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ルーレット18

「くそが! マジでいたいんだが!? どうしてくれんだよ!」

「は? 今のはお前が勝手にやったんだろ」

「うるさーい! もう俺は怒ったぞ! もうれつに怒ったぞ! 俺の必殺技をお見舞いしてやる! くらえ! 超スーパードラゴニックミラクルローリング食パンパンチ!」


 俺はひそかに隠し持っていた必殺技を発動した。

 これは俺が十年に及ぶ厳しい修行の末に生み出した必殺奥義。とある食パン型のアニメキャラクターを頭の中で連想しながら攻撃を繰り出すという、実に複雑な動きを要求される高等技術だ。ちょっと人類にはまだ早すぎるかもしれないが、俺レベルともなればいとも簡単に繰り出すことができる。


「おらあああ!」


 俺はそのアニメキャラの動きを思い浮かべながら殴りかかった。

 そういえばアイツどんな攻撃使ってたっけな? と思わず忘れてしまいながらも、そんなの関係なしに攻撃を繰り出す!


「おっと」


 しかし悪魔はその攻撃を楽々よけた。

 俺は勢い余って地面にずっこけてしまう。


「ぐは! やっちまった! 食パン男のイメージをうまく保つことができなかった……っ! くそ! 俺もまだまだ修行不足というわけか……」

「おいおい、いきなり殴りかかってくるこたぁねえだろ。俺はお前に危害を加えるつもりはないって」


 悪魔は手をあげながら俺を諭してくる。


「うそだ! 悪い奴は全員そうやって相手を油断させておいて後から喰らうのが常套手段だろ!」

「そんなこたねぇって。いいか? 俺はただお前に分離してもらいだけなんだ?」

「分離……だと?」


 分離がなんだというのだろう。意味がわからない。


「これはあくまで俺の予測なんだが、お前、なんか能力みてえなの使えるだろ?」

「ど、どうしてそれを!? しかも悪魔だけにあくまでとか全然面白くないな! 腹立つな!」

「いや、そういうわけじゃないんだがとりあえず落ち着けよ? お前のその能力っつうのが――」

「いやだいやだ! 俺は絶対に大人しくなんかならないぞ! お前なんかに好きにさせてたまるものか!」

「ちょっ、とりあえず話を聞くだけでも――」

「どりゃあああああ!」


 俺は再び悪魔に殴りかかった。


「だから! やめろって!」


 俺は何度も何度も悪魔に殴りかかる。

 しかしそのことごとくをよけられ、そのたびに俺は地面に転がってしまった。

 それを幾度となく繰り返しているうちに俺は疲れてきてしまった。


「はぁ、おい、いい加減やめろって、さっきから」


 そしてそれは悪魔も同様だった。

 スピードとしては悪魔の方が俺よりも圧倒的に上なのだが、その体というのは病弱な女性のものだ。流石に体力に限界はあるということなのだろう。


 ――そ、そうだ! 閃いたぞ!


 俺はそこでとんでもない作戦を思い浮かべてしまった。

 俺は今までただ闇雲に相手に飛びかかり、そのたびに地面に激突するという方法で攻撃していた。

 だがそれではあまりに非効率だ。

 どうせ攻撃が当たらないのであれば、最小の動きで相手を追い詰めていけばいい。

 相手は俺の攻撃を軽くかわしているだけであの体力の減り具合なのだ。じっくり粘って追いかけ回せば、今まで以上に相手にとっては堪えるに違いない。


 名付けて、体力消耗作戦である。


「ふあああああ! さささ!」


 俺は相手を捕まえることは諦め、追いかけ回すことに決めた。

 庭を、俺と悪魔とが駆け回る。


「お、おい、はぁ、いったん、いったん止まれ……」


 案の定、悪魔の方はばてている。

 ふふっ、なんか面白くなってきたな。

 俺も疲れているが、それ以上に相手が弱り果てていく様を見ているのはなんとも清々しい気分だ。

 いいぞ、このまま弱っていって、いつか心が折れて諦める瞬間が楽しみで楽しみで仕方が無い。

 そのときコイツは一体どんな顔をしているのだろう。

 やばい! 本当に興奮してきた!

 まさかすぐにくたばってくれるなよ?

 粘って粘って俺を最大限じらしてくれ! そしてよりいっそう絶望に染まった顔を俺に見せてくれ!


「くそが! もうやめろって……言ってんだろ!」


 だがそこで予想外の事態が起こった。

 なんと前を走っていた悪魔が、急にこちらを振り向いたかと思うと、俺に対して殴りかかってきたのだ。

 は!? どういうことだ!? 俺に対してはないもしないんじゃなかったのか!? 危害を加えないって言ってたのに、やっぱり嘘つきじゃんか!


 だが冷静な部分でそれも当然なのかと思う。

 おそらく相手も体力が切れる寸前で、あと少しもすれば俺に捕まっていた。

 だが相手は俺など相手にならないほどの瞬発力を備えている。

 そうとなれば、手段の一つとして俺を戦闘不能にしてから状況を整えなおしてくる可能性は十分にあり得ることだろう。


「くっそ! ひきょうも――」


 そして、相手の手のひらが俺の首筋をかすめようとした瞬間――俺の景色が移り変わった。


「うわーん! うそーん! またかよーん!」


 俺は悲しんだ。

 くっそ、案の定転移してしまったか! くそ! 最悪だ! 折角なんか起こりそうだったのに! でもまぁ助かったといえば助かったからいいのか? あれ? ていうかここどこだ?

 俺は気付けば、だだっぴろい草原に突っ立っていた。

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