4.「ともだち」
『友達になろうか』
その言葉が、今も脳裏に焼き付いて離れない。笑顔でそう言って手を差し出す、蒼い髪の青年のことも。
寝室で、ベッドに寝転がりながら色んなことを考える。久しくこんな寝つきの悪い夜はなかった。
「友達、か……」
それが、いわゆる人と人の付き合いを表すものの一つであることは理解していた。
一緒に遊びに出かけたり、勉強したり、他愛もないことを話して笑う。時には喧嘩もする。
自分の中での「友達」のイメージは、そんなところだった。
だいたいあっているのだろうが、それらすべてがクレアにとっては未経験のもの。
一緒に遊びに――どこへ?
勉強したり――何を?
他愛もない話って、どんな?
ましてや、喧嘩すら経験したことがない。
未知の領域というものは、それだけでも不安要因である。が、友達という未知の世界は、不安以上に期待も大きいものだった。
――彼なら、もしかすると自分のすべてを理解してくれるだろうか。
それとも、今まで出会った者たちのように「化け物」と罵声を浴びせ去っていくのだろうか。
「随分上達したんじゃないか?」
自分よりも一回り大きな手を差し出され、クレアはその手を握る。
傍らには、手から弾かれた木刀が転がっている。
それを拾うつもりはもうない。数十分に及ぶ模擬戦のせいで、かなり息が上がっていた。
「……、君には全然かなわない」
苦笑しながら立ち上がると、目の前の青年――ルカが、自分の木刀を拾う。
あまりに体力がない上に運動不足だからと始めたこの稽古も、もう何年目だろうか。
自分から興味本位で言い出した手前、途中でやめるわけにもいかずこうして稽古をつけてもらっているのだが――
魔術で多少身体能力を強化しているにもかかわらず、ルカには一度も勝つことはできなかった。
確かに、元々幼いころから剣術を習っているという彼に、数年稽古をつけただけの自分が早々かなうはずもない。おまけに腕力は悲しいほどに差があり、腕相撲では一秒と経たず負けてしまうであろう貧弱ぶりである。
これがどうにもならないことは自分でも痛いほど理解していたが、それでも最初の頃よりは多少マシなのかもしれない。
「クレアは真正面から相手に向かうより、身軽さを利用して相手の背後を取っていくほうがいいと思うよ。……実際、素早さだけで言うと俺はクレアよりも随分劣るだろうからね」
おそらく的確なのであろうアドバイスを受けながら、乱れてしまった髪を後ろに纏めて縛る。先ほどからの稽古で随分と汗をかいた気がするのに、にこやかに話を続けるルカのほうは汗どころか息切れすら起こしていない。これが実力の差、というものである。
「……まあ、いきなり君みたいになれるはずはないけれどね」
「……というより、俺みたいな戦い方をするクレアが想像できない」
そこで、双方同時に噴き出した。