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四十六話 天使様と二人で勉強会

「それで?」


放課後、二階の視聴覚室に足を踏み入れた直後、汐音が口を開いた。

テストの点が悪かった理由を聞いているのだろうとさすがの悠希でも察した。


「あー、テストの前日に夜遅くまで本を読んでてな、頭が回らなかった」


汐音の整った美貌が目に飛び込んできて悠希は軽く目を逸らしながら、頭をかいた。

実際、テストの点が悪い理由は眠すぎて頭が回らなかっただけだ。

軽く小テストを見返して分かったが、頭がしっかり回っていれば軽く8割は解けたと思う。


「そんなことだろうと思ったわ」


全く矢城君はとでも言いたげな生温かい視線にいたたまれなくなる。

面倒事を押し付けられたというのに、汐音はどことなく嬉しそうだ。


「柏木は嬉しそうだな」

「別に嬉しくはないのだけど」


そうは言いつつも、汐音は嬉しそうな表情を浮かべている。


「とりあえず、いつも通り数学からでいいかしら?」

「怒らないんだな」

「矢城君が勉強頑張っているのは分かってるから」


自分より努力している汐音に頑張りが認められたのが気恥ずかしくて、悠希は汐音に反撃することにした。


「俺も柏木が頑張っているの、ちゃんと、分かってるぞ」


悠希の反撃に今度は汐音が顔を赤らめて視線を逸らした。

他人に頑張りを褒められるのが気恥ずかしいというのが、汐音にも分かってもらえたのだろう。


「コホン、とにかく、数学から勉強しましょう」


汐音が気恥ずかしさを紛らわすように一度、咳ばらいをした後、悠希と汐音、二人だけの勉強会は始まった。


「柏木、この問題この解き方であってるか?」

「ええ、あってるわ」


勉強会は問題なく進んでいた。

悠希が分からない問題があれば、汐音に質問し、間違っていれば汐音が解法を教える。

その繰り返し。

汐音に普段から教えてもらっていることもあって、悠希も苦手な数学や英語の問題を少しづつだが、解けるようになってきた。


「この調子なら、来週のテストはどうにかなりそうだな」

「本当かしら?」


悠希の言葉に訝しげに汐音が目を細めた。

小テストの点数が悪かったので軽く疑っているのだろう。


「まあな、小テストは解きなおしたら8割はとれたしな、この調子でいけば7割はかたい」

「だといいのだけど」

「柏木は目標点とかあるのか?」

「目標点は特にないわ、学年一位は当然目指しているけれど」

「ふーん、柏木は勉強に対するモチベーションとかあるのか? ちゃんと毎日、勉強頑張ってるし」

「前までは学費のためだったけど、今はもう一つあるわ」

「ちなみにそれは?」

「それは……秘密よ」


そう言って汐音がふいっ、と顔を逸らした。

これ以上は答える気はないわ、ということだろう。

悠希としても無理に聞き出すつもりはないので、問い詰めることはしない。


「矢城君は何かモチベーションはあるの?」

「俺か? 俺は特にないな、ご褒美とかあればもう少しやる気も出るんだが」

「……それなら、矢城君が良い点数を取れたら、私からご褒美を上げようかしら」

「いや、それは柏木に悪いしな」


普段から汐音にはお世話になっているので、これ以上何かしてもらうのは気が引ける。

そう思って汐音からの提案を断ろうとした悠希だったが、少し残念そうに汐音が眉根を下げたのが見えて、すぐに訂正を入れた。


「いや、やっぱり柏木からのご褒美欲しいかも」

「本当かしら!」


汐音が嬉しそうに目を輝かせたのが分かった。

それに心なしか声も弾んでいる気がする。


「貰えるものは貰っとくのが俺の主義だからな、ご褒美ってどんなのなんだ?」

「……今は秘密よ、ご褒美が分かったら面白くないでしょう」


そういうものだろうか?

ご褒美が分かっていても良い気がしたが、汐音は教えてくれそうになさそうなので、とりあえず、納得することにする。

どちらにしろ、汐音から何かご褒美が貰えるのは嬉しい。

汐音の事だから変なものではないだろうし、楽しみが増えたのは事実だ。


「ご褒美が貰える基準は?」

「私が教えている教科で8割はどうかしら?」

「意外と高くないか」

「既に7割はとれる自信があるみたいだし、これくらいがちょうどいいでしょう」


7割は得点できると自信ありげに言ったのが裏目に出てしまったらしい。

海皇高校のテストは進学校だけあって結構、難しい。

7割ほどは教科書の基本的な問題が出題されるが、残りの3割は大学の過去問や先生が独自に作ったオリジナル問題が出題される。

この3割の問題が生徒を苦しめるのが毎年の恒例らしい。


「まあ、せっかく柏木に教えてもらっているし、8割を目指して頑張ってはみるが、結果にはそこまで期待するなよ」


汐音に勉強を教えてもらっているとはいえ本番で力を発揮できるかはまた別なので一応、悠希は釘をさしておいた。

読んでくださり本当にありがとうございます!


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