二十七話 美月の詮索
「雪平さん、しおねっちと天使様は辞めてほしいのだけど」
「もう、しおねっち私のことは美月でいいって」
話を全く聞く気がない様子の美月に汐音は諦めたように息を吐いた。
美月の隣で少し申し訳なさそうな諒真の顔が視界に映った。
「しおねっちは気になる人とかいないの」
「気になる人……特にいないわ」
一瞬、汐音がこちらを見た気がしたが、気のせいだろう。
そもそも、学校の天使様とクラスで日陰者の自分とではつり合わない、悠希はそう思った。
「そっか~、彼氏は良いよ、つらい時には支えてくれるし、甘やかしてほしい時には甘やかしてもらえるし、たまに喧嘩はしちゃうけど」
「私はまだいいわ、やりたいこともあるし」
汐音の言うやりたいこととは恐らく受験合格の事だろう。
その目標のために毎日、勉強に励んでいるようだし。
「残念、しおねっちに悠希を紹介しようと思ったのに」
やはりあわよくば悠希と汐音をくっつけようという魂胆だったらしい。
完全に余計なお世話なので、出来ればやめてほしいのだが。
「矢城君を?」
「悠希は懐に入れた人には優しいから、それに顔もまあまあかっこいいよ、髪型を整えればだけど」
まあまあは余計だが、かっこいいのだろうか?
美月と諒真からは髪型を整えればとは何度か言われたが、親しい友へのお世辞かと思っていたのだが。
「確かに悠希は懐に入れた人には優しいな懐に入れてくれるまでが大変だったけど、最初の頃なんか名前もなかなか憶えてくれなかったし」
諒真が持ち上げているのか貶しているのかよく分からないことを言う。
急に話題が自分に向いて気恥ずかしくなった悠希は視線をハンバーガーの方に向けることにした。
ハンバーガーを食べつつ、話題が変わるのを待っていると汐音の手が伸びてきて悠希の口元をテーブルナプキンで拭った。
「矢城君、タレ口元についてるわ」
「ああ、すまん」と口に出してから、悠希は正面から二人の視線が突き刺さっていることに遅まきながらに気づいた。
「なんか二人いい感じだね」
美月がニンマリと笑顔を浮かべたのを見て、悠希は背筋に寒気が走るのを感じた。
美月はこういう時、無駄に感が良い。
もしかしたら、汐音との関係に何かしら気づかれたかもしれない。
また、美月が何か仕掛けてくるかもと思ったが、汐音が用事があると言ってその場を去ってくれたことで事なきを得たが。
「それで悠希どういうことなの」
「……何がだ?」
もう一度悠希の自宅で勉強会をするための帰り道。
汐音との関係を追及されずホッと安堵の息を吐いた絶妙のタイミングで美月が話しかけてきた。
十中八九、汐音との事だろう。
分かっていたが、あえて悠希はとぼけた。
「そりゃあ、しおねっちの事だよ、なんか親しそうだったじゃん」
美月が諒真に同意を求めるように後ろを振り返る。
「確かに、柏木さんと悠希の間に長年付き添ったみたいな感覚があったな」
汐音が悠希の口元を拭ったあの動作を見ただけで諒真にはそう映ったらしい。
十分、関係を悟られないように警戒していたつもりだったが、ぼろを出してしまった。
汐音の普段の家での態度につられてしまった。
「それでいつ悠希はしおねっちと仲良くなったの?」
「俺も気になる」
汐音が一緒にいた時には初対面の汐音に遠慮してあまり口数の多くなかった諒真まで詰め寄ってきて、悠希は顔をしかめた。
「別に今日が初対面だ」
「え~それにしては、距離が近かったけど」
「確かに悠希初対面の人とはもっと距離開けるよな、俺の時もちょっと距離あったし」
そんなに距離が近かっただろうか。
よく分からない。
距離感など無意識のものだし。
確かに汐音と共同生活を送る中で最初の頃より距離は縮まったような気はするが。
「別に、普通だろ」
「ふ~ん、じゃあさっきの奴は」
さっきのとは、汐音が悠希の口を拭ったことだろう。
さて、なんて言い訳するか。
「さあ、柏木さんの方からしてきたから俺にはよく分からん」
「その割には悠希も普通に受け入れてたよな」
いらないことを言う諒真を睨みつけると降参するように手を挙げて口をつぐんだ。
やはり二人の相手は分が悪いと悠希は判断して、そっぽを向いて無言を貫くことにした。
「何か怪しいよね」
「ああ、なんか怪しい」
後ろで小さく話す声が聞こえたが、悠希は当然、無視した。
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