プロローグ
実験的に投稿
ある日、世界に予兆が現れた。
だが世界にその予兆は感じ取る事は出来なかった。
世界は今や未知なる土地は存在しないと言えるだろう、冒険はないだろう、ただ生きる事のみに専念しなければならない時代ではなくなり、世界に余裕がもたらされ、人は、遂に神の領域に足を踏み出しつつあった。
だがそれは、人間の分かる範囲での話だった。
世界は知り尽くされた?人は未だ、人の身では知らぬことの方が多かった。
未開の地はない?人は地平の事しか知らない、海の底さえ知らない人間はまるで小川を見て大海を知ったと嘯く阿呆のようだ。
だからだろう、人は予兆を感じ取る事は出来なかった。
ある日何処かで人の体の全ての病魔を払う薬草が咲いたとして、それをどうして人が知り得るだろう?
ある日海の底、人間が足を踏み入れた事のない程の深海で、魚が火を吐いた事を。
ある日何処かで小さな虫が、小さく言霊を操った事を。
ある日何処かであの世がこの世に近づいた事を。
ある日唐突に神が欠伸をする程の間、時が止まった事を。
ある日神様がいた証が世界に根付き、蔓延った事を。
ある日超常の現象が世界に現れても良い、とされたその瞬間を。
人間は、神ではないのだから、全てを知り得ない、故に、人は、生と死、不定と決定からは逃れる事は出来ない。
故、この世界に不可思議が蔓延しきったその頃に――。
人が神秘というソレに、理解不能のことがらに、生まれながらにそういうもので終わるものに、気付いたのは、どうしようもなく、愚鈍な程にもう自分達の身に――――神秘が降りかかってからだったのだが。
世界は『前』とは隔絶した。
物語で紡がれるような出来事が目の前で行われる様になり、世界は目に見える程に変容した。
ソレを破壊と呼ぶか、混乱と呼ぶか、変化と呼ぶか、回帰と呼ぶか、希望と呼ぶか、奇跡と呼ぶか、ともかく、『前』と『後』だ。
この決定的な人の世に行われた変容を、ある神がこう語った。
「これは所用、アレですよー!私達がもう戻ってきても良いよって証なんですよー!いやぁ、何処のどなたーでは、ないかもですしー、え?現象?それって、要するに私達神様ですしー。」
「え?何も分からないじゃないかって?いやいや!違いますよ!元々そうなんだってなっただけですって!!え?何故?いや、そういうものだ、としか・・・え、当てにならないってどういうことd・・・ちょっ!?心を読むなって、神に向かってそりゃあなたむr、あああああ!待って!!帰らないで!信仰!!顕れたばかりで信仰欲しいのぉぉぉぉ!!」
「・・・ちゃんと撮れてます?おーけー。よし、わん、つー、コホン、ええ、そうですね、貴方達にしてみれば、この世にあってはならないものが紛れ込んだ、という認識が近いようですが、コレは言うなれば、当り前に起こるべくして起こった出来事な訳です。」
「水を亀井戸から掬って飲めば無くなる様に、歩けば進む様に、貴方達がいる世界はただ当り前の事をしただけ、ええ、だから、この一連の出来事、『前』と『後』が変容した事に敢えて名称をつけるとすれば、世界基準値の変更ですね、元となるものが大幅に違ったものに変わったのですから。」
「基準値とは何か?アハハ、まぁ感覚みたいなものですよ、あなた方の言う神秘を世界が扱える様になれるか、なれない世界か。」
「今風だとこれが一番分かりやすいんじゃないですか?【世界基準値上昇】」
――こうして世界は、はた迷惑であることに――
れべるが、あがった。
――さて、唐突だが簡単な現状の世界の話をしよう。
世界がレベルアップして幾つもの国が滅び新たな国が生まれ世界変革の混乱期を乗り越え神々が地上へ顕現し、やっとこさ平穏な世界が訪れて人類は安心で安全な生活を・・・遅れていなかった。
どれくらい安全ではないかというと世界が荒れに荒れた時、真っ先に顕現してくれた神様が【戦争】を司る戦神だったというのだから如何に人類がどうしようもなかったというのが分かるだろう。
そして神様を味方につけた国が「勝ったな!ガハハ!!」で済むのなら人類はそもそも戦争なぞしていない。
そもそも戦争において争っていた対象がレベルアップの影響で神秘により具現するモンスターや怪物、化生や魑魅魍魎というバケモノの類ではなく人類に残されたリソースを奪い合う為の内ゲバであったというのは学校で教えられる有名な歴史だ。人類は世界の位が上がっても未だ愚かである。
そうして負けた国は消耗した所を神秘的存在にひき潰され滅びた。
勝った国は栄光とそうして更なる戦争の相手を探しながら敗戦国にゲリラ的嫌がらせをされながらも神様が凄く頑張って【英雄】とか【天才】とかそう言った人材を探したり育てたりしながら何とか国を維持した・・・因みに現状生き残っている殆どの国がこの世界を巻き込んだ戦争に勝利した国であるのは言うまでもない事だ。
そうして滅びた国の生き残りが嘗ての国の復興や新たに国を立ち上げようとしている未来の王様達が虎視眈々と力を蓄え、勝利した国は依然として勝利し続けこの世界でモンスターにも人にも負けない自衛能力や国威を得ようとするのに世界が最も必要とするものは何か?
――【英雄】や【天才】という人材、である――――。
そしてそれは俺、東 颯の住む日本という国においても何も変わってはいなかった。
世界に神秘が溢れ、人の身にも神からの加護やスキルという個人の才能の具現やレベルという世界からの祝福、技術が昇華された異能である魔法や魔術という系統の力、血に込められた血族の種族の力等々。
文字通り国中からそう言った力ある者達をかき集め、育て未踏破地域攻略を行い資源を回収、国力を上げる事が全世界共通で行われている・・・事の大小はあれど。
一応は日本に顕現しておられる神々達は来るもの拒まずの精神でいいと思っているのか過度な徴兵の類の事はせずまたある程度素養を見る為にダンジョンに潜らせる俗に言う冒険者学園を設置、何とか力あるものに好待遇で様々な方向にその力を発揮して貰う事を行える様に舵を切った。
そして幾つもの月日は流れ・・・強者は成り上がり栄光と名誉を掴み女の子にわーキャー言われ弱者は落ちぶれ地べたの隅を見つめ背中を蹴りつけられ捨て置かれ女の子にわー!キャー!!言われてしまう・・・。
そう、俺の様な存在が生まれる社会となっているのだ。
尚、前者と後者では意味合いが違い過ぎる事は言うまでもない。
悲鳴的な意味では前者は黄色いが後者はまるで汚物でも見っけた様なもっと茶色っぽい何かだ。・・・声のデカさだけで言えば勝ち。やったね。
そう思いながら俺は制服の背中に付いいるであろう靴の形に泥が付いたブレザーを軽くはたきながら悲鳴と共に去っていったギャハハと声をあげて去っていくいじめっ子君達から受けたかわいがりをやり過ごした。
俺は悪くない社会が悪い。強いて言うならレベルアップなんてしちゃった意識高い世界が悪い。なんですか自己研鑽ですか?そーですか。でも必死に励み続けてた世界さんマジパナイっす・・・へへ。ソンケーしてるっすよマジで。なんでどーにか俺も何か持ってるだけでレベルが勝手に上がったり寝てるだけで世界最強的な加護とかくださらないっすかねぇ・・・。
国立星乃海学園、キラキラとしたネーミングセンスとは真逆の生徒を国の為に使えるものとそうでないものを選別するドロドロとした学園で最底辺をひっそりと俯いて歩く嫌われ者が俺である。
神様お願いです。
農業系でも工業系でも水産系でも何でもいいんで転校させてくれないですか?
『無理じゃねーかなぁー・・・ただでさえ家系で血が【呪い】の方向で尖らせてきた一族なのに相棒は自分を呪う方向に才能が行っちまってんだもんなぁ・・・』
「黙れ!元凶その2!お前の所為で俺は最後の望みさえも断たれたんだ!!転校の道も!お前が【悪神】なんてもんじゃなかったら今頃俺は呪いを生業とする職業にも付けたかもしれないのに!お前の呪いでレベルが上がらないだって!?ふざけんなよ!危なくて低級の呪具すら触れないよ!ただでさえ生きてるのが不思議な程呪われてんのによ!!」
『傑作だったよなあれは。俺が憑いた影響でダンジョンから帰って来たお前が神秘を取り込んだ結果目覚めた才能が更に自分を呪う神様の加護が判明しましたって報告した時の教師の顔ったら・・・』
「ダンジョンアタックで嵌められて死にかけた結果お前と一心同体になっちまったのは俺の人生最大の不幸だよ」
『俺は神生最大の幸運だぜ?相棒』
「頼むから出てってくれない?後教師には呪い神の加護って伝えてあるからなぁ・・・親には号泣されたよ」
『自分の信奉してる神じゃなく別の神が加護を与えているのもそうだが呪いの一族に神が更に目をかけたがそれが全ての方向でマイナス方向に全力疾走してるお前だもんなぁ・・・』
「全て逆なら世界に名を轟かせる天性の麒麟児で英雄だったのにどうして・・・って言われたもん俺・・・後最近来た手紙にいよいよ本家から絶縁状らしきモンと勝手に調べられてた種馬としての才能も最低超えて究極の下げチ〇野郎になれるって書いてあったわ」
『そこまで言われると相棒の子供が気になるなぁ・・・どんな子になるんだろ?』
「多分生まれた瞬間病院に忌子判定されるか周囲に呪いぶちまけて即死ぬかじゃね?」
『種馬として相棒を利用して相棒の逆を生まれさせればそれだけで勝ちだったのにと考えたのは分からんでもないが駄目だったとはなぁ・・・わざわざ相棒の血を利用しているのを見逃してやってたのにそうか・・・相棒は結局女と結ばれる事すら出来んとは、これは一生童貞が確定したか・・・」
「ふざけんなぁ!一生童貞で!生まれてきた時から呪われてて実家からの手紙に種馬としてすら働けない下げ〇ン呼ばわりされて黙ってられるか!」
『お?お!それじゃ、相棒ついに!?』
「俺は!ダンジョンで成り上がって!!歩いてても後ろ指を指されず虐めも受けない彼女持ちの冒険者になるんだぁぁぁ!!」
『・・・成り上がってそこ、かぁ・・・』
なんてそんな事を校舎の裏側のゴミ捨て場前で一人誓い、呆れたような、それでいて微笑ましいものを見守る様なそんな声音で。
胸元の蒼いネックレスが喉を震わせるようにクツクツと笑っていた。