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6.「肉じゃがですね」

「メル、おかえりなさい。目当てのものは買えた?」

 サラの声が、いつもより少し高い。ずっと心待ちにしていたのだろう。心なしかそわそわしていた。

「無事に買えましたよ」

 そう伝えるとサラの顔が一気に笑顔になり、メルに駆け寄った。

「じゃあさっそく、お料理してみましょう!」

 メルの手をとり、台所にぐいぐいと引っ張っていく。その手のぬくもりから、メルはなお一層、サラを愛おしく思った。

「もうサラ様、そんなに急がなくても」

「だって楽しみじゃない。初めて料理をするのよ。食材が食べ物に変わるなんてまるで魔法みたいといつも思っていたの!それなら、私もやってみたいじゃない」

 独特の表現だが確かに、食材が食べ物に変わるのが料理の醍醐味だなとメルは思う。今日はそれをサラとともにやるのだ。いつにも増して気合いを入れ料理に挑むことにした。



 人参、玉ねぎ、ジャガイモ。まずこれらを洗うところから料理が始まる。井戸から汲んできた水を桶に移し、丁寧に洗う。あまりゴシゴシ洗いすぎるとよくないがゴミが残ると全てが台無しだ。ここは慎重にとメルは先輩メイドに教えられたことをそのままサラに伝えた。サラも真剣に頷き、ジャガイモを洗う。地味な作業であるが意外に疲れる。その間にメルは手際よく玉ねぎの皮を剥ぎ、人参を洗い、包丁を使って皮をむいた。

「メルは凄いわね。私がジャガイモを洗っている間にもうそんなに出来てるなんて!」

「そんなことないですよ。ジャガイモを洗うのが一番面倒ですからね」

 ジャガイモが洗い終えたらいよいよ、包丁の出番だ。さすがにジャガイモの皮むきは初心者には難しいということでメルはサラに人参を乱切りするようにお願いした。

「乱切りとはどのように切るのですか?」

 当然の質問だった。なんといっても初めての料理なのだ。

「そうですね。人参を回しながら斜めに切ってください。大きさは一口サイズです」

 試しにメルが少しお手本を見せる。うーん、難しそうですねと言いながらサラは恐る恐る人参を切っていく。ガタンと少し重い音がしながら人参が切れる。左手で人参を回しまた切る。メルのように手際よくとはいかないが真剣な表情で人参を少しずつ乱切りしていった。その間にメルは慣れた手つきでジャガイモの皮を向いていった。玉ねぎのくし切りはどうしようかと少し考え、サラをみたがその表情から、新しいことをたくさんお願いするよりここは乱切りだけをお願いした方がいいなと判断し、自分でやることにした。

「なんとか人参を切り終えましたわ」

「ありがとうございます。それでは私が玉ねぎを切っている間に、ジャガイモの乱切りをお願いしてよろしいですか?」

「ジャガイモも回しがながら切るのですか?なんだか上手く切れそうにありませんが」

「いえ、ジャガイモは縦にまず切って、そのあと、角度を変えながら切ってください」

 このような感じにと手本を見せる。サラはうんうん、と頷きながら聞いていた。やってみますと言うサラをメルは見守る。先ほど、人参を切ってコツを掴んだからなのだろうか、比較的、手際よくジャガイモを縦に切り、斜めに包丁を入れながら器用にジャガイモを切っていく。相変わらず顔は真剣そのものであった。サラのどのようなことにも一生懸命取り組む姿勢にメルは密かに感動していた。と言ってもメルは一日に何度もサラについて感動しているのだが。ただ、料理は時間との勝負でもある。感動しながらもメルは着々と準備をすすめる。

「切れましたわ。包丁も少しは慣れてきた気がします」

 メルは綺麗に切れたジャガイモを受け取った。これで下準備は万全である。

「いよいよ、火を使いますよ。ここからはサラ様が主体でやって頂きます」

「うーん、ちゃんとできるかしら。不安だわ」

 珍しく、サラの表情が少し曇る。

「大丈夫ですよ。お城でのお勉強の方がはるかに難しいですから」

 メルは準備していた強めの火に、少し底が深いフライパンをセットした。

「では、サラ様、まずはこの油を入れてください」

 サラはメルが準備した小皿に入った油をフライパンに入れた。メルの指示でフライパンを回しながら油を全体に馴染ませる。さすがサラ様、ばっちりですなどと褒めながら、サラに次々と指示を飛ばす。サラは緊張しながらもメルに言われたとおり、肉と野菜を炒めていった。

「そろそろですね。そちらのコップに入れてある煮汁をいれてください」

 言われたとおりにフライパンに煮汁を入れる。

「この煮汁はなんですの?」

「これは、水に醤油や砂糖などの調味料を混ぜたものですね。これが沸騰したら、灰汁を取り除き、押し蓋をして煮詰めていけば完成です」

「まだまだ大変そうですね」

 そのとおり、ここからが大変であった。ポツポツと煮立ってくるといつの間にか、灰汁が出ており、メルの指示のもと、サラは必死に灰汁をとっていった。灰汁を取り終えたら小さな蓋を被せて、具材が煮崩れしないように煮込む。しばらくすると具材を混ぜながら再度また煮込む。煮ている間に、メルとともに包丁やまな板などを洗い、食器の準備。サラは大変そうであったが、メルの指示をやりきり無事に完成した。

「やっとできましたわ。今まで食べるだけでしたけど料理ができるまでにこれほどの苦労があったのですね」

「慣れたらそれほど大変ではないですよ。それに今日はサラ様がお手伝いしてくださったので、楽をさせて頂きました」

 メルはそっと米をよそった。

「あれ?いつのまにお米が?」

「サラ様がお料理をしてくださっている合間をみて無事に炊けましたよ。なんでもマルスが作った、洗わなくても食べられるお米ですよ。先ほど味見をしましたが確かに洗わなくても美味しく炊けていますよ」

 あら、ほんとですか?それは楽しみとサラは笑う。自然とメルも笑顔になった。

 その後は、二人で作ったご飯を食べ、やはり自分で作ると美味しいですねとほほ笑むサラの魅力にまたもやメルは心を奪われながら楽しいひと時を送った。そして、お米はしっかりと美味しかった。

「そういればメル、このお料理はなんというお名前ですか?」

「あぁ、それはですね―――」

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