ルーレット1
俺が目を覚ますと、目の前に金髪の美人がいた。
「おはようございます、寺原陽さま。ここは天国です」
そしてぺこりとお辞儀をして挨拶をしてくる。
えっと、なんだこの状況は。天国って言った?
「もしかして……これは夢?」
「いえ、紛れもない現実です。これよりあなたには異世界に転生して貰います」
異世界転生。
聞いたことはある。
地球とは異なるファンタジーの世界に転生し、そこで新たな生活を営んでいくという話だ。
しかしそれはあくまで物語上の話。
それがまさか現実に降りかかるなんて……とても信じられない。
「……その、どうして僕が転生なんですか?」
「それは『天界神さまの導き』によるものです。私レベルの神では見ることすら叶わない超常の存在が、あなたをお選びになったのです」
「どうして僕が選ばれたんでしょう……?」
「それは私にも分かりません。恐らく相応の理由があるためと思われますが……」
すると突如プルルルと電話音が辺りに鳴り響いた。
「あら?」と言って女神さまが懐からスマートフォンを取り出す。
「はい、もしもし……はっ! はい、はい……畏まりました」
そしてそのスマートフォンを俺に差し出してきた。
「て、天界神さまからです」
「え? 僕にですか?」
恐らく電話が繋がっているのだろう。代われということらしい。
にしても天国なのに電話回線で連絡を取り合ってるのか? 意外と原始的なんだな。
というか女神さま「て、天界神さまが……」と興奮してちょっと頬が赤くなってるし。威厳のあるキャラかと思ったら意外と女の子っぽいところもあるんだな。神様ってなんなんだろう。
「はい、お電話代わりました」
うかうかもしていられないので、スマホを耳に当て言葉を投げかける。
『おお! おはよう陽くん! 体調の方はいかがかな?』
するとスピーカーから声が聞こえてきた。
声質的におじいちゃんっぽいかな。
「ご心配ありがとうございます。体調は大丈夫です」
『そうかそうか、で、察しておるかと思うが儂が天界神、この天国の全てを気まぐれに統べる存在じゃ。してな、今下級女神に話を聞いたと思うがお主には異世界に転生して貰おうかとおもうておる』
「はい、確かに聞きました。その、どうして僕なんかが……」
『それはじゃな、とある世界の邪気を浄化して貰いたいからなのじゃ』
「邪気を……?」
『うむ、その世界は邪王を筆頭に邪の存在が著しく侵食しつつあっての。ある程度の天敵は文化の繁栄を促すとはいえ流石にこのままでは人間が滅びかねん。そこでお主に邪を浄化して貰い、その世界の人間を危機から救って貰いたいのじゃ』
「なるほど……でも僕などに一体何ができるというのでしょう?」
『ふむ、そうじゃな、これは前置きの話にはなるが、実は人間ごとに『天性』と呼ばれる能力が生まれつき決まっておってな。この天性により、それぞれの世界でどのようなポテンシャルを発揮できるかというのが決まってくるのじゃ。例えば地球でいえばお主は少しばかり絵の才能があるだけの、そのほかは凡庸なポテンシャルだったかと思うが、それが今回の世界となると運命力を操作できる絶大な能力を手に入れることができるというわけじゃ』
「……えっと、つまり僕が転生する世界は、僕と非常に相性がいいということですか?」
『まさにその通り。じゃから他の人間では今回の転生ミッションは勤まらん。確かに他にも数名転生候補がいたにはいたが、今回儂はお主を選ばせて貰った。能力の差異でいけばその数名とほとんど横並びじゃが、性格的な面でお主に軍配があがると思ったからの』
「なる、ほど……」
よく分からない話になってきたな……異世界の邪を浄化するとかなんとか、ただの地球人であるところの俺には荷が重すぎる。
『ま、そう気負わんでもよい。お主が異世界でミッションを達成するか、あるいは目的果たせず死亡してしまった場合、再び地球に戻れるようにしておくからの。お主が世界から消えた瞬間の時間に、ここでのやりとりや異世界での記憶はそのままに転送しておいてやろう』
「なるほど、ありがとうございます。それは助かります」
『で、お主の能力じゃがな、何か違和感はないか?』
「……え?」
『実はすでにお主は能力を使用できる状態になっておるのじゃが、ちょっと探ってみてはくれんかのう?』
能力……だって? 俺の体に?
そう言われても、俺の体を見下ろしてみても特に代わった部分などはない。
どうしたものかと悩んでいると……ふと、体の内部に取っかかりのようなものを覚えた。
それは肉体的というよりは精神的な部分にある感覚というか……なんとも言い表しづらい感覚だ。
だがこのトリガーを発動させれば何かが起こるという確信が俺にはあった。
そこでおそるおそる俺はその違和感に力を込めて――
――ボン!
突如として、目の前に煙をあげながら何かが出現する。
それは……人程度の大きさの、円形の巨大ルーレットだった。
『どうやら発動したようじゃの。それがお主の能力。その力で異世界を悪から救って貰いたい』
神様の声が、耳によく響いた。




