一話
「勉強をします」
そう唐突に学校の寮の自室で俺は宣言をした。
因みにこの部屋に自分以外の人はいない。寮なのに。
皆学校に申請をして部屋を変えて出て行ってしまったのだ、自分と同じこの学校の最底辺のクラスに在籍する気の良い友達なんて幻想は、部屋を共にする予定で部屋に訪れた際の彼等の唇を噛みしめて俯く口いっぱいに苦虫を噛み潰したような顔を見た瞬間に打ち砕かれた。
これでも精一杯人を呪う事はないのだと訴えたが生来の体質で俺は生理的に嫌悪感を抱く、所謂SAN値チェックが入る様な奴らしいのでその訴えは彼等の「・・・しにたく、ないよっ・・・!」という男泣きとダンジョンの死地である様な迫真の台詞に取り下げざるを得なかった。
『・・・そこはダンジョンに潜って意地でもレベル上げるーとか、遺物を見っけて呪いを解く打開策をーとか、有名になって最高神様にあってなんとかしてもらうーとかじゃねーの?』
なので現在喋っているのは俺の相棒を自称する呪いのネックレス――正確にはその宝石に宿る神の意志に他ならない。
呆れた様に言う彼――口調や本人の性自認では男であるので悪神でも唯一味方するヒロイン枠にすらなれない――はチマチマと勉強をしている俺を見てその声色を曇らせた。
きっと彼が人間であったならその顔はきっと微妙な表情をしているんだろうなと思う。
だがしかし、俺には反論があった。
「別に実技が全てじゃないだろう?呪術(自分を呪う)自体は才能はあるし他にも魔術自体は学べる事は学べるんだから魔術符を作れる様になればくいっぱぐれないだろう?」
『まぁ、魔術言語を学べばそうだが相棒、魔術符職人にでもなる気?』
「そうなれればいいな、とは思うが魔力が込めれないってなるときちぃかなぁ」
『相棒、何故か魔力込めると呪符になっちまうしな』
「教科書にも載ってる火の粉だったのに何故だったんだ?魔術言語だって間違ってなかった筈なのに・・・」
『つーか資格試験とかそんなんで受かんの?いや、よく知らねーけどさ』
「・・・仮にダメでもテストに役立つし知識は無駄にはならんし・・・」
『相棒・・・』
「ええい!うるさい!実技が死んでる今!筆記の方だけでも良くしておかねーとここ退学にでもなったらどーすんの!?中卒無職家無しの神にすら呪われたパーフェクト社会のゴミが出来上がりだぞ!」
『まぁまぁ、悪神のものになると魂まで捧げて神使になってくれれば餓死は無くなるし神として何とかしてやるから・・・』
「神なのに悪魔の契約過ぎる・・・」
『いやぁだって俺、悪神だしぃ・・・っつーか悪魔如きと一緒にしないでくんない?アイツら契約持ち掛けんのに必死こいて色んな人間の所にどさ周りいってるただの営業職なんだからさ、仮にも神がついたからにはそーいう下っ端とは違うんだわ」
「えぇ・・・神の間の悪魔ってそんな認識なん?」
『いやまぁ・・・俺には自分の部下とかいないんだけどさ、善神の方でも部下が天使の扱いじゃん?そんな不思議がる?』
「考えてみりゃそう・・・か?」
『そうそうそれとさあっちの方の天使の階級の話とかクソ笑えるからよぉ、悪魔が天使に階級マウント取られて階級が流行った時、逆らえない関係性が生まれた所為で・・・』
「おっ何それちょっと興味ある・・・ってそうじゃなくて!」
『なんだよ相棒、天使の「っかー!つらいわー!主様に愛され過ぎちゃってつらいわー!」マウントが天使内で問題になった時の話とか聞きたくねーの?』
「聞くよ!聞くけど!今俺の危機!就職!NOT契約!もしくは個人事業主!が希望の俺の将来のお話!!」
『俺と契約すりゃいいのになぁ・・・悪いようにはしないって』
「それが本当でも嘘でも俺おんぶに抱っこで生きてく気ねーから!」
『そもそもただでさえ割ともうどうにかして実技っつーかダンジョンアタックに関わって実績あげねーともう如何にもならねーとこまで来てんだろ?焼け石に水じゃね?』
「・・・退学にさえならなきゃ取り敢えずOKって俺は思ってるから・・・」
そう、何もこの学園では最底辺であっても就職さえ上手くいけば、況やつい最近家から見捨てられて本当に自立しなければいけない立場になった人間としては起業でも何でも食い繋ぐ金を稼ぐ手段を手に入れなければならない。
『・・・で?退学にならない策って何?』
「そう!よくぞ聞いてくれた!」
俺はポケットから生徒手帳――という建前の携帯電子機器であるガジェットを取り出す。
見た目と昨日ももうほぼスマホに近く学校のダンジョンに入る時にしようする際にいるパスポートみたいなもんまで内包してるこれは色々な術式が刻まれているというハイテクノロジーとファンタジーの合体版みたいなもんで学校内外問わず活躍するお役立ちアイテムだ。
これも、嘗てここのような冒険者学校で才能を開花させた天才が作り上げたものの一つらしい。
全くもって便利なものでダンジョンに入った際に死にかけるとコレが救難信号を送ってくれたり電子マネーの決済も出来るので冒険者学校特有の金関係の煩わしさや契約まで出来るという。
・・・学園卒業生がそのままこれを持って卒業する事も珍しくはないという。
ピ、と軽い電子音がすると画面に俺の学園での情報が表示される。
LV1 東 颯 学年順位 3480/3480位 ポイント 50
加護 呪神の加護(-) スキル 呪術(自己) 種族 人間(血統神秘)魔術 方位占(使用不可) 魔法 申告なし
備考欄 ~ マイナス方向のスキル、デメリットのある加護、周囲に被害影響のある血統神秘。魔術は神の加護により使えない状態になった為変更有。神の加護によりレベルが上がらないという異常アリ。
・・・いつ見ても悲しくなる俺の情報。
学園に在籍する生徒ならば何時でもアクセス出来るこの超マンモス高校の生徒の情報である。
教師に自己申告したものである為、俺の加護の欄は悪神ではなく呪神の加護となっている。
その他ちょびっとばかり違うものはあれど、概ねこれが俺のステータスである。
そうして俺が退学回避のために目を付けたのがこの学年順位の所である。
そもそも学年順位とは、モンスター同士に連携を図る為に同じ実力のものがパーティーを組みやすい様に、延いては自己研鑽を促す為となっているがこの学校は国運営の学校であり管理しやすくする為の指標となる数字である。
そうして順位が高ければ高い程優遇される。
授業の配慮、ポイントの支給、寮や教室、備品や待遇。
もう清々しい程の依怙贔屓である。
そして待遇を良くすれば自然と生活のレベルを落とせなくなる。
結果、国に向かい入れられる、というシステム・・・らしい。
後、当然の如く底辺は搾取される。実際俺のいる現在の環境はあまりいいものとはいえない状況である。
寮の部屋には隙間風が吹きすさび、学園での利便性も食事も順位が低ければ容赦なく落とされる。
冒険者とは常に競争の社会であり、弱者には風当たりは厳しい。
この審査の基準は明確にはなっていないがこの学園でレベルが1なのは俺だけなのだそうなので恐らくはそのせいだろう。
そして授業の配慮が欲しい俺はこの学年順位を上げる事を目論んでいた。
即ち。
「テストでいい点をとる!」
『・・・・・・・・・レベルから目を背けるなよ』
「それを!元凶の!!お前が!!!言うなぁぁぁ!!!!」