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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第8章 古代遺跡と古代人

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生きている可能性に賭けて

 魔石探しを終えたユウとスキエントは拠点にしている部屋に戻ってきていた。足りない魔石を探しに別の魔石の間へ向かって帰ってきたところだ。


 疲れ果てた様子の2人はぐったりとしていた。箱型の石の寝台を背にして床に座り込んでいる。しばらくどちらもしゃべらずにそのままじっとしていた。


 やがてユウがぽつりとつぶやく。


「まさかこんな所でスコップを使うことになるなんて思わなかったよ」


「それのおかげで魔石を取り出せたんだ。感謝しているよ」


 視線だけを向けたスキエントが疲れ果てた声でユウに言葉をかけた。それからすぐに下を向く。


 2ヵ所目の魔石の間に向かった2人が目にしたのは土石でほぼ埋まっていた室内だった。当然保管されていた魔石の大半は土石の下なのだが、一部は露出していたのでそこを足がかりに小さいスコップで少しずつ掘り出したのだ。


 この作業を交代でこなして何とか2つの魔石を手に入れたのだが、重労働は2人の体力を根こそぎ奪ってしまう。そのため、休息のためにスキエントが目覚めた部屋へと戻ってきたのだ。もはや拠点のようなものである。


 交代しながら眠った2人はとりあえず動けるくらいにまで体力を回復させると、早速次の行動について話し合った。


 座りながら囓った干し肉を飲み込んだユウがスキエントに話しかける。


「これでここから出られる目処が付いたけど、次は仲間を起こして回るの?」


「そのつもりだ。脱出のためにやれることはもうやったからな。いよいよだ」


「横になっているときにちょっと考えたんだけど、スキエントってこれからどうやって生きていくの? この遺跡の糧食の間は空っぽだったから、たぶん他の遺跡も同じだと思うんだ。しかも、今だって食べ物は持っていないでしょ。外に出るしかないように思えるんだけどな」


「確かにな。正直なところ、どうしたら良いのかまるでわからない。ただ、どこかに何かが残っているかもしれないから、少しの間はそれを探してみようと思う。駄目だったら外の世界に出て生きていくよ。かなり苦労しそうだが」


「話を聞くほどに知識とか常識が全然違うっていうのがわかったもんね。けどその前に、言葉をどうにかしなきゃいけないよ。僕とはたまたま話せているけど、この、えっと、異界諸言語だっけ? この言葉は外では全然知られていないから」


「そこも困ったところなのだ。今のところ打つ手がないからな」


「いっそのこと、僕と一緒に外の世界に出たらどうかな? それで言葉だけでも覚えてから別の遺跡に行ったらいいと思うんだけど」


 囓った干し肉を咀嚼するスキエントからの返事はなかった。ユウから目を逸らして考え込む。


 提案したユウにしても強く勧めているわけではなかった。選択肢の1つとして提案しただけである。もちろんスキエントが応じれば受け入れるつもりだが、決めるのはあくまでも当人という態度だ。


 何度か干し肉を囓っては飲み込んだ後、スキエントがユウに言葉を返す。


「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい。けど、私は別の道を選択する。やっぱり別の都市がどうなっているのか早く知りたいのだ」


「そっか。だったら仕方ないね。本当は別れるときに水と食べ物を分けるべきなんだろうけど、もうぎりぎりでこれ以上は余裕がないんだ」


「構わない。今まで分けてもらっただけでも充分だ。これがなかったから飢えていたからな。ここまで何もなくなっているなんて予想外だったよ」


「スキエントの方がうまくいくように祈っているよ。って、まだその前にやることがあったね」


「その通りだ。これから仲間を起こさないとな」


「場所はわかっているの?」


「もちろんだとも。この区域(エリア)だともう1ヵ所、ここと同じ部屋があるんだ」


「ならそこへ行って早く起こしてあげないと」


 最後の干し肉のかけらを口に入れたユウは立ち上がって背嚢(はいのう)を背負った。それに合わせてスキエントも腰を上げる。用意が調った2人は今いる部屋から出た。


 別の長期睡眠のための部屋は区域(エリア)内の遠方にある。そのため、長く歩く必要があり、魔物を避けるため更に周り道をしないといけなかった。


 結構な時間をかけてたどり着いた室内は元いた部屋とほぼ同じ状態だ。縦横に整然と石棺もどきの箱が並んでおり、そのほとんどは石の蓋が横に立てかけてある。


 2人は時間をかけて室内の様子を確認した。見るべきものはほとんどなかったが、ユウは小首を傾げてスキエントに疑問を投げかける。


「スキエント、前から不思議だったんだけど、どうしてこれってほとんど使われていないの? 危なくなったら使うものなんだよね?」


「そこは難しいところだな。深刻な事態に陥って長期間避難をしないといけないときに使われるものなんだが、助かる見込みが低い場合は棺桶に入るというのと同意義になる」


「次に起こしてもらえる可能性が低いから?」


「その通りだ。現に私の眠っていた部屋だと起きられたのは私だけだったろう? 言い方はおかしいが、普通の災害を想定されて作られたもので、こんな致命的な事態に使うなんて考えられていなかったんだよ。長くても数十年くらいの期間かな。理論上は百年単位だとは聞いているが」


「スキエントはよく生きていたね」


「私も驚いている。隣の寝台は駄目だったから、余程運が良かったのだろう」


 石の蓋が閉じている箱型の石の寝台の前で2人は立ち止まった。ユウは1歩退き、スキエントは前に出る。


 神妙な顔つきのスキエントは石の蓋を始めいくつかの場所を触った。しかし、動く気配はない。ユウは声をかけられなかった。


 小さなため息をついたスキエントは次の寝台に移る。同じように石の蓋に触ると動き始めた。開いていく石の蓋を見て目を見張る。


 1歩退いて見ていたユウも近寄って中を覗いてみたが何も言えなかった。スキエントのときのような透明の液体はなく、底に人型の白骨が横たわっている。


「これは」


「駄目だったみたいだな。液体の方が保たなかったらしい。あるいはわずかな隙間から漏れていたのか」


 表情が険しくなったスキエントの言葉にユウは何も返せなかった。下手をすれば棺桶になるということを思い知らされる。


「スキエント、さっき致命的な事態でこれを使うことは想定されていないって言っていたけど、だったらどうしてスキエントやこの人たちは長期睡眠をしたの?」


「都市の機能を維持するためだよ。もしかしたらまた都市が復活するかもしれないというときに、担当できる人が必要だろう?」


「起きられないかもしれないっていうのに、よくそんなのに応じられたね」


「あのまま生きていても元のような生活ができるとは思わなかったからな。それに、都市を維持するという仕事に誇りもあった。だから長期睡眠しても都市の機能を守りたかったんだ。それがこんな状態になっているとは予想外すぎたがな」


 箱型の石の寝台の縁を両手で握ったスキエントは寂しそうに笑った。しかし、その笑顔もすぐに消える。


 声をかけづらいユウは少し離れてじっと待った。石の蓋がなされた石棺もどきの箱はあと3つある。


 気分が落ち着いたスキエントは大きく息を吐き出して歩き出した。次の寝台に手を触れる。これはまったく動かなかった。その次も同じ。最後は石の蓋は開いたが駄目だった。


 想像以上につらい結果となったことにユウは気が滅入る。蓋が開かないのは残念だが、開いた結果がこれではどちらが良いのかわからない。


 それでも動かなければならなかった。何ともつらそうな表情をしているスキエントにユウは声をかける。


「スキエント」


「この区域(エリア)は私1人か。こうなる可能性は考えていた。実際にそうなるときついが、少し落ち着いてきたよ」


「ああ、うん。もうしばらく休んでいてもいいとは思うけど」


「いや、動こう。じっとしていても余計なことを考えるばかりだからな。何かしている方がまだ落ち着く。これから転移の間に行こうじゃないか」


「わかった。いよいよだね」


 うなずいたユウはスキエントと共に歩き始めた。これでお互いにここでやるべきことはもうない。


「前に見つけた状態の良い転移魔法陣のある部屋に行こう。探し出した魔石を設置すれば転移できるはずだ」


「あの転移の魔法陣ってどうやって動かせばいいの?」


「それは着いてから教える。ユウがうまく動かせなくても私が外から操作すれば起動できるから、そこまで不安にならなくてもいい」


「ようやく外に出られるのかぁ」


 遺跡の中に逃げ込んでまだ数日しか経っていないはずだが、ユウにはとても長い時間過ごした気がした。早く太陽を見たいという思いが強い。


 光の玉で照らされる通路をユウとスキエントはたまに話をしながら歩く。目的の転移室までは遠いが、2人の顔には余裕があった。

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― 新着の感想 ―
スキエントが水も食料もないのに、ユウと同行せずに「別の都市がどうなっているのか早く知りたい」と別行動を選択するのは、まるで自殺志願者のように非合理的で理解できませんw
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