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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第9章 魔窟で潤う町

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魔窟内での泊まり込み(後)

 中途半端な地図を完成させた翌朝、日の出前にユウは待ち合わせ場所である門の脇へと向かった。薄暗い中、いつもの場所にルーサーが立っている。


「ユウ! おはよう!」


「おはよう。昨日はちゃんと休んだ? 疲れるようなことはしていないよね」


「もちろん! あでも、ちょっとだけ剣の稽古はしたかな。友達から頼まれてね」


「疲れていないんならいいよ。それじゃ行こうか」


 やる気に満ちたルーサーに答えてからユウは門を潜った。


 魔窟(ダンジョン)に入った2人はユウが作った地図を元に中を進む。初めて探索してからずっと魔窟(ダンジョン)の西側ばかりで活動していたので、ユウの持つ地図は出入口から西側に偏っていた。


 しかし、それでもまったく問題がないほど魔窟(ダンジョン)は広い。事実、ユウの手元には昨日冒険者ギルドで描き足した地図が10枚以上あった。


 部屋を抜け通路を進みながらユウはルーサーに話す。


「今まで中途半端だった地図を昨日冒険者ギルドで完成させたんだ。今日はその新たに描き加えた場所を中心に攻略しよう」


「稼げるならどこでもいいよ! でも、それじゃすぐに終わらない?」


「そんなことないよ。例えばこの地図を見て。魔窟(ダンジョン)で描いたのはここからここまでだけど、他は昨日描き足したんだよ」


「ええ!? ほとんど行ってないぞ!」


「そうだろう? 描き足した所は必要な情報も書き込んであるし、何よりこの中で描き足さなくてもいいから早く進めるんだ」


「いいことずくめだな!」


 説明に納得したルーサーが笑顔でうなずいた。


 そうしてユウたちの仕事が始まった。地図を見ながら向かう先を指示するユウに従ってルーサーが前を進む。部屋に入ると魔物と戦って倒し、魔石を拾った。もうおなじみの行動なので迷いはない。どちらも慣れたものだ。


 体感で昼間だと思われる時間帯の活動に問題はなかった。小休止を繰り返しながら次々と部屋の中の魔物を倒していく。たまに他の冒険者に先を越されている場合もあったが、他の部屋はいくらでもあるので焦る必要はなかった。


 いつもなら帰還を考える頃に差しかかった2人だが、今回は魔窟(ダンジョン)内で一晩過ごすので更に奥へと進む。そうやって調子良く進んでいた2人はあるとき行き止まりの部屋にたどり着いた。そこで魔物を倒して魔石を拾った後、ユウが宣言する。


「一旦進むのを止めて、ここで仮眠を取ろう」


「ここで? どうして?」


「これから仮眠で短時間寝るけど、2人とも寝たら何かあったときに対処できないじゃない。それは困るから常にどちらかが起きて周りを見張る必要があるんだ。でも、部屋から通路がいくつも伸びていたらたくさん見張らないといけないから大変だよね。だったら、この部屋みたいに出入口が1つしかないところで陣取った方がいいでしょ。僕たちは今2人しかいないからできるだけ楽に見張れるところがいいんだよ」


「なるほどなぁ。見張るって、起きていればいいのか?」


「まぁとりあえずはね。それで、何かあったらまず寝ている人を起こすこと。多少怪しくても気のせいだって見過ごしたら駄目だよ」


「それで何回も起こされるのはイヤだなぁ」


「確かにね。でも、起こさないまま問題が大きくなるのはもっとまずいから」


 微妙な表情をするルーサーにユウが言い切った。敵襲と同時に起きるなど最悪である。可能なら事前に起きて少しでも準備をしておきたい。


 何度かうなずいたルーサーは更にユウへと尋ねる。


「そうだ、仮眠ってどのくらい寝るんだ? 鐘1つ分、いや、魔窟(ダンジョン)じゃ鐘の音なんて聞こえないよね。どうやって計るの?」


「時間は砂時計を使って計るよ。昨日買ってきたこれでね」


「へぇ、これでか。どのくらいの長さなんだ?」


「鐘1回分の3分の1だよ。これの2回分だから、1度砂が落ちきったら逆さまにしてまた砂が落ちきるまでだね」


「なんで鐘1回分にしないの? 寝不足にならない?」


「見張る方は起きているだけでも大変なんだ。何しろ眠いし、何もなければじっとしているだけだから眠くなるし、砂時計2回分だけでもかなりつらいよ。見張っている途中で寝たら駄目だからね?」


「わ、わかってるよ。でもこれなら、もっと人数が多い方がいいよね」


「そうだね。パーティが4人から6人って人数の理由の1つだよ。1人砂時計1回分だけ見張ったら後はたくさん眠れるから」


「人の数が少ないとこんな問題があるんだ」


 徹夜するといきり立っていたルーサーはいざ仮眠の時間が少ないと聞いて呻いた。睡魔という強敵と戦うことが難しいことを知っているのはユウだけではないのだ。


 ともかく、今いる部屋で休むと決めた2人は床に背嚢(はいのう)を置いて座った。干し肉を取り出すと齧り付く。


「ユウ、どっちから先に寝るの?」


「ルーサーが決めてくれたらいいよ。僕はどちらでも平気だから」


「うーん、だったら先に見張ろうかな。まだ眠くないし」


「わかった。だったらこれを食べ終わったら寝るね。砂時計はこれ、食べ終わったら逆さに向けて」


 背嚢から取り出した砂時計を手渡しながらユウは説明した。食事を再開するとこれからのことを考える。


 これから鐘の音1回分の3分の2だけ眠るが、これを1人2回繰り返す予定だ。1人当たりの睡眠時間は短いが交代で眠ると合計で鐘の音3回分近くになる。意外に時間を費やしているのだ。


 また、ユウの予想ではルーサーは途中で居眠りする可能性が高い。夜の見張りの最大の敵は暇と睡魔だ。これを克服するのはなかなか骨が折れる。たまに起きては様子を確認してやる必要があった。特に2度目の見張りのときは要注意だ。


 珍しそうに砂時計を見ているルーサーを眺めながら食事をしていたユウは干し肉を食べ終わると背嚢を枕に横になる。そうしてすぐに眠りに落ちた。今回は充分眠れることは最初から期待せず、浅い眠りを繰り返す。


 たまに意識を浮かび上がらせたユウは薄目を開けてルーサーを見た。1度目の見張りのときは生あくびを繰り返しながらも何とか起きていたが、2度目の半ば辺りでついに舟を漕いでしまう。


 体を起こしたユウはルーサーに近づいた。そして、その体を揺する。


「ルーサー、寝るな」


「え? あっ」


 ルーサーが返事をする前にユウはまた戻って横になった。薄目を開けてそちらを見るとばつが悪そうに頬をかいている。それを知るとすぐに目をつむった。


 体感で一の刻から二の刻の間だと思われる時間帯になる。砂時計の砂粒がすべて下に落ちたのを確認するとユウはルーサーを起こした。眠そうに目をこする相棒を尻目に背嚢から干し肉を取り出す。


「おはよう。よく眠れた?」


「あんまり寝た気がしない。もう朝なの?」


「たぶんね。干し肉を食べて頭をすっきりとさせたら出発するよ」


「わかった」


 寝ぼけ眼ながらもルーサーは自分の干し肉を手にすると囓り始めた。すぐに水袋を口に付けては傾ける。


 そうして朝の準備が終わったユウたちは魔窟(ダンジョン)での活動を再開した。


 ユウはいつも通りの調子で作業を繰り返す。地図の確認と魔物との戦闘に不安はなかった。一方、ルーサーはいつもよりも精彩を欠く。大きな変化ではなかったが、歩いているときはぼんやりとしたり戦っているときは苦戦することが多かった。


 その様子をずっと見ていたユウは昼食のために休憩をしているときに声をかける。


「ルーサー、横から見ていると明らかに寝不足でふらついているように見えるよ」


「うっ、そうなんだ。なんか頭がぼんやりとしてはっきりとしないんだよ」


「慣れないとそんなものだよ。でも、ここで大きく稼ぐためにはずっと奥まで行かないといけないらしいけど、そのときにそんな体たらくじゃ困るんじゃない?」


「ユウはどうやってこれに慣れたんだよ?」


「何度も繰り返してかな。横になったらすぐに眠れるようになって、短時間の睡眠である程度すっきりなるまでね」


「俺も繰り返したらそうなれるかな?」


「そりゃ誰だってできると思うよ。ただ、後日充分に休まないと体に悪いからね」


 冴えない表情のルーサーを見ながらユウが話した。中にはどうしても慣れないという人もいるらしいが、そういう人は冒険者に向いていないと考えている。


魔窟(ダンジョン)に夜通しいる活動はもっと仲間が増えてからの方がいいと思う」


「俺もそう思う。最低あと1人はほしいな」


「できれば2人だね。何にせよ、2人でやるのはきついってわかったから、しばらくは日帰りで活動しようか」


「そうだね。その方がいい」


 顔をしかめながらしゃべるルーサーにユウはうなずいた。そもそも今回の場合、魔窟(ダンジョン)で泊まり込んでもあまり大きく稼げない。なので、金銭面での利点はそこまでないのだ。ルーサーも今回その点に気付けばこれからは無茶なことを言わないだろう。


 その後はユウの判断で早めに切り上げるまで魔窟(ダンジョン)内を回り続けた。

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― 新着の感想 ―
今回も新しい地図を書いてきたことや砂時計を用意したことに、ルーサーは「ありがとう」の言葉もなかったねw
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