないとハリソンから聞いたユウは少し渋い顔になる。今までなかったのが珍しいということだ。これからは他の冒険者との対応も考えないといけない。


 次々に問題が押し寄せてくることに悩みつつもユウたちは目の前の扉を開けた。

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― 新着の感想 ―
ケネスに他人との交渉はさせるべきじゃないねw
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