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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第7章 帰らずの森

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遺跡の入り口

 多少の犠牲を出しながらも探検隊はその歩みを止めなかった。北の台地の斜面を上がると更に半日かけてその上を進む。もちろん、ここでも岩人形(ストーンゴーレム)の襲撃があった。1度などは後方からである。


 既に冒険者の数が2パーティ4人しかいない後衛にとって、例え1体であっても岩人形(ストーンゴーレム)は荷が重い相手だった。


 背丈が人間の倍ほどもある硬い人型の敵に対して、一方の2人パーティは荷役人足共々完全に腰が引けている。それに対して、ユウは震えながらも前に出た。背嚢(はいのう)を地面に下ろしてブレントに声をかける。


「ブレント、あいつの脇に回って注意を引いて! 正面は僕がやる」


「わかった。死ぬなよ!」


「そこの2人もあいつの横に回って! 無理に突っ込まなくていいから!」


 周りの冒険者に声をかけたユウは近づいてくる岩人形(ストーンゴーレム)を待ち構えた。冒険者の役目は足止めだ。倒す必要はないのでひたすら逃げ回れば良い。そうつぶやきながら槌矛(メイス)を持って腰を落とす。


 岩人形(ストーンゴーレム)の左後方からブレントが剣で牽制した。切っ先が敵の腰に当たるがわずかに傷を付けた程度だ。石でできた右腕を振るわれたブレントが大きく後退する。


「あああ!」


 その隙にユウも突っ込んで岩人形(ストーンゴーレム)槌矛(メイス)を叩きつけた。もちろん効果があるとは思っていない。気を引くべく当てただけだ。


 そこへ相手が石の左手を振り上げてユウへと叩きつけようとする。ところが、そこで動きが止まった。引き下がりながら周囲を見るが誰かが何かをした様子はない。


 不思議に思いつつも一旦離れたユウが構えていると、今度は別の2人パーティが近づいて剣で牽制しようとした。すると、その上げた左手で1人に殴りかかる。剣を吹き飛ばされつつもその冒険者は地面を転がって難を逃れた。


 後衛の冒険者がそうやって岩人形(ストーンゴーレム)を足止めしている間に、バレリアノが直衛戦士団と共に駆けつける。戦士たちの後方で立ち止まった魔術師は何事かをつぶやいてから長杖(スタッフ)を敵にかざした。


 わけもわからずユウがバレリアノの様子を見てると杖の先が急激に変化する。


風刃(ウィンドウカッター)!」


 バレリアノが声を上げた途端に長杖(スタッフ)の先の空間が揺らめき、何かが飛び出した。更にはそれが岩人形(ストーンゴーレム)の頭に当たって破裂する。そして、ゆっくりと岩人形(ストーンゴーレム)は地面に倒れて動かなくなった。


「すごい。これが魔法なんだ」


 目を見開いたままのユウが魔術師であるバレリアノに顔を向けた。周囲の歓声を受ける探検隊の隊長は当然といった様子でそのまま中央へと戻っていく。


 戦いが終わって地面に置いた背嚢をユウが背負っているとブレントが戻って来た。その顔はいささか興奮している。


「ユウ、さっきの見たか!? 岩人形(ストーンゴーレム)に何か当たってパーンって音がしたかと思うと倒れたぞ!」


「見たよ。魔法があるっていうのは知ってたけど、見たのは今のが初めてだ」


「俺も! すげぇなぁ、魔法使い! あいや、魔術師だったか。俺も使ってみたいなぁ」


「僕もだよ。でもあれ、賢い人でないと使えないんじゃなかった?」


「魔法の素質があるかどうかって俺は聞いたことがあるぞ。それがなかったら、頭が良くても使えないらしい」


「実際どうなんだろう。いやでも、すごかったなぁ」


 再びユウは地面に倒れた岩人形(ストーンゴーレム)に目を向けた。あんな大きな敵を一撃で倒す魔法使いにユウは勝てる気がしない。


 2人で魔法の話で盛り上がっていると号令がかかった。出発の合図である。どちらも慌てて後衛に戻った。




 帰らずの森に入って5日目の昼、探検隊はバレリアノが求める地点までやって来た。一旦ここで昼休憩となる。


 この日の朝の移動で冒険者は更に2人減った。ヘイデンのパーティと無傷だった6人パーティからだ。これで冒険者は18人となる。


 昼食後、4分の3に減った冒険者たちは地下に通じる穴か通路がないか探すよう命じられた。リカルドからパーティ単位で大雑把に指示された場所を調べていく。


 ユウとブレントは探検隊の拠点の南東辺りだ。近場から順番に草木を分けて探す。


「本当にこの辺りにあるのかな? 普通の地面が広がっているだけに見えるけど」


「ユウ、わからないぞ。木の根っこなんかにぽっかりと穴が開いてるかもしれないだろう」


「人が通れるくらいの大きさなら、もっと大きな木を探さないと駄目なんじゃない?」


「長い年月で埋まってるかもしれないから、そうとも限らないと思う」


「そうなると地面を掘らないといけないね。ああそうか、だから魔石採掘のパーティばっかりが採用されたのか」


「いや、それは関係ないと思うぞ、俺は」


 雑談しながら割り当てられた場所を2人で探していった。あまり遠くへ行きすぎると孤立してしまうが、近場にはなさそうなのが悩みどころだ。


 何度か場所を変えたユウたちは、大きな岩が小山のように連なる場所へと移っていた。なかなか歩きにくい地形である。


「うわ、危ない! ああもう歩きにくいなぁ。ブレント、転ばないようにね」


「これくらい平気だけど、探しにくいなっと」


 岩の間を縫うように、あるいは岩から岩へと2人は地下に通じる穴か通路を探し続けた。


 途中でふとブレントが背後を振り返る。


「だいぶ遠くまで来たんじゃないか? そろそろ一旦戻るか、ユウ」


「そうだね、これ以上探しても見つから、あれ?」


 仲間と話をしながら岩の間などを調べていたユウは地面に突き刺さった板状の岩を見つけた。しかもこの岩の上を伝って下りると地面の下に行けそうである。


「ブレント、地下に行けそうな穴を見つけた!」


 慌ててやって来たブレントがユウの指差す先を見た。確かに奥が見えないほど先に続いている。


「確かに穴はあるな。でもこれが本当に遺跡に通じる穴なのかはまだわからないね」


「僕もそう思う。麻の紐があるから、どこかの岩にくくり付けて下りてみようか?」


「確認はした方がいいと思う」


「それじゃ僕が下りるよ」


 背嚢を岩の上に下ろしたユウは麻の紐を取り出し、近くの岩にくくり付けた。念のためにブレントに持ってもらい、一歩ずつ慎重に下りて行く。


 板状の岩は下にはあまり延びていなかった。一般的な家の1階半程度だ。差し込む光だけを頼りに周囲を見ると、長い年月で風化しているが石造りの地下通路らしいことがわかる。板状の岩の裏側は土砂で完全に埋まっているが、もう一方は奥に続いている。


「おーい、ユウ! どうだ!?」


「たぶんこれ、遺跡だと思う! 帰って報告しよう!」


 自分も見たいとせがむブレントも1度地下を見学させてからユウは探検隊の拠点に戻った。待っていたリカルドに発見の報告をするとすぐにプリモを派遣する。


 ユウたちに案内されたプリモは直衛戦士団から2人を引き連れて板状の岩までやって来た。すぐに持ってきた縄と松明(たいまつ)を使って地下に下りて調べる。


 しばらくして戻って来たプリモはユウとブレントに真面目な表情を向けてうなずいた。


「確かに遺跡の入り口のようだ。よくやった。拠点に戻って報告してくるように」


「わかりました」


 指示を受けたユウたちはすぐに拠点へ戻ってプリモの言葉をリカルドに伝えた。


 その後、バレリアノ以下の魔術師や探索員は大騒ぎだ。発見の報告に湧き上がり、直衛戦士団と共に遺跡の入り口へと急いで向かう。


 残された冒険者や荷役人足はリカルドの指示に従って拠点を移すことになった。荷役人足が荷物をまとめるとすぐにバレリアノの後を追う。


 遺跡の入り口近くまでやって来ると、リカルドが荷役人足に少し離れた場所に設営を命じた。冒険者はその周囲の警戒を命じられて、割り当てられた場所に立つ。ユウとブレントは遺跡の入り口に最も近い場所を指示された。


 遺跡の入り口辺りで話をするリカルドたちの会話を聞きながらブレントはため息をつく。


「いいなぁ、俺も遺跡の中を探索したいな」


「2人だけっていうのはさすがに怖いかな。あれくらいの人数がいると心強いけどね」


「あー、俺もあの中に混ざりたいよ」


「でも、最初にその可能性はないってはっきり言われちゃったしね。そうだ、この仕事が終わってから2人で来たいって言ってたけど、あれって本気なの?」


「最初は本気だったけど、あんなデカブツが当たり前のようにいるんじゃな」


「せめて魔法が使えないと無理だよね」


 ここまでの道中を思い出した2人はため息をついた。


 その間にも遺跡を探索する準備は進められる。バレリアノとテルセオをリーダーとし、探索員2名と直衛戦士団の戦士から成る臨時パーティが2つ編成された。リカルドもバレリアノに随行することになる。尚、サウロ、プリモ、戦士2名は地上拠点に残って指揮を執ることになった。


 これからの成果を期待する楽しそうな声と共にバレリアノ隊とテルセオ隊が次々に地下へと下りて行く。


 それをブレントが羨ましそうに眺め、ユウは何とも言えない表情で見送った。

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