5.王族が料理をしていいのかと考えたが、天使なのでいいと思った
料理というものをしてみたい。急にサラにそう言われメルは困惑した。王女が料理。そんなこと聞いたこともない。そもそも、料理をしてよい存在なのだろうか。王女に料理させて、なおかつそれを一緒に食べるなど不敬ではないのかなどと一瞬、考え込んだがサラのお願いにメルは即座に一緒にやりましょうと答えてしまった。
一口に料理といっても多種多彩なものがある。お城の料理は基本的に料理人がするが、サラに対しては、時々メイドであるメルが作ることもあった。そのため、メルも料理についてはそこそこ、自信があるものの人と一緒に作った経験はない。ましてやその相手が料理を作ったことがないサラとなると、いったい何を作ったらいいのか。とりあえず台所に向かう。
「食材はなにがあったかなぁ」
などと独り言を呟きながら食材を探す。先日マルスにもらった人参、玉ねぎ、ジャガイモが目に付く。なんとなく決まるも肝心なものがない。やはりあれがないと始まらない。というわけでサラを残し一人で買い物に出かけることになった。
シワキの村は農耕と牧畜が盛んな村である。それゆえ、食料については、ほぼ村内で完結する。それがある種、外の村との防波堤になっているのか外の村との交流はあまりないのだが今のメルにとっては好都合であった。そう、だいたいの物がこの村だけで完結するのだ。当然、今求めている食材についても同じである。
シワキの中心地にたどり着いたメルはさっそく、肉屋に向かう。
「メルちゃん、いらっしゃい」
店主の女性が出てくる。シワキにきてからよく来る店だけあって既にメルとは顔なじみである。
「ルーさん、こんにちは」
今日は何を探してるんだい?と気さくに声をかけてくるルーに対して、メルは今晩の料理について伝えた。するとふむふむと言いながらルーは奥に行き、しばらくすると戻ってきた。
「それならこれでいいじゃないかい?」
持ってきた物を見せられてまさにそのとおりと思い、さすがルーと感心した。
「ありがとう、これにするわ」
「いつもありがとうね」
これは良いものが手に入ったと大満足だった。生肉だから早く調理してあげないと。これからの調理工程に思いをはせながら急いで帰宅の途につく。
「おや、サラちゃんじゃないか。今日は1人かい?」
「あら、マルスさん。こんにちは」
帰り道にマルスと出会った。なんとも米について研究しているそうで試しに新しい米を食べて欲しいそうだ。
「嫁に米を研ぐのがめんどくさいと言われてな、研がなくても食べられる米を作ってるんだ。とりあえず、家で実験を繰り返して、十分食べられると思うんだがどうしても自分以外の意見も聞きたくて色んな人に食べてくれるようにお願いしてるんだ。なぁ頼む」
そうマルスにお願いされるが、研がずに食べられる白米とは……?メルの頭に?が浮かぶも、ほかならぬマルスの頼みであるし、無料で貰えるのだ。いくらサラ様が王族とはいえ、メイドたるもの少しでも節約もしなければならない。少し懐疑的だが貰うことにした。マルスのことだ、きっと大丈夫。
「すまないな。食べたらまた感想聞かせてくれ!」
「いえいえ、ありがとうございます」
お礼を言うとマルスは次の人にも配らないと、と言いながら去っていった。メルも早く帰って晩御飯の支度をしなければと慌てて帰宅する。