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都会の雪うさぎ

 ぼくの住む町は、都会と呼ばれている所で、めったに雪が降る事はありません。

 雪が積もる事もまずありません。

 だから、数年ぶりの大雪がこの町に降り積もった時、ぼくは少しうれしい気持ちになりました。


 学校から帰ってきたとき、部屋の中にあるテレビのニュースでは、数年ぶりの大雪について報じられていました。

 雪は夕方にかけて勢いを増すようで、車や電車にも影響(えいきょう)が出るだろうと言っていました。

 お母さんは家にいるから平気だけれど、お父さんは会社に行っているから、帰りが少し心配でした。

 ただ、お父さんはこの町よりもずっと雪が多く降る所の生まれだというので、多分平気だろうと思いました。


 ランドセルを置いて外に出ると、ぼくはさっそく雪うさぎを作り始めました。

 雪が積もっていると言っても、雪だるまやかまくらが作れるほどではありません。

 それでも、雪うさぎの形にするだけの雪はありました。

 駐車場(ちゅうしゃじょう)の角に雪を集めて、うさぎの形を作ります。

 学校でもらってきた南天の実と葉っぱをつけて、完成です。

 

 出来上がった雪うさぎは、お母さんがスマホで写真を()ってくれました。

 これだけ冷えているから、何日かはこのまま残るかもしれないとも言ってくれました。

 お父さんにも見せてあげたいと言うと、お母さんもそうねと答えてくれました。


 ぼくにとって、雪や雪国はちょっとした(あこが)れでした。

 お父さんの実家に連れて行ってもらったことはあまりなく、しかも雪があまり降っていない時が多かったので、雪だるまやかまくらを作ったことはありませんでした。

 もし自分が雪の降る所に生まれていたら、毎日雪遊びをしていたのかな、とも考えました。


 お父さんの帰りは、だいぶ(おそ)くなりました。

 雪のせいで、電車が動かなくなったそうです。

 ぼくは、食事を終えたお父さんと二人きりになったときに、雪の話をしました。

 お父さんは大変だったねと伝えてから、それでも自分は雪が降って楽しかったと言いました。

 そして、もし自分が雪の降る所に生まれていたら、毎日楽しかっただろうなとも話しました。


 お父さんは、それに対してこう答えました。

 雪国や、雪国の連中は、お前が思っているようなものじゃない。

 今回だって、都会の人間はちょっと雪が降ったくらいであわてふためいてなんて言って笑っているような連中だぞ。

 雪が降れば雪かきだって大変だし、お前が思っているような楽しい事ばかりじゃないんだぞ。

 そう言って一息つくと、さらに続けました。


 父さんはな、お前のためにもこの町で暮らす事の方が良いと思っている。

 都会の方が雪も降らないし、学校も多いし、何よりも便利だし、ここでしっかり勉強すれば立派な大人になれるんだぞ。

 まともな人間なら、あんな冬じゅう雪かきばっかりしているような所に住み続けようなんて思わない。

 だからもう、そんな事を言うもんじゃないぞ。


 ぼくは、お父さんの話をだまって聞いていました。

 お父さんは、自分の生まれた所の事がきらいなのでしょうか。

 それとも、ぼくが雪が降る事は楽しい事だという風に言ったのが良くなかったのでしょうか。

 お父さんに何と言えばいいのか分からずにとまどっていると、お母さんがスマホを持って部屋に入ってきました。


 お母さんは、ぼくが作った雪うさぎの写真をお父さんに見せていました。

 それを見たお父さんは、なぜか気まずそうな顔をしていました。

 お母さんからもう()なさいと言われたので、ぼくは言われた通りにしました。

 雪遊びで(つか)れていたのか、その日はとてもよく(ねむ)れました。


 次の日の朝、駐車場(ちゅうしゃじょう)の雪うさぎを見て、ぼくはとてもおどろきました。

 雪うさぎは、だれかに()みつけられたようで、あちこちに足あとがついていました。

 よく見ると、大人の足あとのようです。

 だれがこんなひどいことをしたんだろうと思いましたが、その時は学校に行かなければいけなかったので、帰ってからお母さんに話してみる事にしました。


 しかし、家に帰ってきたぼくは、お母さんになかなか話せずにいました。

 もしかすると、雪うさぎを()みつぶしたのは、お父さんだったのではないかと思ったからです。

 ぼくが作った雪うさぎを見て腹を立てたのでしょうか。

 のんきに雪遊びなんかして、と思われてしまったのかもしれません。


 しばらくだまっていると、お母さんが、雪うさぎの事は残念だったわねと言ってくれました。

 お母さんはとっくに気づいていたようです。

 ぼくは、お母さんに、自分は悪い事をしたのかなと聞きました。

 お母さんは、そんな事は無いと答えてくれました。

 だれがやったかわからないし、ひどいことをする人もいるけど、気にしたらダメだと言われました。


 雪はあっという間にとけてなくなりました。

 ぼくは、結局お父さんに雪うさぎの話を出来ないままでした。

 それを話すと、何か(おそ)ろしい事が起こるような気がしてしまったからです。

 あの雪うさぎが、もしもこの都会ではなく、雪国とかに生まれていたら、もっと長生きできたのではと思う事もありました。

 いや、雪国でなくても、この町の(ちが)う家に生まれていても、こんな目にあわずに済んだかもしれません。


 もしかしたら、この冬の間にまた雪が積もる事があるかもしれません。

 もちろん、雪が積もる事は良い事ばかりではないし、都会で雪が積もると多くの人が困ってしまうでしょう。

 それでも、次に雪が積もった時にも、雪うさぎを作ってみようとぼくは考えました。

 その時までには、雪がきらいなお父さんと、ちゃんと話が出来るようにしておかなくてはと思いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんでそんなことするのw 雪国出の陰湿さやべえええww……と言うか、まさかの展開と言うか。 それでも、タイトル回収で思いやりの気持ちを忘れない主人公には救われますね。 [一言] 春ですね…
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