ルーレット6
上空から燃える街並みを見下ろす。
俺が探しているのはこの災害の元凶らしき悪魔という存在だ。
先ほどからかなり粘っているのだが、焼けた家屋や人間の死体ばかりが目に付き、それらしき者の姿はうかがえない。もしかするとあの少女が言っていた悪魔とかいうのは嘘なのではないだろうか。そんなことを思い始めた時だった。
「ん? あれは……」
宙を飛んでいる俺と同じ高さの位置に、何か黒い影が浮かんでいるのが見えた。
最初は黒い炭が浮かんでいるのかもしれないと半信半疑だったが、それに近づいて行くにつれてやがて明瞭になっていく。
それは禍々しいねじ曲がった二本角を持った男だった。
暗黒のローブに身を纏っており、悠然とした態度で街を見下ろしている。
やがてそいつは俺に気付いたのか、顔をこちらへと向けてきた。
端正な顔立ちをしていたが、その顔がわずかに驚きに歪んだかと思えば、次の瞬間声高らかに話しかけてきた。
「おやおや、これはこれは。まさか人間などという矮小な存在が空の領域に足を掛けるとは、なんという暴挙。これは驚いた」
ソイツは不敵な笑みを浮かべ、ねっとりとした、されど妙に明瞭なハキハキとした口調で語りかけてきた。
うさんくさいと思いながらも、俺はどこか確信めいた調子で尋ねることにする。
「悪いんだけど、もしかしてこれをやったのってアンタだったりする?」
「おお、なんという礼を廃した言葉遣い! 人間という種族の愚かさを見事に体現している! 素晴らしい、素晴らしい作品だよ。君は。ま、それをいうのであれば、今こうして面と向かっている状況こそが、世で一番の愚行と呼べるかもしれないがね、くっくっく……」
何がおかしいのか男はくつくつと笑っていた。
結局返事は返して貰えなかった。
「よく分かんないけど、もう一度聞くぞ? この災害を引き起こした首謀者は、あなたですか?」
「ふん、まぁ低俗かつ羽虫にも及ばぬ器量を冠する人間という種の問いに答えるというのは些か業腹ではあるが? ここは寛容な魔族のまとめ役として事務的に答えるというのであれば、あるいは許されるかもしれない。で、その問いに答えるとするならば、答えは"肯定"、と返すのが妥当――……!? なに、おま、ぐっ。どわあああああああ!」
俺はベクトル操作を発動して悪魔を地面へとたたき落とした。
まずは魔族に向かって急接近し、能力の発動圏内に入る、かつ相手が慌てて移動した際に発生するベクトルを利用し、その勢いをそのまま真下へと切り替えたのだ。
かなりの勢いで地面に落下した悪魔は、そのまま地面に縫い付けられた。
頑張ってもがこうとしているが、ベクトルを地面方向へ固定しているため、びくとも動いていない。
「き、きさまあああああ! 何をしたああああああ!?」
「いや、話が長いし何ってるか分かんないしな。このまま待ってても埒が明かないと思ってさっさと作業に取りかかることにした。話の長い奴は嫌われるから注意した方がいいよ? あんた絶対モテないだろ」
「ざ、戯れ言をおおお! 早く我を解放しろ! このような事を働いてただ事で済ませる道理はもはや皆無――ぐえ! ぐわ! ぐはっ!」
俺は魔法の箒で男を殴りまくった。
地面に縫い付けたのはいいが、倒す手段が思いつかなかったのでとりあえず浮かんだ策を講じてみることにしたのだ。
ただ思ったよりも効果はあったらしく、箒で殴られるたび悪魔はくぐもった声を上げていた。
この魔法の箒、能力が便利なだけでなく素の攻撃力もそれなりに高いようだ。スイングした感じがとても軽いし、その割にはインパクトの瞬間ずっしりと相手を捉えた感触が返ってきて気持ちいい。
「き、きさガッ! このようガハッ! うッ――」
やはり攻撃はしっかり効いているようだったので、そのまま農作業にいそしむような気分で殴り続けた。途中から疲れてきたので、殴る作業を箒に任せ、俺は無事だったイスと異世界語で書かれた雑誌を見つけてきて、ゆっくりくつろぎながらその様子を眺めていた。
雑誌はよく分からない料理のレシピが書かれていたものだったが、異世界語は転生得点が働いているらしく問題なく読めるし、異世界の料理ということで意外と興味深く楽しめた。
そして十五分ほど経った頃だろうか、悪魔のうめき声が聞こえてこなくなった。
さらにそこから十分ほど経ったところで、一旦箒に殴る手を止めさせ、様子を見てみた。
悪魔は結構おつらい見た目になっていた。
人間とは違った青い血が全身からにじみ出ているし、すぐしたの地面が青い池で満たされている。
顔なんかは原型をとどめていないくらいぐちょぐちょで、服は当然のようにぼろぼろ。所々から見えた灰色の肌からは、白い骨のようなものが突き出ていたりしもした。
うん、これはちょっとやりすぎたかな。
全く身動きをとれないところを長時間殴りまくって撲殺とか、ちょっと冗談じゃすまないレベルの拷問だが、まぁコイツがこの街にした事を考えればこのぐらいの報いを受けて当然というものか。目には目を、歯には歯を。自分がしたことは、自分の身できっちりと償って貰わないとな。ま、これで多少はコイツのせいで死んでしまったこの街の住民たちの鬱憤も晴れただろう。みんなーとりあえず敵はとったぞー。
そうして俺は割とあっさり悪魔らしき生物を倒してしまった。




