ルーレット14
演説で訳分からないことを喋っている。
なんて言ってんのかよく分からないが、とにかく熱狂的なファンが大勢いるらしい。
ドーナツがどうのこうのとかマジで何いってんの、きちがいか、ちょっと怖いな話しかけるのやめとくかな。
「おーい! おれをみろー!」
俺は全力で声を張り上げた。
周囲の人がおれを見てきた。
当然だろう、声を張り上げている人をみないなんてことがあるわけがない。
あーやべーなー。ちょう恥ずかしいじゃん。
どうして俺こんなことしたんだろう。穴があったら入りたいな。
「どうしたんだあいつ?」
「あたまがイかれちまったか?」
「放っておこうぜ、アンジャン様のお言葉を聞く方が何よりも先決だ」
だがどうやら周囲の人が俺をスルーしてくれるらしかった。
ふぅ、助かったぜ、やっぱり変なことはするものじゃないな。俺一回思ったらついついやりたくなっちゃうんだよな。
「おーい! そこのあんたー!」
しかし大声で俺は指さされた。
再び注目の的になってしまったようだ。
演壇の上にたつ、一人の可愛い少女のせいで。
「私が折角話してんのにー邪魔しないでよー!」
そしてそんなことを言ってきた。
いや、本当に悪いと思ってるよ。めちゃくちゃ謝りたい気分だよ。本当にごめんなさい。
「うるせえ! 俺が何しようが勝手だろ!」
だが俺はそこであえてイキってみせた。
ちょっと訳の分からない行動をしたくなることってよくあるじゃん。今まさにそれが発動してしまっている。
「はい? あのね! 今ここに集まってくれてる子達は、私の話に集中して耳をかたむけてるの。だから、本当に死んで欲しいの」
周囲からもそうだそうだ死ね、だったり、お前が悪い、なんて口の利き方をしてるんだ、などとヤジが飛んでいた。
ひっきりなしにうるさいな。なんでこんなに非難されなくちゃならないんだ。俺はあれなんだぞ、ダメっていわれるとなおさらやってしまいたくなるタイプなんだぞ。
あー、なんかイライラしてきた。適当にその辺の奴の首をくびりしめたい気分だわ。どうしようかな、でも本当にしたくなってきちゃった。
俺は少し迷った。
そして後ろにいた若い女性が目に入った。
仕方ない、ストレス発散と思ってこの人を絞め殺してやろうかな――
――どがああああん!!
そんな中、次の瞬間、地面が大きくゆれた。
「な、なんだ!?」
「何が起こってるんだ!」
「これはもしかして地震?」
「な、なんだよ地震って?」
「あれ、この世界にはなかったっけ。あ、いや、今のなし。まぁ俺が元々いた故郷の災害みたいなもんかな。地面がめちゃくちゃ揺れて建物とかが壊れて大変なんだ」
「へー、え、じゃあこれって結構やばいんじゃ?」
近くからそんな男たちの会話も聞こえてくる。
何か引っかかるような内容のことを話していた気もするが、今はそんなことはどうでもいい。
どうしてこんなに揺れたのかということが問題だ。
「おい! あれを見ろ!」
誰かが叫んだ。
俺もつられてそちらの方向を見てみる。
そこには十メートル級はありそうな、超巨大ティラノサウルスが街の上から顔を出していた。
背中にはピンクの羽が生えており、地球ではみたことのないような形状の生物だ。いや、まぁ見たことないと言えばティラノサウルスとかも見たことないんだけどさ。なんていうかまるで知識にない姿をしているという意味だ。
「うえーん、お母さんこわいよう!」
幼い子もあまりの事態に泣き出してしまっている。
と思ったが、泣き出していたのは五〇歳くらいのがちのおっさんだった。
幼児の服を着ており、おしゃぶりを口にくわえている。
うっわ、きっも。今年で一番きもいものを見たかもしれない。さいあくだ、もう忘れよう。
「み、みんな、逃げてえええ!」
全員が混乱する中、アイドルっぽい少女が大声で叫んだ。
その言葉が引き金となり、群衆は弾けるようにして逃げ惑いだした。
へー、意外と冷静な部分があるんだなあの子。正直偏差値三十くらいのただのバカかと思ってたわ。まぁ実際あんなへんてこな歌うたうぐらいから相当なバカなんだろうけどさ。
いや、バカとかいうのはよくないか、悪い言い過ぎた。
「おい! お前も逃げろ! ドーナツバカ女」
「なにその呼び方は! 殺すぞ!」
おっと少女ばかりにかまけている場合でもない。
俺は俺で逃げ出さないと――
そう思っていた時だった。
ドシン!
再び地面がめちゃくちゃ揺れた。
見てみると、広間に先ほどの恐竜が降りてきていた。
い、一体どこから!? そ、そうかあの羽で空を移動することができるのか。つまり最初の地震のように感じられたのはアイツが空中から地上に着地した時に発生した地響きの影響だったということか。確かにあのレベルの地響きを立てられるほど羽による跳躍力があるのなら、この程度の距離は一瞬にして詰められるのは妥当というほかなかった。
がおおおおおお!
恐竜は早速人々を踏みにじり、食し、蹂躙しまくっている。
本当に最悪なやつだな。もう手におえないな。どうしようかな、もう死のうかな。




