ルーレット17
目の悪い女が何やら言ってきている。
はぁ、もうめんどいな、普通に殺しちゃお。
「ごめん、ちょっと目が悪いとか気持ち悪から普通に殺すわ。あっ、なんかその目の中がどうなってるか気になるから見てみてもいい? ぐちょぐちょになってたりしてな、わはは」
「えっと、何を仰っているのでしょうか……?」
ざっ!!
俺はその辺に落ちていた手頃な石を手に取り、女へと投げつけた。
そのまま素手で殴っても良いのだが、近距離すぎると相手の様子がよくわからずにもったいない。
ここは遠距離から攻撃してみて、苦しむ相手の様子を俯瞰的にじっくり観察させてもらうとしよう。
そして俺が投げた石は、そのまま女へと吸い込まれていった。
当然だ、目が見えないのだから、よけるどころか察知の仕様がない。
決まった。
俺はそう確信した。だが、
――がきん!
なんと石が女の直前ではじかれた。
「なんだと!」
俺は驚いた、そのまま石で女をやっつけれるかと思ったからだ。
なのになんで!? 一体何がおきた!?
「ふん、残念だったな」
どこからか、意地悪そうな男の声が聞こえてきた。
少しだみ声で、甲高い声だが、それは間違いなく男のものだろう。
「ど、どこだ!? どこにいやがる! でてこい! 卑怯者!」
「おいおい、どこを探してるんだ? さっきからずっといるだろ、目の前にな」
俺はまさかと思い、女の方を見た。
すると女の瞳が黒と赤に染まっており、何やら様子がおかしいことに気付く。
「え? おんながちょっとおかしい?」
「へへ、そうだぜ、俺は悪魔さ」
「あ、悪魔だと? その女の正体がお前だっていうのか!?」
「いやー、それはちっと違うかな。俺はこいつに飼われているのさ」
飼われている?
何を言ってるんだ? まるで意味が分からないぞ。
乗っているとかいうのならまだ分かるが、飼われているとなると、まるでその女が意図的に悪魔を取り込んでいるといった風に聞こえてしまうんだが。
「お前がそいつを乗っ取ってるんじゃないのか?」
「いやいや、俺は仕方なしにコイツに寄生してるんだ。そうでもしとかねぇと死んじまうからな。こいつの養分を吸収して、俺が生きる上の糧にしているのさ」
「はぁ? まじかよ」
「だからこそ、飼われているのさ。俺はこいつの元から離れることができない。そうした瞬間ちりぢりになってこの世に存在できなくなるからな。俺は一生コイツという檻に閉じ込められているのさ」
「ふーん」
よく分からんが、どうやらこいつは自由に動けない状態になるらしい。
てか養分を女から吸収しているっていったか?
あれなんじゃないか、もしかするとこの女の目が悪くなったとは、この悪魔のせいだったりするんじゃ……十分あり得ることだな。まぁ俺には全く関係ないことだが。
「だからこそよぉ、俺の依り代に手を出されちゃこまるんだよな」
「いや、そんなの知ったこっちゃないし、俺の行動を邪魔するなよ」
「おいおい、これは親切で言ってやってんだぜ? 悪魔と人間には比肩し得ない絶対的な格の違いがあるんだ。仮にマイクロレベルで本来の力が半減している俺からしても、お前がどのタイミングで攻撃してくるか、そもそもお前のわずかな動作から思考回路を推測し、お前が近い未来どんな行動をしそうか予測することも簡単さ。そう、お前がいずれ俺、もとい依り代であるこの女に危害を加えようとしているということもな」
「な、なんだと!」
俺は驚いた。すごい、そんなことができるなんて! 半端ない! 俺もその力が欲しい!
「ふざけるな! すごすぎるだろ!」
「うーん、なんかお前ちょっとずれてるよな。いきなり突拍子もない言動をとる節があるというか……まぁいい、ともかく、そんな俺からしてみれば、お前が戦闘態勢に入る前のわずかな隙をついて殺すことなどいとも簡単だったし、なんならこのタイマンの状態で、脆弱なこの女の体を使って戦闘したとしても今のお前なら殺せる自信があるぜ。もちろん、今のお前の戦闘力を見抜いた上での宣言だがな。お前全然つよくねぇだろ?」
「そ、そんなもん教えるものか!」
俺は精一杯虚勢を張った。
なんだ、なんか凄そうなムーブをしてきている。これはもうダメなんじゃないか?
いや、諦めるな、俺。ここは全力でごまかすんだ。
「すみません調子に乗っておりました!」
俺は全力で土下座をした。
困った時の対処法はこれしかない。
これが一番きく対処法なのだ。
だから俺はこれを迷わず選択した。
「だからそういうところが訳分かんねぇんだって……はぁ、とにかく俺はお前を殺すつもりはない。むしろ逆にお前に頼みたいことがあるんだ」
「へ? 頼みたいこと?」
なんだ、何を言ってるんだ?
頼みたいこと? 俺を殺してくるんじゃないのか?
俺は夢かと思い、地面に思いっきり額を打ち付けてみた。
しかし頭の中で火花が散り、あとからもの凄い頭痛が襲ってきた。
うん、ここまでくればわかる。これはどうやら夢じゃなく現実のようだな。
「い、いってえよー!」
俺は頭を抑えてうずくまった。
く、くっそ、ちょっと強く頭を打ちすぎたな。これじゃ立ち上がることもままならないぞ。しかもたんこぶもできちゃってるし、ファッションが台無しすぎる。
くっそー! こいつやりやがって! こいつがいなきゃ俺は何にもしてなくてこんな痛い思いなんてせずに済んだのに! マジかよ最悪なやつだな! 俺はもう絶対にお前をゆるさない!




