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その話、本当ですか??   作者: ホワイトデビル
10/10

続き8

ヒデミさん「アデルさんそろそろ二人に声かけましょうか。」

アデル「そう・・ですね。」


そう言って二人が彼らの方を振り向くと、お兄さんとルークはまだ殴ったり蹴ったりのじゃれ合いをしていた。


アデル「お二人さーん、私たち先に行きますね!」


アデルが大きめの声で言うと、二人の兄弟げんかがピタッと止まった。


ルーク「待って、待って!俺も行く。お姉さんたち約束したじゃん!」

お兄さん「おい、ルーク急いで準備するぞ。」


ルークはお兄さんが自分に対して嫌なことをしてきたことをまだ根に持っていた。


ルーク「はあ?兄貴は先に家に帰れよ。俺は家業なんか継がないぜ!」

お兄さん「何だと?くそルーク、カチンとくる言い方ばかりしやがって!」


アデルはルークが自分の妹とあまり変わらんな、と思いながらお兄さんに助け舟を出した。


アデル「ほらほら、もう兄弟げんかも飽きたでしょ。一緒に行くなら早く準備して。」


二人は散らかした半乾きの服を拾ってまた着た。


アデル「終わった?行きますよ~。」


アデルとヒデミさんは先に歩き始めた。後ろからルークとお兄さんが慌てて走って追いかけてきた。温泉から進むこと30分くらいのところでまた森の中に入った。その道中、アデルは先頭を歩きながら心の底で反省していた。本当は一人旅のはずが自分自身の優柔不断さのせいでみんなの申し出を断り切れずに、いつの間にか人数が4人に増えてしまったことを。でも、なんかみんな楽しそうにしているからそれもまた良しなのかな、とも思った。だがしかしこの状況、どこぞの学校の自然科学部のフィールドワーク合宿みたいだ…。私は引率の先生か?と思ったその時、アデルの足にムニっとした何かを踏んだ感触があった。


アデル「あれ?何か踏んだ?」


次の瞬間、地面から何かとても大きなものがゆっくりと隆起した。細長い体にたくさんの足が上から下へ流れるように動く、よくみるとそれは体調10メートル越えのムカデだった。


ルーク「うわ、きっも!なにこれムカデ?」


いち早くルークが察知した。


ヒデミさん「ルークほら、敵よ!早く倒して。行け!」


と、ヒデミさんがルークに嗾けたが、


ルーク「ええっ?無理!俺虫苦手。兄貴!頼む!」


と、ルークはお兄さんに振った。


お兄さん「何だよ、しょうがねえな。ルーク、お前いい加減虫くらい触れるようになれよ。」


と、お兄さんが超面倒臭そうに言った。その時アデルが口を挟んだ。


アデル「ごめん、ちょっと待って。大毒ムカデは確かレッドデータブックの・・・カテゴリーEXだ!!退治とか絶対ダメ!」

お兄さん「なんで?レッドデータブックって何?こいつ襲ってこないのか?」


お兄さんが怪訝そうな顔でアデルを見た。


アデル「レッドデータブックっていうのは平たく言えば生き物と環境を守るために必要な本で、大毒ムカデは肉食ではないけど身を守るためには襲・・みんな除けて!!」


いきなり大毒ムカデがこちらを振り返り、口を大きく開いてアデルを目掛けて襲ってきた。


ヒデミさん「アデルさんっ!!」

お兄さん「クッソ!!」


お兄さんは素早くアデルをお嫁さん抱っこすると斜め上にジャンプして大毒ムカデの攻撃をかわした。

アデルは父親以外の男性に生まれて初めてお嫁さん抱っこをされてしまった。しかも反射的にお兄さんの胸にしがみついてしまった!それと今はそんなことを考えているような状況ではないにも関わらず、アデルの心の口が勝手に動く。『す、すごい!!なんてカッチカチに硬い筋肉なの?すごく、硬いわ。。若い男の人ってみんなこんな感じなの?こんなにカッチカチなの??やだ、あたしなに考えてるの?少しスケベ?じゃない?こらアデル!これ以上の変な妄想はよしなさい!いや、でも・・ちょっと待てよ、、ん?なんか・・ゆで卵のにおいがする?』と、心の声がひっちゃかめっちゃかになった。


お兄さん「アデルお姉さん大丈夫?」

アデル「え?」


アデルが我に返った。


お兄さん「アデルお姉さん、もう下ろしてもいい?」


アデルはお兄さんにしがみついたままお兄さんの大胸筋を、しがみついていないほうの手で撫でていた。アデルの全身が熱く真っ赤になった。


アデル「ひええ、ああ、うん。ごめんね、ありがとう。」

お兄さん「どうやらアデルお姉さんは俺たちのツアーになくてはならない人みたいだから、怪我なんかしないでよ。ところであのムカデ、どうしたらいい?」

アデル「はい?ああ、ムカデ。えっと、皮膚で触れてはいけない生き物なので、絶対触らないでください。」

お兄さん「なにそれ。」


うわーーバカバカ!私のバカ!触ってたのは私だ!って、違う、ムカデの話だ!

アデルの心はまだ騒がしかった。


アデル「大毒ムカデは体が大きいから気が付きにくいのだけれども、しっぽ以外の全身に縫い針くらいの大きさの鋭い棘があります。この棘が注射の針のようになっていて少し触っただけでも致死量の毒を注入されてしまう、なので絶対その体に触れてはならない。」


アデルは何とか冷静に説明せねばと頑張った。


お兄さん「じゃあ、触らないでなんとかするには?。」

アデル「昔は大人数で縄で縛りつけて捕獲してたそうだけど、それは無理よね。」

お兄さん「縄か。縄あるの?」

アデル「50メートルくらいのがあるけど。」

お兄さん「ならそれで動きを止めよう。」


アデルは背負っていたリュックの中からロープを取り出しお兄さんに渡した。

アデル「これ。」

お兄さん「こいつか。」


そう言うとお兄さんは見事なジャンプ力と動きで大毒ムカデを縛り上げた。縛られた大毒ムカデはそのまま地面へと倒れた。そこへ突然、野獣豚が大毒ムカデの前に立ちはだかった。

野獣豚「グフッ!グォッ!」

野獣豚は鳴いた。


ルーク「おーい!豚さん、危ないからこっちへ来なさい!」


ルークの呼ぶ声に気が付いた野獣豚がしっぽを振りながらルークのもとへやってきた。


野獣豚「グフッ!グォッ!グォ!」


野獣豚がルークに何か訴える。


ルーク「どうした?腹が減っているのか?」


野獣豚「グフッ!グォッ!グォ!」


アデルはその様子を見ていてピンときた。


アデル「ルーク!その豚さん、もしかして大毒ムカデを助けてほしいのかも」

ルーク「アデルお姉さんも豚さんの言葉が分かるのか?」

アデル「わかんないけど、ルーク、豚さんにお願いしてくれる?縄をほどくから道を開けてほしいって大毒ムカデと交渉してもらえるように!」


野獣豚の耳が動いた。アデルの言葉を理解したのだ。野獣豚は向きを変えムカデに近づいた。そしてムカデの顔の近くで鼻をひくひくと動かした。ムカデが反応して口をカチカチ動かした。そして野獣豚はアデルを見た。アデルは察した。野獣豚が交渉に成功したのだと。


アデル「お兄さん、せっかく縛ってもらったのにごめん、紐を緩めてもらえますか?」

お兄さん「え、緩めて大丈夫?」

アデル「大丈夫です。」

お兄さん「わかった。」


お兄さんは紐を緩めた。

緩めるとムカデが足を頭の方から尾の方へ流れるように動かし始めた。そしてするりとロープから出て森の奥へと静かに消えていった。


ここで、野獣豚との会話の内容を再現しよう。


野獣豚「ムカデよ、このようなところで何をしておる?危ないぞ。」


ムカデ「森の賢者様、お助けください。この先に子供がいるんです。」


野獣豚「安心しなさい。こちらの方々は森の王の御一行である。今、縄をほどいてくださるから家に帰るとよい。」


大毒ムカデ「ありがとうございます。」


と、言うことで


ルーク「すごっ!豚さんヤバい!」


大毒ムカデが去ったところでアデルとお兄さんはヒデミさんとルーク、そして野獣豚のいるところに駆け寄った。


お兄さん「アデルお姉さん、これはどういうこと?」

アデル「野獣豚には様々な生き物の言葉を理解しコミュニケーションをとることができる能力があるの。今回はその豚さんが私たちのネゴシエーターと言ったら大袈裟かもしれないけれど、そんな感じで動いてくれたのだと思う。」


そう説明するとアデルはロープを回収しにいった。ロープには大毒ムカデのとげが刺さっていた。アデルは直売所で購入した皮の手袋をつけて、棘を全部抜いた。


お兄さん「これが毒針か。本当に縫い針と同じ大きさくらいだな。」

アデル「そう。で、この針の中に毒液が入っている。この毒液は飲用すると色々な病気を治すのに有効な成分を持っていて万能治療薬になるの。昔はこの薬を得るためにたくさんの大毒ムカデが人の手によって捕獲され、殺された。そのため絶滅したと言われている。」


お兄さんとルークとヒデミさん「へー。そうなんだ。」


三人はよくわからないまま何となくうなずいた。


アデル「人が簡単に来れるようなところではないからこそ、あの大毒ムカデも安心して暮らせていたんでしょうけど、今日は私のせいでひどい目にあわせてしまった。私があの時足元をよく見て歩いていれば、しっぽを踏んで驚かせることはなかったはず。みんなにも迷惑をかけてごめんなさい。」

ヒデミさん「そんな、アデルさんのせいじゃないですよ。たまたまそうなってしまっただけですもの。」

ルーク「そういえば、俺が半殺しにしたにゃんこはそういう大切な生き物なの?」

アデル「虎のこと?多分緊急性は低いけど重要保護にはなっていると思う。」

ルーク「マジか。」


少しルークは考えた。そして、


ルーク「アデルお姉さんその万能薬、にゃんこにも効くかな?」

アデル「多分効くんじゃないかな。」


ルークの目が輝いた。


ルーク「俺それにゃんこに飲ませてくる。だから、先に行っててもいいけど、この間みたいにすぐ追いつけるようにゆっくり歩いてね、絶対約束だよ!」


その時お兄さんの表情が険しくなった。


お兄さん「おい!ルークお前、絶対の約束するなって言っただろ!」


ルークの雰囲気が変わった。


ルーク「なんで?」

お兄さん「なんでってそれはお前が一番よくわかってるだろ。」

ルーク「俺はお姉さんたちと一緒に行きたいだけだし!なんで約束しちゃいけないんだよ!」

お兄さん「だからって、お姉さんたちが万が一約束を守れなかったら半殺しにするのか?」


半殺し?なになに?どういうこと?アデルとヒデミさんは思った。


ルーク「俺は女の人には絶対暴力を振るったりしない。」

お兄さん「絶対の約束したな。わかった。行って来いよ。」


ルークはアデルに野獣豚の子を預けた。そしてアデルから棘を一本もらうと野獣豚の背に乗ってもと来た道を引き返していった。


アデル「ルーク、棘をそのまま水入れの中に入れて、毒の量を薄めてから飲ませてね!」


ルークが左手でOKサインを出した。


ヒデミさん「ところでお兄さん、絶対の約束とか、半殺しとか何のお話ですか?」

お兄さん「ああ、それか。ルークの奴、過去に絶対のつく約束をして何かひどいことがあったのかな。トラウマになってしまったみたいで、以来絶対の約束をしてそれを守れなかったやつに対してスイッチが入るようになった。でも殺してはいけないという思いも強くて結果、半殺しになる。それもルークの場合は普通の半殺しじゃなくて、全身の骨を細かくて深い罅だらけにしてしまうから痛くて動けないどころか治療も難しくて、やられた奴は死ぬまでずっと痛みに苛まれる。」

アデル「・・・・。」

お兄さん「でも女の人には絶対にしないと、自分に絶対の約束したからお姉さんたちは約束しても大丈夫じゃないかな。」


アデルは人生において、簡単に約束などはしないほうが良いということを改めて実感した。


ヒデミさん「あら?」


ヒデミさんが何かに気が付いた。


ヒデミさん「アデルさんあそこ・・・」


アデルはヒデミさんが指したほうを見た。アデルたちのいるところから500メートル先が上り坂になっていて急な曲がり角があった。おそらく6番目の曲がり角である。


アデル「6番目の曲がり角ですね、先に進みましょうか。」


お兄さん、ヒデミさん、野獣豚の子供とアデルは先に進むことにした。

六番目の曲がり角に着いた。その先は少しづつ上り坂で横が崖になっており、道幅も少し狭くなっていた。500メートルくらい先には高さ3メートルくらいの水量の少ない滝があった。

アデルたちはそこまで進むと水を汲んだ。

滝を過ぎるとその先は下り坂になっており、道の脇を滝の水が下へ向かって流れていた。しばらく歩くと景色はまた湿原に変わった。滝からの水はそこで途切れた。森もそこでおわった。湿原に急な坂道はなく、緩やかに少しづつ上り坂になっていた。遠くには湯気の上がっているところがある。

アデルたちはそこから2キロメートルほど進んだところで温泉を見つけ野営をすることにした。そこもまたシルト岩のような岩で覆われたところだった。

そのころ、野獣豚の背に乗ったルークは虎たちのところについていた。

虎は目を見開いた状態で牙を剝いていた。ルークは野獣豚から降りると、さっそく水筒の中に大毒ムカデのとげを入れた。ルークが降りると野獣豚は虎に近づき


野獣豚「ゴォッ、ゴオッ!」


と言った。一方、ルークは蓋をきつくしめると、水筒をシェイクした。


野獣豚「フゴォッ、ゴォッ、ゴォッ、グォ、ゴォッ・・・」


直訳するとこうである。


野獣豚「よく聞け愚かな森の番人たちよ。お前たちは森の王の形をした悪魔と間違えて森の王を襲った。そして今、その罰を受けているのだ。なぜ王の御一行と気が付かなかった!」


虎は見開いた目と少しの呼吸で野獣豚に伝えた。


虎「今年は花粉がメガ多くて、全員花粉症になった。そのため匂いを嗅ぎ分けられず。」

野獣豚「なんということだ!だが、これより森の王はお前たちのその罪を深い慈愛の心で許し、癒すであろう。感謝して受けるがよい、森の王の聖杯を!!」


ルーク「よーしよーし!にゃんこたち~これを飲めよ~。」

ルークは三頭の虎に、水筒の水で割った大毒ムカデの毒を一頭ずつ口の中に垂らすように飲ませた。


虎たちにはルークの姿も野獣豚の姿もはっきり映っていた。

偉大なる森の王とそのみ使いである森の賢者の姿が。

飲んだ後、虎たちの体は痛みから解放された。そして虎たちは静かに目を閉じた。


ルーク「あれ!にゃんこ?」


虎たちは大きな寝息を立てていた。


虎たち「グーゥウウ・・スピ~」

ルーク「何だ、寝てるのか。焦った~。」


野獣豚がしっぽを振りながら鼻でルークをつんつん突ついた。

ルークは野獣豚を見るとニタっと笑って言った。


ルーク「帰るか。相棒。」


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