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三十一話 天使様に頼られたい

「つらい時はちゃんと泣いとけ、もし誰かに頼りたくなったら俺を頼れ……その、俺も柏木にはお世話になってるし、そんくらいさせてくれ」


あくまで素っ気なくただ、ほんのり優しさを含んだ悠希の言葉に汐音が肩を軽く震わせた。

人の優しさに触れるのが怖い、そんな感情が表に現れた仕草。


「頼ってもいいのかしら?」

「ああ」

「私、大して取柄もないつまらない女よ、一緒にいても楽しくなんかないわ」

「柏木にはいいところがいっぱいある、それに一緒にいると落ち着く、少なくとも俺は」


まさか自分を肯定されるとは思っていなかったのか汐音が呆けたような表情を浮かべた。

汐音の自己評価が低い理由は分からない。

努力家で真面目で勉強ができて料理が絶品、それに不意に見せる笑顔がとんでもない破壊力を持っていて魅力的。

他にも汐音の良いところはいっぱいあるが、これが悠希の率直な汐音への評価だった。


「でも……」


自信なさげに唇を結んで再び顔を伏せようとする汐音を見たくなくて、握っていた手を離した手で汐音の顎を上げる。


「少なくとも俺はお前のことを好ましく思っている」


涙で濡らしてもなお、美しい汐音の美貌を直視できなくなりそうになりながらも、目をじっと見つめて言葉を紡ぐ。

ここで目を逸らしたら、汐音に自分の言葉が嘘だと思われる、そう思ったから。


自分が誰からも必要とされていない、そう思い込んでいる汐音に少なくとも俺だけはお前のことを大切に思っている。

それを伝えたくて、悠希は無言で汐音の髪を優しく撫で続けた。


しばらくして、これまで抑え込んでいた感情がブワッと溢れ出したように汐音の顔がくしゃりと歪んだ。

続いて、涙が次々に流れ落ちる。

蛇口が栓を失ったように涙は溢れ出し顎に手を置いた悠希の手を伝い、落ちる。


汐音が顔を下に向ける。

ただ、それは自分自身を悲観したというよりも、泣き顔を悠希に見られたくないそんな思いが感じられて、悠希は顎に置いた手を離した。

肩を震わせて泣き続ける汐音を子供をあやすように撫でる事、数分。


汐音はようやく顔を上げた。

つきものが落ちたような、胸のつっかえが取れたようなどこかすがすがしい表情。

目じりには涙がまだ、かすかに残っていて、天井から降り注ぐ照明の光を受けてキラリと虹を残す。


「あの、もう大丈夫よ」


少し潤んだ声ではあったものの、泣いたことで少しは過去に向き合えたのだろう。

少し心が落ち着いてきたことで頭を撫でられていることを意識し始めたのか、悠希の目の前で汐音がくすぐったそうに身をよじる。


悠希としても汐音を泣き止ませるという目的を達成したので手を離してもよかったのだが、汐音の艶の有る髪をなでる心地よさに無意識の内に2,3分ほど汐音の髪を撫でてようやく手を離した。


「落ち着いたか?」

「ええ、矢城君のおかげで」


汐音の返答を聞いて、汐音が泣いている間に小テーブルから取っておいたハンカチで汐音の涙を拭ってやる。

少し悠希からされる行為を恥ずかしく思っていたようだが、汐音は特に抵抗しなかった。


「私、ずっとここにいてもいいのかしら」


不意に不安そうな声が漏れて、悠希は汐音をじっと見つめた。


「急に何だよ」

「私なんかをこんなに思ってくれる人がいるなんて幸せだなと思って……こんなに幸せでいいのかしら」

「いいに決まってる」


少なくとも汐音には幸せになってほしい。

両親とどうやって別れることになったのかは分からないが、二人も大切な人を失ったということは何か不幸な出来事があったのだろう。

その中でもめげることなく汐音は必死に生きてきた。

悠希だけは汐音の事情を知ったし、日々、頑張っている姿も見てきた。


付き合い事態は長くないが、汐音にはいつもお世話になっているし、何より汐音が疲れた時には癒してあげたい。

そう思うくらいには悠希は汐音のことを気に入っているつもりだ。


不安げに瞳を揺らす汐音を安心させるために軽く髪をなでると、汐音がくすぐったそうに瞳をへにゃりと曲げた。

普段、凛とした汐音が自分だけに見せる表情に少しドキドキしたものの、弱っている汐音にそういう眼を向けるのはだめだろうと自分を律してしばらく無心で悠希は汐音を撫で続けた。


「矢城君、ありがとう」


そう言って汐音が笑みを浮かべる。

気を許したような柔らかい笑みは魅力的で悠希は思わず、呆けたように固まった。


汐音の笑顔はずるい。

反則だ。

あれだけ信頼を含んだ笑みを向けられて、ドキドキしない男なんかいないだろう。

そう思うくらいには汐音の笑顔は強烈だった。


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