7.少し森の奥にも行ってみようか
誰が言い出したのか三次帝。次世代を担うであろう三人の王子。その一角に田舎の、それも小国マリネラの第一王子セシルが挙げられている。そして三次帝の中でも、筆頭と呼ばれているのが帝国の第一王子カインである。マリネラとは違い、最大規模の国に次代を代表する王子がいるという事実。これに他国は驚愕し、最大級の警戒をしている。その存在こそカインである。そんなカインには1つの欠点がある。類まれなき好奇心と比するものがいない行動力これが重なりあってしまう時に彼は、普通では考えられないとんでもない行動をとってしまうのだ。
変わらない毎日を送っていた。この村に来て、サラは日課のお祈りを行い、修道女として様々な人の話を聞きながら時には人を励まし、また時には慰めたりしている。そんなことを繰り返した結果、村内でのサラの人気はうなぎのぼりに上がっていき、サラとの対話が村人の癒しになっていた。毎日、色々な人とお話ができて楽しいなどとサラは言っているが、さすがに忙しすぎる現状を鑑み、神父はサラに休養するように命じた。休養も仕事、しっかりと休まなくてはとメルに伝え、いつものようになんとしっかりしたサラ様と感動しきりのメルを尻目に、サラは出かけることにした。
「いつもと違うことをするようにって、神父様に言われたけどいったい何をすればいいのかしら?」
悩むサラ。村の方に行こうとしてはっと立ち止まり方向転換。そしてまた歩き出す。森林浴でもしてみようかなとつぶやき、森の方向へ向かう。普段、メルに森には熊がでるそうなのであまり近づいてはいけませんよと言われているため、まだ足を踏み入れたことのない森への足取りは軽かった。
「あまり奥に行かなかったら熊もでないはず」
そう自分に言い聞かせるように独り言。メルの言いつけを破ることに少し罪悪があるのだろうか、自分に言い訳するような一言であった。
天気が良く風が木々を揺らす。森と言ってもうっそうと生い茂る森ではなく適度に歩けるように整備もされており、森林浴には持って来いであった。そんな森を歩いていると、サラは馬に出くわした。くつわの付いた馬がむしゃむしゃと草を食べている。
「なぜ、こんなところに馬が?」
当然の疑問だった。シワキの村には観光客など全く来ない。それもそうだ、見るべきものが特にないのだ。なので、基本的に街道以外に人がいることはない。そんな村の森になぜかいる馬。しかも、よくよく見ると馬は体格がよく毛並みも良い、どこか気品すら感じさせる佇まいだった。
「持ち主の方は近くにいそうにありませんね」
サラが言うとおり、近くに人の気配はなかった。
「あの、持ち主の方はどこに?」
急に馬に話しかけるサラ。馬はサラの方を見つめる。当然、返答はない。
「やっぱり馬に聞いても答えは返ってきませんよね」
少し苦笑いしながらつぶやく。すると馬は急に駆け出して行った。驚くサラ。呆然と馬が見えなくなるまで立ち尽くした。
「なんだったんだろう」