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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第4章 引き継ぐもの

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盗賊討伐(前)

 新年最初の月は平穏に過ぎた。魔物狩りの日々だったので随分と血なまぐさい平穏だったが、冒険者としてはごく平均的な生活である。


 このまま春になってくれたらとユウなどは願ったがその祈りは届かなかった。2月に入ってすぐに古鉄槌(オールドハンマー)に指名依頼が届いたのだ。


 いつのもように酒場『昼間の飲兵衛亭』へ集まってアーロンが内容を説明する。


「今回の指名依頼は盗賊の討伐だ。俺たちだけでするんじゃなく、兵隊と共同することになってる。兵隊の隊長はデクスターの旦那だ」


「へぇ、そりゃやりやすい」


 すぐに声を返したのはフレッドだった。ナイフで切り取った鶏肉を口に入れる。


 旨そうに肉を噛む仲間を見てアーロンがうなずいた。そして、そのまま話を続ける。


「盗賊どもはミドルドの村近くに潜伏しているらしいことがわかってる。それなら兵隊だけで始末したらいいんだが、その兵隊の頭数が足りなくて今回の指名依頼になったそうだ」


「町、というか領主は大丈夫なのか? 野盗が頻発してるならともかく、これ1つだけなのに兵を差し向けられないなんて」


「上の考えてることなんざ俺たちにはわからねぇよ。ただ、去年ロニーに聞いたように戦える奴を集めて領都に送ってるらしい」


「そういえば、村の戦士ギルドの連中も引っぱられてたな。ということは、ミドルドの村の戦士ギルドもか?」


 思い付いたことに眉をひそめながらジェイクが尋ねた。それにアーロンがうなずく。


「どの村も警備が手薄になって不安がってるらしいぜ。そりゃご近所に盗賊が引っ越して来たとあっちゃぁたまんねぇよな」


「アニキ、こっちは何人いるんだ? 前の巡回のときはあっちが3人、こっちが5人だっただろ。兵隊か冒険者がもうちょいいるんだよな?」


「いや、その8人だけだ。幸い、野盗の数は多くないらしい。しかも傭兵崩れとは違うと聞いてる」


「てことは食い詰めた農民じゃねーか。この辺りってそんなに余裕なかったか?」


「そんな話は聞かねぇな。たまたまよそから流れてきたんだろ」


「イヤだねぇ」


 渋い表情になったレックスが木製のジョッキを傾けた。相手が傭兵ならまだしも、元農民となると心理的にやりにくくなる者は多い。レックスもそれは同じだった。


 一瞬会話が途切れたときにフレッドが口を開く。


「盗賊討伐ってことは、生け捕りの報奨金と相手の所持品を回収する権利はあるのか?」


「あるぜ。ただし、報奨金の額は期待できねぇし、元農民の盗賊の所持品なんぞもっと期待できねぇけどな」


「そりゃそうだ」


 力なく笑ったフレッドがため息をついた。食い詰めて盗賊になった者たちが金や金になる物など持っているはずがないのだ。


 そうして依頼内容についての話が一段落ついたわけだが、それを機に4人の目がユウに向けられた。見れば最初から一生懸命丸テーブルの料理を食べて木製のジョッキを傾けている。しかし、仲間の視線が自分に集まっていることに気付いたユウが顔を上げた。


 苦笑いするアーロンが声をかける。


「お前さっきから忙しそうだな。俺の話でなんか質問はあるか?」


「え? いえ、別に」


「初めての割り勘で元を取りたいってぇ気持ちはわかるが、お前意外とよく食うんだな」


 体の動きを止めたユウがそのまま赤面した。それを見ていた他の3人が笑う。特にレックスに大受けだ。隣に座っていたこともあって肩を叩かれる。


「いやぁ、気持ちはよくわかるぜ! オレも若い頃はそんな感じだったからな~! まぁ残すのも良くねぇし、腹一杯食えよ、な!」


「俺もまだ若いって思ってるが、その食いっぷりを見てると自信をなくしちまうぜ」


 首を横に振りながら面白そうにフレッドが感想を漏らした。ジェイクがそれに同意する。


 そこへアーロンが入ってきた。にやにやとしながらユウに話しかける。


「新年一発目の飲み会で酔い潰れてたが、今度は食い倒れたいってわけだな。いいだろう、好きなだけ食わせてやろうじゃねぇか」


「いいです! もうお腹いっぱいですから!」


「遠慮すんなよ。なんならおごってやるぜ?」


「いえ、いいです!」


 給仕を呼ぼうとするアーロンをユウは止めようとした。他の3人は再び笑う。


 こうしてこの席では最後までユウはいじられ続けた。




 集合場所はアドヴェントの町の東門の検問所横の原っぱだった。去年の巡回のときと同じである。時刻も三の刻の鐘が鳴るときだ。


 その検問所の脇の原っぱに3人の男たちが立っていた。デクスターとその配下のショーンとフィルだ。脇で馬が草を食んでいるのも変わらない。


 先頭を歩くアーロンが白い息を吐きながらデクスターに声をかける。


「デクスター様! ただいま到着しました!」


「よく来てくれた! 今度も頼りにしているぞ!」


 直立不動から敬礼したアーロンにデクスターが機嫌良く応えた。ユウたち4人がその後ろに立つ。


 既に見知った顔ということもあって、ショーンとフィルの表情にも古鉄槌(オールドハンマー)に対する隔たりはなかった。


 依頼内容と報酬に関する確認を終えると三の刻の鐘が鳴る。


「まずはミドルドの村へ向かう。そして、駐在戦士ギルドの代表者と村長の話を聞こう」


 出発の号令をかけたデクスターが馬に乗って境界の街道を進み始めた。その後を他の7人が続いて歩く。去年の巡回のときとは違ってきっちりとした行軍ではない。みんなばらばらだ。良くも悪くも慣れている。


 ミドルドの宿駅までは散々歩いた道なので問題なく進めた。ここでデクスターは宿駅に馬を預けると皆と同じく徒歩になる。村への道はショーンが知っているので先導してもらう。渡し船で境界の川の北岸に着くと、森の入り口に見える北へ続く小道へと入った。


 あまり時間もかからずにミドルドの村の南端に着く。ピオーネの村を一回り大きくした感じの村だ。中央を東西に横切るように恵みの川が貫いている。


 村の入り口の近くにはあばら屋が1軒建っていた。フィルの呼びかけに応じて中から筋骨隆々の少し荒い感じがする中年が出てくる。


「やぁ、これはデクスター様! ようこそ! あっしがミドルドの駐在戦士ギルドの代表者ジェフです」


「デクスターである。この兵2人はショーンとフィル、他は古鉄槌(オールドハンマー)という冒険者だ。今回盗賊を討伐するためにやって来た」


「ありがとうございます。今回はあっしらの人手不足のために来ていただいて恐縮です」


「領主様のご命令で戦士を召し上げられたのだから仕方ないだろう。それより、村長に面通ししたいのだが、すぐに頼めるか?」


「ご案内します」


 村長の家は恵みの川の南側にあった。橋を渡ることなくたどり着くとジェフが村長を呼ぶ。すぐに背の高い中年の男性が出てきた。


 警戒心の強い目つきでデクスター以下7人を一瞥する。


「私がこの村の村長ハイドリーです。この度は本当にご苦労様です。戦士ギルドの皆様のご都合で野放しになっている盗賊どもを、早く討ち取っていただけるよう願っております」


 丁寧ではあるが不信感を隠しきれない態度にデクスター以下が眉をひそめた。ジェフもいい顔をしていない。


 最低限の必要事項だけをお互いに伝えるとハイドリーはすぐに自宅へと引っ込んだ。


 戦士ギルドの宿舎であるあばら屋に戻った一行は、ジェフの勧めで中に入った。室内は去年ピオーネの村で見たものとあまり変わらない。


 ユウたちが背嚢(はいのう)を床に降ろしていると、ジェフが話しかけてくる。


「見ての通り、ここの村長はあっしらを良く思っておりません。肝心なときに役に立てなかったあっしらのせいなんですが、そのせいで皆さんへの印象も良くないものになっています。申し訳ありません」


 難しい顔をしたジェフはいささか気落ちした様子だった。


 そんなジェフに対してデクスターが優しく語りかける。


「それに関しては今はいいだろう。ところで、この村に何か被害は出ているのかい?」


「いえ、まだでておりません。ただ、ミドルドの宿駅よりも東の境界の街道で盗賊の被害に遭ったという話は聞いてますから、恐らく街道を行く商人や旅人を襲ってるんでしょう」


「村を襲う可能性はありそうか?」


「食い詰めたら当然こっちに来るでしょう。もしかしたら、この村の戦士ギルドがあっし1人になってるとはまだ気付いてないのかもしれません」


「だから襲いやすい街道を狙ってるということか。盗賊の所在地と人数はわかっているのか?」


「所在地はこの村より東側としかわかっていません。人数は襲われた商人と旅人の規模から考えて10人程度かと」


 つまり、直接的な情報は何もないということだった。今回はまず相手について探るところから始めないといけない。村人の協力はあまり期待できないというのが若干厳しかった。


 それでも引き受けた以上は盗賊を退治しないといけない。ユウたちは何から手を付けるべきか考えた。

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