私に未来があるのなら
(僕)
何気ない顔で家を出る。母からの声を聞きながら一歩一歩と通学路を進んでいく。僕は、行く当てがない。学校へ向かうのが怖い。俗に言う不登校。普段の道にも飽きてきた事もあり、一本先の道を歩いてみた。そこには、見慣れない公園があった。景色を変えるのは良いことだとなにかの本で読んだ様な、読んでない様な何とも言えない感覚だった。
(なんだ、いい休みスポットあるじゃん。)
独り言を呟いて公園に入ると、子供達の輪の中で浮き出る一人の女の子が目の前にいた。僕と同じ不登校生ならいいのに…。と心の声を表に出さない様、何食わぬ顔でベンチに腰掛けた。腰掛けてすぐに自分の世界へ、入り込む為カバンに入れてあった小説を手に取った。すると、女の子が振り向いた。目線の先には僕。なぜかわからないが、目が合ってしまった。これは、何かのイタズラだろうか?
僕とあの子が同じ不登校生だなんて、少しでも思ってしまったからだろうか?
でも待てよ、今日が初めての公園…ってことは…いやいや無理があるだろ。と人目を気にせず自問自答の中、独り言の様に呟いていた。
(ねえ…もう独り言終わった?)
僕は、ハッとして、恐る恐る顔を上げると、目の前にその子は立っていた。同じ不登校生なら良かった…なんて思った事を、すぐに恥じるほどきれいな瞳をしていた。
(あの…座りたいんだけど。)
すぐに荷物をどかす僕を見て、彼女は不思議そうにクスクス笑った。僕の顔にも不思議と笑みが浮かんだ。こんな事なら、毎日一人でいるんじゃなかった。とすぐに悔やんだ。
(そういえば…同じ学校?)
よく見ると、制服が同じ事に気が付いた。彼女も話に乗ってきた事が凄く嬉しく感じた。
些細な事だが幸せにも感じてしまった。
(明日もここにいるの?)
彼女の問いかけにはすぐに答えられた。明日の同じ時間に公園で待ち合わせの約束をした。
何だか、帰り道が明るく感じた。一人じゃないって心地いいものだと改めて感じた。帰宅すると真っ先に自分の部屋へと向かった。僕にとって初めてに近い友達だと思えた。
だが、フッと思い返すと不安な気持ちが膨れ上がるのを感じた。一度会って、次の日の約束をしたから“友達”そんなことに浮かれている自分に少し悲しさを覚えた。
(まだ一度しか会ってないもんな…)
感情の起伏を久しぶり感じた僕は、彼女のことが凄く気になっていた。正直、明日は来てくれるのか。それすら、不安になったが、話の中で出た、彼女の気になるものが僕には得意分野だった。それがキッカケになったのか、疲れ果てて、早めに眠りについていた。気が付くと朝の4時を迎えていた。慌てて朝からシャワーを浴びて、いつにも増して準備に気を付けていた。音を聞いて不安になった母が部屋をノックする。
(体調は大丈夫?)
母の心配を切り抜け、いかにも健康を醸し出して家を出る。勿論、家族は知っている。僕が学校に行っていないこと。それすら、許容してくれている家族には頭が上がらないのは事実だった。特に、母は“いじめ”を打ち明けてからは家族が許容するように動いてくれた。だからこそ、余計な心配をかけたくないが故に、なるべく会話をしなくなった。
そんな気持ちの中通学路を進み、昨日と同じ道をたどり着いた。目の前には約束をした公園が見えた…。目の前には、既に彼女がベンチに腰掛けていた。僕は、涙目の瞼を少し拭い、最高の笑みを浮かべて、彼女のもとへ駆け寄り、声をかける一歩を踏み出した。
(おはよう!)